第66話 噛ませ
私たちの前に現れたのはギャル系の男2人、女2人のプレイヤーだ。私たちとは系統が違う人種だなぁ。こんな状況でも2組ともベタベタしている。正直ドン引きよね。
「ねね、和也!アイツらアレじゃん?何だっけ?プレイヤー?じゃん?」
「優里亜かしけー!それそれ!間違いねーわ。…あ?おい翔!?あの女らヤバくね?パネェんだけど!」
「ヤバ!ちょっとマジヤバなんだけど!」
男たちが急に私たちを見て盛り上がりをみせる。その目つき、顔つき、全てがすごく気持ち悪い。
「翔!!何アイツら見て興奮してんの!!」
「違うって樹里!俺はお前だけだよ。マジ愛してる。」
「うん、私も愛してる。ずっと一緒だかんね?」
うわぁ…この人たち何なんだろう…ドン引きのドン引きだよ…
「ちょっと和也!それ浮気じゃん!ありえないんだけど!」
「ちげーよ、優里亜。ほら、アレだよ。本命はお前だけど種付けだけはしたいみたいな。わかる?」
「わっかんないよ!!種付けって浮気じゃん!!」
「ちげーって。俺が愛してるのはお前しかいねーよ。マジ、アイラブユー。」
「うん、優里亜もアイラブユーだよ。」
いやいや、色々おかしいから。全然アイラブユーしてないから。何なのこの人たち。
「ウフフ、質問してもいいかしら?どうしてあなたたちみたいな不細工なカップルって公衆の面前でイチャつくのかしら?後学の為にぜひ聞かせてもらいたいの。」
楓さんストレートだなぁ。火の玉ストレートをビーンボールで投げてるよ。
「はぁ!?マジなんなのコイツ!!ありえないんだけど!!!」
「和也!!やっちゃってよ!!!」
女2人が怒りを露わにしている。ま、それはそうよね。そんな事言われたら怒るのは当然だけど楓さんの言う事には激しく同意をする。
「おけおけ。コイツ確かにムカちんじゃん。ちょっと顔が良いからってナメすぎー。」
「だな。そんな生意気なやつはちょっと懲らしめて色々ナメさせようぜ!」
「ちょっと翔!!浮気じゃん!!マジありえないんだけど!!」
「違うよ樹里。お前を馬鹿にしたあの女を懲らしめるだけだって。ほら、男の力を教えてやる的な。男の力って言ったらアレだろ?でもよ、愛してんのはお前だけだ。アイラブユー、樹里。」
「あ、そっか。わかった。ああいうクソ女は懲らしめないとだしね。ヤッちゃえヤッちゃえ!!私もアイラブユーだよ翔。」
もう勝手にやっててくれないかな?
「さてと。おい、どうする?ワビ入れんなら許してやるぜ?俺たち紳士だからよ。」
「どうして詫びをしないといけないのかしら?顔だけじゃなくて頭も悪いの?可哀想。」
煽るなぁ。ここぞとばかりに楓さんさんが煽る。
「この女なんなの?もはや許す事なんてしねぇんだけど?」
「和也らが許しても私ら許さないから。そのツラ、フルボッコにして整形効かねぇようにしてやるよ。」
女たちが顔を真っ赤にして怒っている。完全に怒りの限界突破だ。酷い顔をしている。
「あ!あなたたちもフルボッコにされて整形効かない顔にされちゃったのね!辛かったわね…」
楓さん半分楽しんでるよね。
「大概にしとけよお前。」
「シャレじゃ済まなぇぞ?あ?」
男たちが凄んで楓さんを威圧する。ヘラヘラしていた男たちの目つきが明らかに変わっている。
「痛い目に合わせてやるよ。へへ、ちゃんと気持ち良くしてやるから安心しろよ。俺のはデケェからクセになんぞー?」
「キャハハハッ!和也はデカチンだからねぇ。この女涎垂らして悦んじゃうんじゃね?」
楓さんじゃないけど何でこういう人たちってすぐ下ネタに走るんだろう。すごく不思議。
「やっぱり程度が知れるわね。頭の中はそれしかないのかしら。気持ち悪い。」
「マジ生意気だわ。どこまでその態度でいれんのか試してやるよ。」
男たちがスキルを発動させ、エフェクトを纏う。2人とも赤いエフェクトだ。でもSレアなんて楓さんの相手にならないよね。
