第119話 あなたへの感謝
牡丹の支度が終わったので俺たちは駅へと向かっていた。もう起こってしまった事は仕方無いので前向きに考えよう。美女を独占できるなんて最高じゃん。普通はやりたくたってできない事を俺はやれているんだ。誇りに思おう。
そんな現実逃避をしながら歩いていると駅へ着いた。
「ちょっとベンチで座って待っててよ。」
「あ、切符は自分で買いますので。」
「いいから。待ってて。」
「…はい。」
まったく。牡丹がお金持ってないのわかってるのに買わせるわけにはいかないだろ。それにもう牡丹は家族みたいなもんだ。俺がしっかり養うよ。
券売機での要件を済ませて牡丹の元へと戻る。やっぱ可愛いなこの子。オーラが半端無い。あまりの美しさに近づくのを躊躇ってしまう程だ。
「おまたせ。はい。」
俺はスイカを牡丹へと手渡す。
「スイカですか…?……!これって定期じゃないですか!しかも半年分も…!こんな事をして頂くわけには…!」
「どうせ毎日俺の家に来るでしょ?それなら定期買った方が安いし便利だよ。」
「でも…!お金、払います!」
「いいから。」
「よくありません!」
「俺が勝手にやってる事だから。」
流石は伝家の宝刀、牡丹が黙ったぞ。対牡丹用にこの言葉は非常に便利だな。
「…タロウさんは優しすぎます。」
「みんなに優しいわけじゃないよ。限られた人にしか優しくはしてない。だから本当に優しいわけではないよ。」
「私はあなたに優しくしてもらうと胸が高鳴ります。もっと好きになりました。」
「好かれて悪い気はしないな。」
「ではお気持ち有り難く頂戴致します。ありがとうございます。」
「おう。じゃあそろそろ電車来るから行こうか。」
*************************
最寄駅である小山駅へ着く。するといつもの生姜焼き弁当のオッさんと鉢会う。オッさんが牡丹を見る顔が滑稽だった。そりゃあそうだろう。普通に生きててこのレベルの美少女に出会える事なんてほぼありえない。芸能人を生で見ちゃった素人って感じの顔がおかしくて堪らなかった。でもなオッさん、ウチにはこの超絶美女があと1人…いや、アリスを含めれば2人いるんだ。楓さんまで入れれば3人だ。しかもオッさんの目の前にいる美少女はなんと俺に惚れてるんだ。どうだ羨ましいか?ふふん。
そんな事を考えながら歩いているとあっという間に俺のマンションへと着いた。
「ここが俺の住んでる所だよ。」
「凄く立派なマンションですね…!タロウさんはどのようなお仕事をされているのですか?」
「俺は家庭教師だよ。」
「タロウさんは頭が良いのですね。」
「どうだろうな…英語だけは自信あるけど他は楓さんの方が絶対優れてるし微妙かもな。」
「タロウさんはどちらの大学に行かれたのですか?」
「茨城中央大だよ。」
「凄いじゃないですか…!やはり頭が良いのですね。尊敬致します。」
「でも楓さんは東大だからなぁ。」
「そうなのですか?流石楓さんです。でもタロウさんだって高学歴ではありませんか。国立中央大に入れるだけでも普通の人を遥かに超えた学力があるのですから。」
「牡丹は俺を褒めてくれるね。」
「愛しておりますから。」
「…ありがとう。あ、美波も茨城中央大だよ。」
「皆さん優秀なのですね。きっとタロウさんがそういう方を惹きつけるのですね。」
「その理屈なら牡丹も優秀って事になるな。そういえば牡丹はどこの高校なの?」
「雉ノ森学園です。」
「福島で一番の高校じゃん。牡丹は優秀なんだね。でも私立だよね?失礼な言い方になってしまうけど、学費は大丈夫なの?」
「特待生なので全て免除になっております。交通費もかかりません。」
「えっ!?特待生なの!?雉ノ森の特待生ってなかなかなれないって有名なのに凄いな。」
「中学の時に統一模試で全国5位に入ったのを評価されて特待生として迎え入れて頂きました。高校に入ってからの模試では全国3位にまで上がる事が出来ましたので特待生を打ち切られる事は無いかと思います。」
「…牡丹って凄いね。その学力なら東大行けるじゃん。」
「私は大学には行かないつもりです…国立中央大には特待生制度はありませんので。それ以外の大学には行っても然程の意味はありません。家業に尽力するつもりです。」
「いやダメだろそれは。それだけの学力があるのに勿体無いよ。学費は俺が出すから大学には行きなよ。」
「だ、駄目です!!そこまでタロウさんに甘えるわけには参りません!!」
