第107話 殺戮場
俺はエスカレーターを昇り2階の渡り廊下まで戻って来た。耳を澄ませたり気配を探ったりしてみるが仮面の男の気配は感じられない。それに1階の焼却場ではあれだけ死体が燃えているのにここにはその煙も来ていなければ臭いも無い。やはり俺の予想が当たっているのだろう。
「3階は殺戮場なんだから絶対さっきのデブいるよな。大丈夫だよな、勝てるよな。いざとなったらバルムンクに何とかしてもらおう。」
仮面の男が何なのかわからない以上は油断ならないがバルムンクさんが負ける未来は視えない。気持ちを強く持って挑もう。
俺はエスカレーターに乗り3階へと昇っていく。
ーー3階に着いた瞬間に凄まじい殺気と気配、叫び声や雄叫びが聞こえる。
『ゲギャギャギャギャ!!!』
『イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!』
『いやァァァァァ!!!助けてェェェ!!!』
血の匂いがこのフロアには立ち込めている。下のフロアとは180度違う光景に一瞬怯んでしまった。だがすぐに気を取り戻して声のする方へと走り出す。
見える風景は相変わらずの白一色だが赤黒い返り血が所々にあるのがまた狂気を煽る。音のする方へ向かうに連れて床に肉片やら剣や槍の破片が散乱している。
声のする場所へ着くと先程の大斧を持った仮面の男と、もう1人チェンソーのような物を持った同じ面を着けた男が女を掴みあげていた。
「いやだァ!!!誰か…!!!助けて!!!」
『ゲギャギャギャギャ!!!』
『イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!』
俺はゼーゲンを鞘から引き抜き女を助けようと仮面の男たちへと向かって行こうとする。
だが、物陰から手が伸びてそれを阻止される。
「ーーッと!!誰だ!?」
「静かにしろ!いいからこっち来い!」
「は!?そんな事やってる場合かよ!?あの女がーー」
「あの女はもうダメだ!お前も死にたくなければ態勢を整えろ!あの女はアルティメット持ちであのザマなんだぞ!!」
「アルティメット…だと…?」
「そうだ。冷静になれ。アルティメットがやられる相手に策も無しに突っ込めば死ぬだけだ。」
俺は女を見るがもう時すでに遅しだ。女の悲鳴は無くなり完全に沈黙している。四肢を毟られ出欠多量により絶命したのだろう。そしてその魂が無くなった女の身体をチェンソーを持った仮面の男による屍姦が始まる。それを大斧を持った仮面の男が狂ったような笑い声を上げながら眺めている。地獄のような光景だ。
「くっ…!!すまない…助けられなかった…」
「気持ちはわかる。でも自分が生き残る事を考えるしかない。とりあえず身を隠せ。」
俺は物陰へと隠れる。
「アンタはいつからここに?」
「俺は四ツ倉優吾だ。優吾って呼んでくれ。よろしく。」
優吾はスポーツマンタイプの爽やかそうな男だ。歳は27ぐらいだろう。ぱっと見頼りになりそうな雰囲気がある。
「俺は田辺慎太郎だ。よろしく。」
俺たちは簡単な挨拶を済ませ、それから優吾は俺の問いに答える。
「…いつからか。まだ時間にして1時間も経ってはいない。俺は3人のメンバーと3階に上がって来た。その時には5組28人のプレイヤーたちがアイツらと戦っていたんだ。」
「28人…相当な数だな。」
「…だがほんの数分でそいつらは全滅したよ。殆どがSS持ちの連中だったのにアイツらに傷をつける事もできなかった。」
「数分で…?そんだけの数がいて傷もつけられなかったのか?」
「ああ…だから俺たちのクランは手を出さなかった。逃げに徹する事にした。だがチャンスが生まれた。大斧を持った方の奴が死体を持って下に降りて行きやがったんだ。」
そうか、焼却場に持って行ったんだ。この殺戮場で殺したプレイヤーを焼却場で燃やすって事か。
「1体なら勝てるかもしれないと思って俺たちは総攻撃をチェンソーの奴に仕掛けたんだ。でもそれが甘かったよ…俺たちは瞬殺された。みんなSSを2枚使える程の実力だったんだけどな。」
SSを重ねがけして歯が立たないなんて相当な強さだ。アルティメット以上の力なのは間違い無い。
「命からがら撤退できた俺は惨めたらしく1人でここに隠れていた。その間に現れたのがあの女ともう1人男のペアだ。両方ともアルティメット使いだったから善戦はしているように見えたが男の方がやられると連携が取れなくなり現在に至るってわけだ。アイツらは強い…強すぎるんだ…!」
「優吾、その2人はアルティメット使う時に魔法陣出してたか?」
「魔法陣…?いや…そんなものは出てなかったな…金色のオーラを纏って戦っていただけだったはずだ。」
「なるほど、強化系か。」
「強化系…?」
「系統があるんだよ。強化系なら基本的にはそれのみだとそんなに強くは無い。いくらアルティメットとはいえ負けても不思議ではない。」
「そうなのか…だがアイツらが強い事には変わりはないぞ?アイツらを倒さない事には上に進む事も下に戻る事もできないんだ。」
「そうなのか?」
「ああ…下に降りようとしたんだかエスカレーターが作動しなかった。そしてその直後に運営からメッセージが入ったんだ。『フロアボスを倒さないと進む事も戻る事も不可となります。』ってな。」
「ふーん。アレがフロアボスって事か。とにかく倒さないとダメって事ね。」
「おい慎太郎、まさかお前…アイツらと戦うつもりじゃないだろうな?」
「そうだけど?」
「やめとけって!アルティメット持ち2人でも負けたんだぞ!?ここでおとなしくイベントが終わるまで待とうぜ!」
「悪いけど俺はクランのみんなと合流しなきゃならない。この商業施設だけがエリアじゃないんだろうから他の場所で苦しんでる可能性がある。ここで呑気に逃げてるなんてできねーよ。とっととここを突破してみんなと合流する。邪魔する奴は叩き潰すだけだ。」
「冷静になれって!お前のクランの奴らも死んでるかもしれないだろ!?」
「それは無い。そんなヤワな子らじゃない。必ず俺を探してるし待ってる。だから俺も行かなきゃならない。ま、お前はここに居ろよ。色々情報ありがとう。」
「あっ、おい!!」
俺は優吾を残して仮面の男たちの前に姿を現わす。
行為に及んでいた仮面の男たちが俺に気づき武器を手にしながら立ち上がる。
「助けられなくてごめんな。下に居るあなたのパートナーの元へ必ず俺が連れて行くよ。少しだけ待っててくれ。」
『ゲギャギャギャギャ!!!』
『イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!』
仮面の男たちが奇声を上げながら俺に目標を定める。
「調子に乗ってんなよ。俺がその人の恨みを晴らしてやる。覚悟しろよ変態野郎。」
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