第118話 告白

ーー誰かの声が聞こえる



ーー知ってる声だ



ーー美波…では無い



ーー楓さん…でも無い



ーーアリス…も違う



ーー牡丹…でも無い



ーー誰だ…わからない…



ーーそれに何だか寝心地が良いな



ーー天国にいるような…そんな感じだ



ーー良い匂いもする



ーーあれ…?この匂いは…知ってる



ーー花の香りだ




そう理解した所で目が覚めた。すると俺を見つめる牡丹と目が合う。見つめるというか見下ろすというのが適切だ。何で見下ろされてるんだ…?

ここでようやく理解が追いつく。膝枕だ。牡丹に膝枕してもらってる。


「…俺、何やってんの?」


牡丹にそう尋ねると優しい顔で俺の頭を撫でながら喋り始める。


「リザルトが終わるとタロウさんは寝てらっしゃったので僭越ながら膝枕をしておりました。」


良かった、俺が寝ぼけて牡丹に襲いかかったわけじゃなかったのか。それにしても寝心地最高なんだけど。

てかさ…やっぱ牡丹って胸大きいよね。この角度だと迫力が伝わってくるもん。やばいな息子が反応しそうだ。早く起き上がろう。


「そっか、ありがとう。良い気持ちで寝れたよ。」


俺はそそくさと起き上がる。何とか息子が反応する前に前かがみになる事ができた。ふぅ…危ない危ない。


「いつでも言ってくだされば膝をお貸ししますので気兼ね無く言ってくださいね。タロウさん専用の膝ですので。」


…どういう意味だろう。俺専用って…何?

あ…アレか…?俺に気を遣ってんのか…恩義を感じて牡丹ができる精一杯の事をしようとしてるんだな。よっしゃ、ここはちゃんと言っておく必要があるな。


「牡丹。」


「はい、あなたの牡丹です。」


「俺に気を遣う必要なんて無いんだよ。あのお金は前払いなんだから。だからそれについて俺に恩を返そうとしなくてもいいんだよ。普通にしてていいんだから。だから気を遣わないでよ。」


よし、いい事言ったぞ。これで牡丹も俺へ恩を返そうと躍起になる事も無くなるな。


「気を遣う…ですか…?すみません、気など遣ってはおりませんが…?」


「え?」


「当たり前の事ですがタロウさんへの恩義は計り知れません。足を向けて寝る事など出来ない程です。ですが気を遣う事などはありません。私は私の想いの通りに行動しているだけです。」


「え?気を遣ってないの?」


「はい。」


「じゃ、じゃあ俺専用って…何…?」


「タロウさんにしか膝枕をしないからです。」


「そ、それってさ、どういう意味…?」


「イベントへ行く前に申しましたように、私の身も心も魂もあなたのものだからです。」


それってさ…アレ…だよな…そうだよな…?童貞の勘違いとかじゃないよな…?

聞いちゃう…?思い切って聞いちゃう…?聞いちゃうか。その方がスッキリするし。よ、よし!


「…ごめん、俺ってさ、感が鈍いというか理解力が無いんだよ。だからさ、的外れな事聞いて牡丹の気分を害しちゃうかもしれないけど…聞いてもいい…?」


「もちろんです。どんな質問にもお答え致します。」


「そ、そっか…自惚れじゃなければさ…もしかして…牡丹って…俺の事…好き…?」


「はい。」


即答かよ!ま、マジか!?いや待て!!ライクの可能性がある!!落ち着け!!ちゃんと聞け!!


「…アレだよ?ライクじゃない方だよ…?」


「はい、あなたを愛しております。」


…マジか?マジなのか…?こんな超絶美少女の牡丹が俺を好きなのか…?ライクじゃなくてラブだというのか…?マジでか…!?え…?やばくね…?俺、勝ち組じゃん。こんな世界に数人しかいないレベルの美人が俺を好きなんだよ?やべーなオイ!!とうとう暗黒魔道士を卒業か!!くぅー!!!

…いやいやいやいや。待て待て。やばい違いだろ。牡丹は17だぞ。犯罪じゃん。手出したら終わりじゃん。ブタ箱行きじゃん。アリスはどうするんだよ。保護者いないとまた叔母行きになるだろ。それは避けねばならない。そもそも牡丹は俺の年齢知らないからだろ。俺は見た目だけは若く見える…不細工だけど。それを知らないからそんな呑気な事を言えるんだ。仕方がないが牡丹の目を覚まさせてやるか。


「…あのさ、牡丹は俺の歳を知らないから言えるんだよ。俺は34だよ?オッさんだよ?牡丹の倍だよ?」


「そうなのですか?凄く若く見えますね。ですが歳なんて些細な問題だと思います。私は何も気にはしません。」


…マジかよ。いいの?牡丹がいいんならいいんじゃね?この巨乳を俺の好きに出来るのか…牡丹の花弁を探しちゃっていいわけなのか…

…いやいやいやいやいやいや。待て待て待て待て。俺の歳は良くても牡丹の歳がマズイ。犯罪なのは変わらない。アリスが路頭に迷ってしまう。それに牡丹は勘違いしてるんだよ。吊り橋効果的なアレだろ。助けてもらったから美化しちゃってんだよ。よっしゃ、そこんとこビシッと言ったるか!