「牡丹、学歴は大事だ。基本的に人は学歴や資格でしかその人間を見ない。いくら牡丹が雉ノ森で特待生であっても、全国3位であったとしても、高卒は高卒だ。花屋をやるにあたっても高卒と大卒とでは雲泥の差だ。ましてや牡丹は東大に行かれる可能性が高い。悪くても国立中央大のどこかには間違い無く入れるだろう。それだけの学歴を棒に振るのは正しい選択とは言えないよ。」
「でも…」
「お父さんの花屋を守りたいなら大学には行くべきだ。それが必ず牡丹の財産になる。それに言っただろ?牡丹の守りたいものを俺も一緒に守るって。だから学費は俺が払う。」
「…どうしてそんなに優しいんですか?」
「それは簡単だよ。だって『俺が勝手にやってる事だから』」
「……」
「バレバレです。」
「もうお約束だな。」
「…良いんですか?甘えてしまって?」
「おう。甘えてくれ。」
「…わかりました。全力で甘えます。宜しくお願い致します。」
牡丹が深々と頭を下げる。
「おう。さてと、それじゃあ早く部屋行こうか。腹も減ったし。」
「はい。私もお腹が空きました。」
俺たちはエレベーターに乗り最上階までワープし、家に帰って来た。
「ただいまー。」
室内に入るといつも通りキッチンから美波とアリスが飛び出して来た。
「おかえりなさ…牡丹ちゃん!!」
「牡丹さん、こんばんは!」
美波とアリスは牡丹を見ると好意的に出迎えてくれる。
「皆さんこんばんは。」
「えっと、今日から牡丹もここで暮らす事になったんだけどいいかな…?」
「本当ですかっ!?わっ!もっと楽しくなりそう!」
「本当ですね!」
良かった。反対意見は出なかったようだ。そうだよな、美波とアリスに限ってそんな事が起こるわけないか。
「今日から宜しくお願い致します。仲良くして頂ければ幸いです。」
「牡丹ちゃん、よろしくねっ!」
「よろしくお願いします、牡丹さん!」
「玄関で立ち話もなんだし、とりあえず上がろうか。」
「はい。お邪魔します。」
俺たちはダイニングへと移動すると美味そうな匂いがしてくる。あ、牡丹の分って用意できるかな。
「美波、牡丹の分って用意できる?」
「明日のお弁当の分まで作ってますので大丈夫ですっ!今日は天ぷらですよっ!」
「流石は美波。牡丹は天ぷら大丈夫?」
「大好きです。ありがとうございます。ご馳走になります。」
「そんなかしこまらないでいいよ。もう牡丹の家なんだから家の物は好きに使って。飲み物でも食べ物でも家にあるものは自由に。遠慮するのは家族じゃないからそのつもりでな。」
「そうだよ。タロウさんはお茶の葉とかもたくさん集めてるみたいだから珍しいお茶も飲めるからっ!」
「それは楽しみですね。わかりました。では遠慮はしません。」
「じゃ、牡丹の歓迎会を込めて食べようか。」
*************************
牡丹の歓迎会も終わり風呂にも入って俺たちは床についている。女子たちは3人で風呂に入っていた。そのキャッキャしてる時の声が俺には堪らなかった。
『わぁ…!牡丹ちゃんの胸大っきいんだね…!』
『恥ずかしいです…美波さんも凄く形が綺麗ですね。』
『そ、そうかな?』
『2人とも大人で羨ましいです…私はやっと少しだけ膨らみが出て来たぐらいで…』
『アリスちゃんはこれから大きくなるよっ!』
『そうですよ。アリスちゃんも中学生になれば女性らしい身体つきになっていきます。心配しないで下さい。』
『そうでしょうか…?』
『大丈夫ですよ。健康的な食生活をおくっていけば必ず成長します。』
『わかりました!頑張ります!2人みたいに魅力的な身体を目指します!!』
ーーてな会話を聴いてたけどさ…もう堪らんよね。ビンビンでしたもん。溜まってるから90度って感じでしたもん。
それにさ…結局このフォーメーションじゃん。牡丹も含めて4人で同じ部屋に寝てんだよ。左には牡丹、右にはアリス、その隣に美波だ。3人で相談してローテーションで寝る場所を変えるらしい。俺を中心にね。俺は真ん中から動く事は許されないらしい。つまりは処理する為にトイレまで行くのも茨の道のいうわけだ。なんとかこの部屋を脱出しなくてはならない。今日こそは絶対にヌキヌキする。もう我慢の限界だ。そしてオカズは…楓さんではなく牡丹にする事にした。だってさ、俺に惚れてるわけだからさ、色々と妄想できるじゃん。
『なんだ牡丹、保健体育の成績が悪いじゃないか。』
『す、すみません…頑張ってはいるのですがよく分からなくて…』
『仕方がないな。今から特別レッスンをするぞ。』
『と、特別レッスンですか…?』
『その身体にしっかりと教えてやるからな。』
『だっ、駄目です…!!あ…』
みたいなさ!!妄想できまくりじゃん!!