「ビビっちまったか?ヤベェだろ?」
「ビビる?どうしてかしら?」
4人が顔を見合わせている。そして少しの間があってから笑い始めた。
「コイツ何にも知らねぇの!!クッソ笑えんだけど!!」
「おいお前!!スキルってわかっか!?」
「翔たちはSレアのスキル使えるんだよ!!わかる?Sレアなんて滅多に出ないんだよ。それの使い手なんだよこの2人は!!」
「謝っても許さねぇからな!!ボッコボコにしてやるからよ!!」
完全に勝ち誇ったように楓さんに対してマウンティングを取っている。この人たち楓さんの事知らないのかな。可哀想に見えてきたよ。
「おら、お前もスキル出せよ。待っててやるよ。」
「翔やっさしー!マジ惚れ直す。」
楓さんがため息をつきながら腰に携えているゼーゲンを引き抜く。
前に見た時よりゼーゲンの形状が変化している。刀身に楔形文字のような文字列が浮かんでいるのだ。それはアルティメットを召喚する時に現れる文字と非常に良く似ている。
「来なさい。」
再度4人は顔を見合わせる。互いに目配せするとニヤつきながらまたしてもマウンティングを取り始める。
「コイツもしかしてぇー?」
「スキル無し子ちゃんー?」
一帯に連中の馬鹿笑いが響き渡る。流石の私も哀れに思い始めた。きっとこういうのを噛ませって言うのね。
「そちらから来ないならこちらから行ってもいいかしら?」
「ヒヒヒ、おけおけ。俺が男の力ってモンを教えちゃる。おら、タイマンだ。いつでも来い。」
「じゃあ遠慮なく。」
楓さんが宣誓すると同時に一瞬で和也と呼ばれる男の眼前に現れる。だが真に恐ろしいのは楓さんが現れた時には和也の胴体からは血飛沫が上がっていた事だ。
私は後方から楓さんの動きをしっかりと見ていた。
一歩、たった一歩踏み込んだだけで和也との間合いを詰め、さらには斬撃を喰らわせていたのだ。
「か、和也!?テメェ!!調子にーー」
その惨状を見たもう1人の男、翔が楓さんに斬りかかろうとする。だが翔が剣を振り上げるよりも速く楓さんのゼーゲンが翔の首を撥ね飛ばす。頭が無くなった切り口からは噴水のように夥しい量の血が噴き上がり、指令を与える為の組織が無くなった身体は力無く崩れ落ちた。
それを見た女たちは悲鳴を上げる者や嘔吐をする者もいる。いくらゲーム内とはいえそのグロテスクな光景を見てしまえば当然の反応だ。
だが幸いな事に男たちの死体はすぐにこの場から消え去る。まるでその存在など初めから無かったかのように。
男たちを葬り去った楓さんが女たちへと向き直る。
楓さんと目が合う女たちは必死に命乞いをして助けを請う。
「お、お願い…!殺さないで…!」
「許して下さい…!何でもしますから…!」
楓さんは大きく息を吐く、
「…行きなさい。」
楓さんから許しを得ると女たちは転げるようにこの場から去って行った。
勝負を終えた楓さんが私の元へと戻って来る。
「甘かったかしら?」
「いえっ。いくらゲームとはいえ人を殺す事になりますから戦意が無いなら見逃してもいいと思います。」
「ゲーム内で死んだら現実世界でどうなるかわからないものね。あんなどうしようもない女でもできれば殺したくはないわ。」
「楓さんに任せてしまってすみません…」
「いいのよ。私ができる事は私がする。美波ちゃんができる事は美波ちゃんがする。だから気にしないで。次に謝ったらオシオキするからね。」
楓さんのその言い方があまりにもセクシーだったのでドキッとしてしまった。これが男の人だったら簡単に落ちちゃうと思う。……タロウさんも落ちちゃうかな?
「さて、食事にしましょうか!」
「はいっ!」
「美波ちゃんに楓ちゃん、みぃーつけたぁ!!!」
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