「…あのね、牡丹の気持ちは嬉しいよ?でもさ、牡丹は俺を美化してるんだよ。俺は大した奴じゃない。牡丹は俺に助けてもらったから好きって勘違いしちゃったんだよ。吊り橋効果みたいなもんだよ。」


「いえ、それは無いですね。私のあなたへの想いはそのような軽い気持ちではありませんし、未来永劫変わる事はありません。それにタロウさんは支配下プレイヤーを解放されました。しかもその相手の方は凄く綺麗な方と聞きました。普通なら自分の欲望のままに好きにしようとするはずです。それをあなたはしなかった。そんな素晴らしい方が大した奴じゃ無いはずがありません。」


…あれー?言いくるめられちゃったぞ。

…てかもうさ、別にいいんじゃね?お互い同意なら犯罪になんないんじゃね?付き合うって事は結婚するわけだし、それなら純愛だもんな。て事は牡丹の雌しべをアレしてもいいわけか。

…いやいやいやいやいやいやいや。待て待て待て待て待て待て。絶対やばい気がする。俺の第六感が何だか大変な事になるぞって警告してる。これはガツン言ったらなアカンで。おっしゃ!言ったるで!!


「あのね、アリスいるでしょ?俺さ、アリスを引き取ったんだよ。」


「どういう事でしょうか?」




ーー俺は今までの経緯を牡丹に包み隠さず話した。





「ーーて、わけなんだ。だから俺はアリスを大人になるまで育てないといけないんだよ。だからーー」


ここで俺は牡丹が泣いている事に気づく。その宝石のような綺麗な瞳からポロポロと涙が溢れている。


「ど、どーしたの!?」


「…いえ、とても感動しました。タロウさんは本当に素晴らしい方です。あなたのような方と出会えた事を誇りに思います。より一層私はあなたの事を好きになってしまいました。」


…アカン、悪化してしもうた。どうしよう。

いや…まだだ、まだ慌てる時間じゃ無い。


「いや、だからさ…牡丹の気持ちには…」


「わかりました。」


「お!良かった、わかってくれたか。」


「つまりはアリスちゃんを私たちの子として考えろという事ですね。」


「俺の話ちゃんと聞いてた!?」


…仕方無い。もうハッキリ言うしかないか。勿体無いけど…アリスの為だ…犯罪者になるわけにはいかない…心を鬼にしろ田辺慎太郎!!!


「残念だけど牡丹は未成年なんだよ。俺が牡丹に手を出しちゃったら犯罪者になってしまう。それはダメだろ?」


「それは駄目ですね。」


「だろ?だから俺は牡丹の気持ちにはーー」

「大丈夫です。わかっております。」


…絶対わかってないよな。


「…何がわかってるのかな?」


「私が未成年だから気持ちには応えられないのですよね?」


「そうそう!」


良かった、わかってくれたか。勿体無いが仕方無い。牡丹の花弁の確認や俺の雄しべと牡丹の雌しべを受粉させたりしたかったけど我慢しよう。


「つまりは成人すればよろしいのですよね?」


「そうそう!…え?」


「法律的には仕方ありませんね。あと一年我慢します。その間にタロウさんの身も心も魂も、私に振り向かせてみせます。それならば何の問題も無いはずです。」


「…いや、本気なの?」


「はい。私にはあなたが全てです。この気持ちに嘘は吐けません。気持ちに応えて頂けなくても私の全てはあなたのものです。」


…マジなんだな。それなら俺も真剣に考えないといけない。理由づけはやめよう。


「…わかった。それならもう何も言わないよ。」


「ありがとうございます。頑張ります。」


それだけ本気の気持ちをぶつけられたら何も言えない。まさかこんな美少女に告白されるとは思わなかったな。ま、でもきっと一年後には俺への気持ちは冷めてるだろ。若いうちはそんなもんだ。恋に恋してるんだよ。


「では参りましょうか。」


「え?どこに?」


「タロウさんのお家ですが?」


「え?なんで?」


「一緒に暮らすからですが?」


「な、なんで!?」


「美波さんも一緒に暮らされているのですよね?それに楓さんも近々いらっしゃるとの事。それならば私も一緒に暮らしても問題は無いかと思います。女性が4人も暮らしているのならタロウさんに迷惑もかからないですし。最悪の場合、楓さんは弁護士の先生なのですからどうとでもなります。」


「いやでも…」


「制服や着替えを持って参りますのでしばらくお待ち下さい。」


「あ、はい。」


そう言って牡丹は部屋の奥へと消えていった。


「なんか圧があるから何も言えんかった。牡丹ってあんな顔しておいて押しが強いよな。はぁー…牡丹まで増えたら俺はどこで処理すりゃいいんだよ…生殺しかよ…」



ーーだが慎太郎は気づいていない。美波も楓もアリスも同じ気持ちだという事を。


ーーそしてこの後に待ち受ける彼女たちのアピール合戦に四苦八苦する事を慎太郎はまだ知らないのであった。

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