ぶっちゃけ牡丹は俺のお願いなら何でも聞いてくれそうだもん。こんな美少女が俺のお願い何でも聞いてくれんだよ?そりゃあオカズにするでしょ!!楓さんは明日にしよう。今日は牡丹!絶対牡丹!!さっき写真も撮っといたし。隠し撮りじゃないよ?みんなで撮ったやつをトリミングしたんだよ。ぶっちゃけ美波のもトリミングしたやつあるよ?まだ使ってないけど。
そんな事よりも早く牡丹に特別レッスンをしなければ。もう我慢できん。
俺は前回の反省を活かし、流れるような流水の動きでスマホを取って寝室を出た。前回俺に足りなかったのはスピードだ。俺は何度もスマホを取る素振りをして今日に臨んだんだ。この日のこの時の為だけに。
俺はウキウキで股間を膨らませながらトイレへと向かおうとする。
ーーここで俺に戦慄が走る。
背後からドアノブが回る音が聴こえる。俺は反射的に振り返る。するとそこにいたのは牡丹だった。何で牡丹がいるんだ。ま、まさか…俺が牡丹でエロい妄想してるのがバレたのか…!?保健体育の特別レッスンをしようとしてたのがバレたのか!?それはマズイぞ。何とか誤解を解かねばならん。第一声が大事だ。それで命運が決まる。
ーーそんな情けない事を考えていると牡丹から口を開く。
「どちらへ行かれるのですか?」
…どうしよう。何て答えよう。トイレで牡丹をオカズにヌキヌキしますなんてどんな拷問されても言えるわけない。とりあえずは誤魔化そう。
「と、トイレかな?」
何で疑問文なんだよ!?キョドってんじゃねぇよ!!
「そうでしたか。スマホを持って行かれましたのでどちらかへお出かけなのかと思いました。」
…全部見られてたのか。
「…牡丹は寝てなかったの?」
「タロウさんより先に眠るわけには参りません。タロウさんがお休みになられてから私は休みます。」
大正時代かよ!?牡丹は真面目すぎるのが長所でもあり欠点でもあるな。
「そんな事しなくていいんだよ。別に俺は牡丹のご主人様でも何でもないんだから。対等な家族みたいなもんだろ?だから自由にしなよ。」
そうだ。俺が寝るまで起きてられたんじゃヌキヌキできなくなってしまう。牡丹たちにはいち早く寝てもらわないと。
「わかりました。本当にタロウさんは優しいです。」
「そんな事ないよ。当たり前の事だよ。」
「タロウさん、改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。タロウさんのお陰で私は今ここにおります。タロウさんがいなければ私は今頃あの男たちに肉欲の限りを尽くされておりました。好きなだけ身体を弄ばれ、陵辱され、女としての尊厳をズタズタにされていたでしょう。それが本来の私の未来でした。ですが…その未来とは対照的にこんなにも幸せな日を過ごす事が出来ました。みんなでご飯を食べ、美波さんとアリスちゃんと一緒にお風呂へ入り、みんなで一つの部屋で寝る、とても心地良い時間です。私は…幸せです。それもこれもタロウさんのお陰なんです。あなたが私を救ってくれたからこの未来へ辿り着けた。本当にありがとうございます。」
俺は初めて牡丹の心から笑っている顔を見た。最初に感じた儚さや悲壮感といった類のものはもう無い。年相応の少女の顔になっていた。
「牡丹は笑った顔が可愛いな。」
「えっ…?」
「その顔が曇らないように俺も頑張るよ。いや、曇らせない。」
「…そういう事を言うのは狡いと思います。」
「あははは。さて、じゃあ寝るか。」
「お手洗いはよろしいのですか?」
「うん、今日はいいや。牡丹に悪いし。」
「…?」
今日はやめた。こんな牡丹をオカズにするなんて凄い悪い気がする。今日は牡丹と一緒に寝てしまおう。そう思い俺は眠りについた。
ーーだが翌日俺はその決意が早くも崩れ去る出来事が起こる事をまだ知らない。
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