第55話 フェルトベーベル
あれから数時間が経過した。現在私が倒したプレイヤーとゾルダートは174体。内訳はプレイヤーが104人、ゾルダートが70体だ。
プレイヤーの最高レアリティはSレアしかいなかったので相手になるような者は誰もいなかった。幸いな事にプレイヤーは皆、男だったので躊躇無く斬れた。女性がいたら情けをかけたり躊躇いが生まれてしまっただろう。その点は私の運の良さに感謝しよう。
ゾルダートは最初に遭遇したモノたちと同じで、SS級1体、S級4体の5体編成部隊だった。ゾルダートに関しては手の内が知れていたのでエンカウントした段階で瞬殺できた。
恐ろしいのはこれだけの数のモノたちを相手にしたというのに身体の疲れが全く無いという点だ。息切れや怠さといったものが全く無い、これもゼーゲンによる恩恵なのだろう。ますますゼーゲンが恐ろしくなる。味方側にゼーゲン所持者が居ればこんなにいい事はないが、敵側に居たら厄介極まりない。
何としてでも特殊装備を入手しなければならないが、数時間探しても監獄が発見できない。他のプレイヤーに先を越されていないかと考えるだけで焦りが生まれる。私が倒したプレイヤーは83組。となると、最大16組のプレイヤーがまだエリアにいる可能性がある。アルティメット持ちの手練れがいれば特殊装備が取られているかもしれない。急がないと。
若干の苛立ちを感じながら森の中を歩いていると、遺跡のような建造物を発見した。見た限りでは相当古い年代に建てられた物だと思う。表面はひび割れ、苔も生えている。某映画にでも出て来そうな佇まいだ。
しばらく周りを見ていると入口らしきものを発見した。外からは内部の様子は見えないが、異様な空気が漏れ出ている。私は意を決して遺跡内に足を踏み入れた。
すると私が一歩踏み入れる毎に、壁に設置されている蝋燭のような物に明かりが灯る。決して明るいとは言えない光度だが、見えるだけマシだ。
そのまま一本道を進んで行くとドアのようなものが見えてきた。よく見ると左側にはまだ道が続いている。このドアをスルーしてもいいのかな。
「…入ったら何か出てきたりしないかしら。」
私はホラー系が苦手だ。心霊番組なんかテレビでやってるものなら直ぐにチャンネルを変えてしまうぐらいだ。実はここに入ってから心臓がドキドキしている。そもそもよくここに入ったわよね。ここで幽霊なんか出て来たら心臓が止まる自信がある。
「…この部屋に何か必要アイテムとかがあったら戻って来なきゃいけなくなるわよね。うぅ…仕方ない、入るしかないか…」
私はゼーゲンを鞘から抜き、両手でしっかりと握り、ドアを開けた。中には誰もいない。よかった。それだけでも一安心ね。
中を見渡すと机しか無い殺風景な部屋だ。相変わらずの薄暗さが恐怖感を煽っている。見た所、看守室ってところかしら。
机を調べて見ると備え付けてある引き出しがある。鍵付きの引き出しではないので開ける事は簡単だ。でも開けたくないってもう1人の私が言っている。
開けたらドアの鍵が閉まってゾンビが出て来たらどうしよう…
馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが私にとっては死活問題だ。決してふざけているわけではない。
「調べるしかないわよね…嫌だなぁ…」
ーー意を決して調べてみた。
すると、中には鍵が入っていた。
「鍵…?どこかで使うのかしら…?これ以上は何も無いみたいね。早く部屋から出よ。う…ドアを開けたら何か出て来るのがパターンよね…嫌だなぁ…」
私は心臓が口から出そうなぐらいドキドキしながらノブを回す。左手でゼーゲンをしっかりと握り締めてドアの隙間から通路を見渡すが何もいないようだ。
はぁ…生きた心地がしない。
私はまた一本道を突き進むと、またドアを発見した。今度は曲がる道は無い。強制的にここを開けなければならないようだ。
「この先にボスがいるのかしら。でも地下1階を解放したって言ってたわよね。そうすると地下1階にボスがいるって考えるのが自然よね。ここから地下へ行けるのかしら。」
私はそーっとドアを開く。すると、また先の見えない真っ暗な通路が続いていた。
「…何の為のドアなのかしら?」
違和感を感じながらも、とにかく先へ進む事にした。もちろんドアは開けたままで。
しばらく歩くと通路が二手に分かれた。こうなるとなかなか困る。どちらかがトラップの可能性は高い。
だが残念な事に今の私は冷静な判断ができない。怖い方が遥かに勝っている。考えてる時間があるなら早くボスを倒してここから出たい。それに何か出たり、トラップがあればブルドガングに何とかしてもらおう。うん、そうしよう。
私は右利きだから右側の通路を進む事にした。ノブに手をかけ、そのまま勢いよくドアを開けると、中は牢屋だった。牢は4つあるが中には誰もいない。外から見渡す限りでは何かが落ちている形跡は無い。牢の鍵は開いているので中へ入れば入念に調べられるが流石に中に入る気にはなれない。それこそトラップの可能性が大だ。そこまでする必要は無いだろう。
牢屋は特に何も無さそうなのでこの部屋から出る事にした。そして残された左側のドアを開くと、地下へ続くと思われる階段があった。
「ようやくあったわね…何だかすごく疲れた…」
さて、これで下に行ったらエリアボスとの対面ね。まだ誰にも倒されてなければいいけど。それにボスの実力もわからないから気をつけないといけないわね。無理だと思ったらすぐにブルドガングに頼りましょう。
私は階段を降りようとする、
「……ドアが閉まって閉じ込められたりしないわよね。」
うぅ…怖いなぁ。ホラー映画とかならここで閉じ込められて幽霊に連れて行かれちゃうパターンよね。
怖いけど意を決して階段を降る。
すると、またドアがあった。ノブを回してみるが鍵がかかっていて開ける事ができない。
「解放されているんじゃないの…?あ、もしかして。」
私は看守室で見つけた鍵を使ってみる。鍵穴に入れて回してみると、カチャっと音がした。
「やっぱり。さて、行きましょうか。」
ノブを回し、ドアを開ける。すると、薄暗さはそのままだが、先程までの通路とは違って、広い大部屋に出た。通路やドアがあるわけではないのでここがこの監獄の終着点だろうか。そして部屋の中央にナニカがいる。ゾルダートのようだが甲冑の色が黒い。それに今まで見て来たゾルダートの特徴として、彼らはスキルを常時発動していたが、この黒いゾルダートは何のスキルも発動していない。
「ゾルダートじゃないのかしら。」
『オレヲ…ゾルダート…ナンカト…イッショニ…スルナ…』
「喋った…?」
『オレハ…フェルトベーベル…オマエラ…コロス…ソウスレバ…カイホウ…サレル…』
「解放…?監獄から解放されるって事かしら?」
『オマエト…ハナスコト…ナイ…コロス…』
「会話ができるのに残念ね。ま、私も早くこんな所から出たいから話が早くてちょうどいいわ。」
ゼーゲンを鞘から引き抜き、フェルトベーベルに対しゼーゲンを構える。
『カカカカカ…!オマエ…クルシム…クルシンデ…シヌ…』
「ウフフ、それはどうかしらね。さ、来なさい。」
ーー黒い騎士、フェルトベーベルとの戦いが始まる。
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