第110話 閃光

ブルドガングが文字通り四方八方に奥義をぶっ放した事によりエリアの崩壊が始まる。木々が倒れ、空からはガラス片のようなものまで降り注いでいる。


「うわわわわ…!!」


「ちょ、ちょっとやりすぎじゃないの!?脱出する前に私たちが死んじゃうわよ…!!」


『ふむ。倒壊が始まったという事は術者に直撃したのだな。流石は剣帝、見事だ。』


「呑気な事言ってる場合じゃないわよっ!!」


『やれやれ。我が友は心配性だな。どれ、身体を貸せ。妾がアリスを連れて脱出してやる。』


「え?いいの?」


『当然であろう。妾たちは親友なのだから。』


口元を緩ませながらドヤ顔をしているノートゥングに対して美波は『可愛い』と一言だけ思って身体の所有権を明け渡した。


「どれ、アリスよ。暴れるでないぞ。」


ノートゥングはアリスの腹を抱える。


「は、はい!お願いします!」


「剣帝、貴様も脱出できる体力は残っているんであろうな?」


「あったりまえでしょ。倒壊が激しくなってきたからさっさと脱出するわよ!」


3人が崩れゆく密林を颯爽と駆け抜ける。速度を落とす事無く落下物を躱しながら駆け抜ける様は見事だ。迷い無く走ってはいるが、どこが脱出口なのかは恐らくノートゥングもブルドガングもわかってはいない。だが感覚というか本能で理解しているのだと思う。こっちが正解の道だと。

そして彼女たちは見つける。脱出する為の扉を。


「ふむ。アレだな。」


「そうね。シンタロウのいる黒の家に繋がってればいいけど。」


「うぅ…繋がってますように…!!」


彼女たちは扉を開け密林からの脱出に成功する。そして密林を抜けた先にあったのはーー



「ショッピングモール…ですか…?」


「ぽいわね。」


「ここも空間が隔離されているな。どこかに行き来する為のゲートがあるはずだ。」


「そうね。とりあえずアタシたちの役目は終わりよ。カラダが消えかかってる。」


「そうだな。」


「じゃあアリス、気をつけるのよ。この空間に敵はいないけど移動した先に強敵がいるかもしれない。慎重にね。」


「はい!わかりました!」


「カエデによろしくね。またね。」


ブルドガングとノートゥングから楓と美波に身体の所有権が戻る。


「…上手く行ったみたいね。」


「…そうですね。」


「2人ともお疲れ様です!」


「ウフフ、お疲れ様アリスちゃん。」


「お疲れさまっ!でも楓さん無茶するからビックリしちゃいましたよっ。」


「ごめんね。急がなきゃって思ったらつい。」


「気持ちはわかります。タロウさんが心配ですもんねっ。ちゃんと近づけたのならいいですけど…」


『そうだな。』


「うん…うん?え?ノートゥング…?」


『どうした我が友よ?』


「だっ、だからどうしてあなたは自由に外に出てるのよっ!?」


『ふん。妾はおとなしく聖符に入っているという契約はしておらぬからな。』


「またドヤ顔して…使用回数減ったりしてないでしょうね。」


『安心しろ。”憑依”しない限りは回数は減らん。』


「それならお得かな?」


なんかこの2人凄い良いコンビよね。


「探索を始めましょうか。タロウさんの元へ急ぐわよ。」







*************************






「はあっ…はあっ…はあっ…キリがねえぞ…!!」



幾度となく仮面の男たちを斬りつけてはいるが戦いの終わりは見えない。斬っても再生、刺しても再生、斬り落としても再生する。永続的に再生し続けるとは思わないが先の見えないマラソンバトルは精神的プレッシャーが半端無い。何より俺の体力の方が先に底をつきそうだ。今は一旦物陰に隠れて体力の回復を図ってはいるがアイツらも回復してたらイタチごっこになってしまう。


「参ったな…バルムンクさん呼ぶしか無いか…?でもまだ3階だぞ…こっから先どうすんだって話になるぞ…」


「奥の手があんのか?なら使っちまえよ。」


突如として背後から声がするので仰け反ってしまう。振り返ると居たのは優吾だった。


「ゆ、優吾かよ。脅かすなよ…」


「悪い悪い。でも奥の手があんのか?」


「…まあな。だがこの上にも階層があるんならアイツら以上の敵がいるかもしれない。回数制限あるからできれば使いたくねーんだよ。」


「なんだそんな事か。それなら安心しろ。この上で終わりだよ。」


「…は?」


「5階から先は行けないんだよ。だから4階で終わりなんだ。」


「何でそんな事知ってんだ?」


「運営からのメッセージに書いてあったんだよ。4階の実験場を制圧すればクリアって。」


「もっと早く言えよ!!俺めちゃくちゃ頑張ったの馬鹿みてえじゃねぇか!!」


「お、おう。すまん。」


「まったく…ならやるか。とっとと終わらせちまおう。優吾は離れてろよ。」


「わかった!慎太郎、負けんなよ!!」


優吾が俺から距離を取って隠れる。




「…カッコつけようと思ったんだけどダメだったわ。」


『フフ、そんな事はないさ。シンタロウの格好良い所を我は特等席で観ていたぞ。』


「いつもバルムンクに頼ってばっかりでごめんな。普通は男が女を守らなきゃいけないのに。」


『その気持ちだけで十分だ。主が出来ぬ事は我がやればいい。我が出来ぬ事はシンタロウがやってくれ。』


「お前に出来ない事なんてあんの?」


『あるさ。我は不器用だからな。』


「そっか。バルムンクの為なら何だってするよ。命だって捧げてやる。」


『フフ、嬉しい事を言ってくれる。では参ろうか。』


「ああ、頼んだ。」


ーー慎太郎からバルムンクへとカラダの所有が移る。



『イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!』


「ふむ。気味の悪い奴等だな。こういうのを『きもい』というのだな。すまんが我も一応女なのだ、気味の悪いモノは好かん。速攻で終わらせてもらおう。」


バルムンクが握るゼーゲンの刀身に蒼白い光が纏う。


そして金色のオーラが輝きを強め、奥義を発動する。


「全ての剣の先に我は在るーーブラウ・シュヴェーアト!!」



殺戮場一帯に蒼き閃光が放たれたーー

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