第106話 焼却場
「おらァァァ!!!」
肩に担いだゼーゲンを斜めに振り下ろしSS級のゾルダートを両断し戦闘は終結した。現段階までに遭遇したゾルダートは30体を突破したが特に苦戦する事も無ければ体力を消耗する事も無く楽に勝利を収める事に成功している。ここまでゼーゲンの力が凄まじいものだとは知らなかった。
「やべーな。俺史上、最高の強さを誇ってるぞ。ここにウチの綺麗所が誰も居ないってのが残念だな。」
もしここにウチのクランが誇る綺麗所が居れば、
『た、タロウさんカッコいいですっ!!私の事抱いて下さいっ!!』
とか、
『素敵!あなたのような頼れる男性に私の身体の弁護をして欲しいです!』
とか、そんな感じになった可能性さえある。非常に残念だ。だが今はそんな妄想をしている場合では無い。
「結構移動したはずだがずっと同じ白い通路と部屋しか無いな。部屋に着いてもゾルダートしかいねーし。どこまで続くんだよ…」
それにクランが30もあるくせにプレイヤーとは誰も遭遇していない。とすれば、このエリアは相当な広さを有している可能性がある。それだと楓さんたちと合流するのは随分と難しい話になってしまう。
「楓さんたちの方にプレイヤーたちが集中してないといいけどな。」
現状の俺にはどうする事もできない。できるのはただひたすらに前を進む事だけだ。俺は再度部屋の扉を開けて歩み始める。
だがここで変化が起きる。扉を開けた先は白い通路では無く商業施設のような場所に出た。だが普通の商業施設では無い。看板から商品から何まで白一色になっている。
「この白で統一されてんのって何か意味あんのかな?ずっと見てると頭がおかしくなりそうだからやめて欲しいんだけど。」
一方通行の道から商業施設へと移動したが今度はどう進むべきか。俺が来た扉はなぜか消えている。退路は無しだ。この施設内にゴールがあるのか、それとも次のエリアに進む扉があるのか。
「とりあえず徘徊してみるか。」
真っ白な商業施設を徘徊する。飲食店のディスプレイには食品サンプルがあるがそれらも当然に真っ白だ。カレーライスと思われるものが真っ白だとシチューライスに見えてしまう。これはこれでアリだろうが見た目はちょっと気持ち悪い。食欲は湧かないな。
アパレルショップの店内も当然白一色だ。デザインが違うだけで白一色だと白服専門店の様相を呈している。購買意欲も全く湧かない。
「食品が白一色ってのはちょっと嫌だな。色も込みでの美味しさだもんな。それにしても人の気配全然無いんだけど。イベント始まってんだよね?俺だけ置いてけぼりとかだったら泣くぞ。」
施設内からは人の気配を感じられないので外へ出ようと一階へと行ってみる。エスカレーターを降り、エントランスへと行ってみた時にここから出る事が叶わない事に気付く。
「ドアが無い…?」
そう、エントランスはあるのだがドアが無いのだ。それどころか外の様子を伺う為の窓も何も無い。完全に施設内に隔離されている。
「おいおい、隔離施設かよココ。どうやって脱出するんだ…?あ!案内板ないかな?普通はこういう所には案内板があるはずだ。」
それに気づいた俺は案内板を探してみる。エスカレーター付近に大抵はあるはずなのでエスカレーターへと戻ってみる。すると読み通りに案内板を発見した。俺は案内板を見てみる、
《6階 黒ノ間》
《5階 断罪ノ間》
《4階 実験場》
《3階 殺戮場》
《2階 渡り廊下》
《1階 焼却場》
「何このホラー要素満載の案内板!?2階以外ホラーワード満載すぎなんですけど!?」
こんな所で1人だけとか辛すぎるんだけど。いつからホラーゲームになったんだよ。
「そもそも今俺が居る場所が焼却場なんだろ?そんなんドコにあんだ?」
辺りを見渡しても普通の商業施設のエントランスにしか見えない。どこの施設でもそうだが1階には食料品売場とフードコートが入っている。できれば確認なんてしたくは無いが確認したくなってしまうのが人情だ。
俺は1階の探索を始める。だがソレはすぐに見つかった。食料品売場の精肉コーナーの所に焼け焦げたヒトの体のようなモノが積み重なっていた。周囲は異様な臭いに包まれ、俺はその場で嘔吐してしまった。
「何だよこれ…?プレイヤーか…?もしプレイヤーなら何でコイツらの体は消えないんだ…?」
ーーその時だった。ナニカがエスカレーターを歩きながら降りて来る音が聴こえる。ドスンドスンという音がこちらへと近づいて来る。俺は身を隠す為、バックヤードへと続く扉へと入った。その扉には店内を見渡す為のガラス窓が取り付けられているので向かって来るナニカを確認する事もできる為一石二鳥だ。
ドスンドスンという地響きを鳴らしながら現れたのは2mをゆうに超える大男だった。体も力士顔負けの巨漢だ。いや、男というのは語弊がある。顔をジェイソンのお面のような物で隠している為性別の確認はできない。だが体つきから見ても男なのはほぼ間違い無い。
よく見てみると仮面の男の腕には人がいる事に気づく。死んでいるのか気を失っているのかはわからない。だがグッタリとしているのはわかる。
仮面の男が持っている人を床へ放り投げる。衣服を脱がされ全裸になっているので男と確認できる。だがそれでも起きないところを見るとやはり死んでいるのだろう。
そして仮面の男が懐から瓶を取り出し中に入っている液体を男にかける。そして何も無い空間から大きい斧のような物を取り出す。ラウムだ。ラウムを使えるという事は仮面の男はプレイヤーなのだろうか。
仮面の男はその大斧を床に擦り付けて火花を発生させる。すると連れて来られた男の身体が炎に包まれ燃えていく。あの液体は油か何かだったのか。
肉の燃える臭い臭いが周囲に立ち込める。当然バックヤードにも煙が入って来るが俺は吐きそうになるのを必死に堪えた。
燃えるのを確認すると仮面の男はその場を離れエスカレーターの方へと戻って行った。
「…あの仮面の男は何なんだ?プレイヤーなのか?焼却場の意味から察するとアイツはプレイヤーじゃなくて運営側って感じがするけど。てか色々ヤバくね。サバイバルホラーみたいな展開じゃん。そもそも何であのデブが歩く音聴こえなくなんだよ。ドスンドスン音出してんのに急に聴こえたり聴こえなくなったりおかしいじゃん。」
こういう時の俺のカンは凄い働く。仮面の男がエスカレーターを降りて来たら音が聴こえ、エスカレーターを昇ったら聴こえなくなる。これが意味するのは階層によって空間が仕切られているんだと思う。1階には1階の空間。2階には2階の空間が用意され、全ての階層が単独で構成されているはずだ。
「これって6階まで行かなきゃこっから出れないパターンだよな。デブとの戦闘は避けられそうも無いか。しゃあない、いっちょやってみっか。今日の俺はいつもと違って鬼のように強いからな。覚悟しとけよ。」
俺は入念にストレッチをして上の階層へと進む事にした。
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