第109話 吹っ飛ばします

両手持ちで握られたゼーゲンを大斧男へと叩きつける。肉の切れる感触をもう何度味わった事か。仮初めでは無い確かな手応え、それを何度も感じて来ているがこの男が絶命する事は無い。死へと誘う程のダメージを負っても瞬時に回復し、全てを無かった事にしてしまう。この男に与えられた異能とも言うべきその能力が俺を苦しめていた。仮面の男たちとの終わらない演舞、それがあとどれぐらい続くのだろう、終わりはあるのだろうか、そう考えるだけで俺の戦意は喪失しそうになる。だが折れるわけにはいかない。俺の命は俺だけのものでは無い。3人の人生を背負ってるんだ、死んだって負けるわけにはいかない。


「うおらァァァァァ!!!!」


『ガルァァァァ!!!』


対してチェンソー男には未だ一撃足りとも攻撃を喰らわせていない。動きの鈍い大斧男と違って非常に機敏だ。移動速度はアルティメット級と言っても過言では無い。加えて死の圧力を備えているチェンソーによる攻撃だ。ホラー映画やホラーゲームに慣れている者ならチェンソーの音が恐怖感を煽るものとして感じ取れる者もいるだろう。それによる死のイメージがついているのでどうしてもその音に反応してしまう。その為チェンソー男に対しての意識が過剰になってしまう。それでは駄目だ。もっと極限まで擦り減らした戦いをしなければチェンソー男に一撃を入れられ無い。



行け、やれ、ビビるな!!!



「うおおおおオォォォ!!!」



チェンソーによる一撃を捌かずに身を斜めにして強引に躱す。それにより一瞬、ほんの一瞬だけチェンソー男に隙が生まれる。俺はそれを見逃さなかった。全身全霊の一撃をチェンソー男に叩きつける。


「これで終わりだァァ!!!」


チェンソー男の左の肩口から斜めにバッサリと両断する。男の上半身は重力に抗うこと無く床へと落ち、指令を与える器官が無くなった事により下半身もだらしなく崩れ落ちた。


「はあっ…はあっ…これで1体…あとは…テメーだけだよ大斧野郎…!!!」


俺は大斧男へ向けてゼーゲンの剣先を合わせる。挑発的な態度に知性の無いコイツが乗るかはわからないがちょっとしたカッコつけだから別に構わない。


『イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!』


依然として大斧男は気味の悪い奇声を発している。


「コイツをどうやって倒すかが問題だな。不死身ってわけじゃないだろうが再生するのをどうやって倒せばーー」


ーー背後から聴こえる。


ーー機械のエンジン音みたいな嫌な音が。


ーーその音に心臓が止まりそうになる。



「…どっちも不死身とかキツすぎだろ。」





*************************





終わりが見えない。どれだけ彷徨って見ても何も見つからない。どうすればここから出れるのか検討もつかない。ただ焦りと暑さだけが増すばかりだ。



「何だか…さらに暑くなってませんか…?」


「体に纏わりつくような暑さだよね…」


「アリスちゃん、ちゃんと水分は摂取しないとダメだからね。私と美波ちゃんよりも数段体力が落ちるんだから生死にかかわるわ。」


「はい!」


「それとお弁当に入っていた梅干しも一緒にね。水だけだと塩分とミネラルの濃度が下がってかえって具合が悪くなってしまうから。」


「わかりました!」


アリスちゃんは私の言う事を素直に聞いて梅干しを頬張る。その姿はとても可愛い。


「それにしても終わりが見えないわね。ここから出る条件ってなんなのかしら。」


「先程のフェルトベーベルとも遭遇しなくなっちゃいましたもんね。何だか隔離されているみたい。」


美波ちゃんが言ったそのワードに戦慄が走る。背中を冷たい汗が流れ伝う。嫌な…本当に嫌な予感がする。それを理解してしまった事がとても恐ろしい事に感じてしまった。


「…隔離…されたんじゃないかしら…」


「えっ?」


「前回のバディイベント同様に誰かの手が介入するような事態に陥ってしまったと考えれば説明がつくわ。その誰かは私たちを快く思っていない。いいえ、負けさせようとしていたのだから介入して来ても不思議では無い。」


私の言葉に2人の顔が青ざめていく。


「で、でもどうして私たちを隔離するんですか!?大量の敵を充てがうのならわかりますけど…」


「クランリーダーを倒せばメンバー全員の負けになるからよ。」


「ですがツヴァイは前回のリザルトでもうこんな事にはしないと約束したんですからそれは無いんじゃ…?」


「…ツヴァイも想定外の事態だとしたら?その誰かさんは間違いなく運営側の幹部。だが前回のバディイベントで私たちを仕留め損ねた事で企みが露見してしまった。恐らく左遷したんじゃないかしら。それによって起死回生の一手を予め狙っていた。又は念の為にこのイベントまでは仕掛けをしておいた。それなら辻褄は合う。」


「そんな…!それじゃあ私たちは…」


「クランが規定の数まで減るか、『???』を誰かが倒すか、それしか無い…」


「でもっ…!!まだわからないじゃないですかっ!!諦めちゃーー」

『いや、そのカエデの言う通りだ。』


私たちの背後から声がするので一斉に振り返る。するとそこにはノートゥングが立っていた。


「の、ノートゥング!?どうしてあなたが!?」


『ククク、久しぶりだな我が友よ。』


凄いドヤ顔をしているが口元が緩んでいる。余程美波ちゃんと友達になったのが嬉しいみたいね。


「あ、うん。そんな嬉しそうな顔しながら友とか言われると私も照れるじゃない。」


『むっ…?妾は照れてなどおらん。』


「はいはい。だから何であなたがいるの?私は召喚してないわよ?」


『フッ、妾をそんな律で縛る事などできぬ。妾は出たい時に出る。』


「ある意味すごいわよねそれ…って、そうじゃなくて!楓さんが言う通りってどういう事!?」


『この密林の中に結界がかかっておる。間違い無くお前たちは隔離されている。』


「そんな…なんとかできないの!?ノートゥングならどうにかできるんじゃない!?」



『ふむ。手はある。』


「「「あるの!?」」」


手があると聞いた私たちはノートゥングへと詰め寄る。凄まじい圧を感じたのだろう。流石のノートゥングもたじろいでしまう。


『あ、ああ。お前たちをここへと留めている術者がおるはずだ。其奴を殺せば結界は解ける。』


「ウフフ、なんだ、そんな簡単な方法があるんじゃない。」


『意外と一筋縄ではいかぬかもしれんぞ。この結界がどの程度の広さかはわからんからな、見つけ出すのは容易では無い。』


「ウフフ、そんなのどうでもいいわ。時間が惜しいもの。」


『何?』


ーー私は金色のエフェクトを発動させブルドガングを召喚する。

ブルドガングは不満そうな顔をして私を見ている。私の考えが彼女に伝わったのだろう。


『…カエデ、アンタ無茶苦茶するわね。』


「時間が無いの。お願い。」


『はあ…乙女ね。わかったわよ。』


楓からブルドガングへと身体の所有権が移る。彼女たちがやろうとしている事、それは、


『おい、剣帝。まさか貴様…』


「そのまさかよ。」


「え?何をするの?」


「なんか私、凄い嫌な予感します。」


『此奴らは奥義で結果ごとここを吹っ飛ばすつもりだ。』


「えええっ!?」


「やっぱり。」


「さ、離れてなさい。四方八方にブッ放して術者ごと吹っ飛ばしてやるから。」


極限にまで高まった金色のエフェクトを刀身に纏わせたブルドガングの奥義が発動した。

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