第56話 天使の羽
殺す、殺すと連呼している割には攻撃を仕掛けてくる様子は無い。フェルトベーベルは慎重派なのだろうか。だがゾルダートとは違って明らかな知性が見られる。油断はできない。場合によっては即座にブルドガングを召喚しよう。
『カカカカカ!オマエ…オレニ…ビビッテイルナ…?』
「あなた随分とおしゃべりなのね?知性が高いんじゃなくて軽いだけかしら。」
『オレヲ…バカニ…スルナ…!』
フェルトベーベルが腰に携えている剣を抜き、漆黒に染まる鎧から銀色のエフェクトを発動させる。それと同時に一気に私との間合いを詰め、剣を振りかざす。
その動きに対し、私も瞬時に反応してゼーゲンを振りかざす。
そして振り切られた互いの剣が重なり合い、剣戟の音が鳴り響く。
互いの身体の可動、速度、反応が人間の限界点を大きく超え、まるで特撮映画でも撮っているかのような戦いを繰り広げている。
だが勝てない相手ではない。攻撃力も守備力もSS級ゾルダートを上回ってはいるがやはり私には遠く及ばない。もう少し打ち合いを行い、余力の無い事を確認したら勝負をつけよう。
ーーそう思った時だった。
突如、フェルトベーベルが放つ銀色のオーラが輝きを増し、その銀色のオーラが濃くなった。
そしてーー
『アハァ…!』
眼前に居た筈のフェルトベーベルが私の右横に移動している。なぜ?などと考えている暇すら無い。私の右脇腹目掛けてフェルトベーベルが剣を振る。
私は無理矢理腕を折りたたんでゼーゲンを盾にし、かろうじてその一撃を防ぐ。だがその威力は凄まじく、私は壁まで吹き飛ばされる。
どうにか受け身を取り、ダメージは最小限に抑えられたが、フェルトベーベルの実力を目の当たりにさせられる結果となった。
『カカカカカ…!オレハ…スキル…フタツ…ツカエル…ダブルスーパーレア…フタツ…ツカエル…』
「…そういう事だったのね。だから急にそんな速度を出せたのね。」
『カカカカカ…!ヨワイ…!オマエ…ヨワイ…!オマエ…オレニ…カテナイ…!オマエ…シヌ…!』
フルフェイスの兜なので表情こそ見えないないが上機嫌なのはわかる。完全に私の上を行き、実力差を見せつけたのだから上機嫌にならない筈が無い。
『アシヲソイデ…ウデヲヒキチギリ…クルシメテ…クルシメテ…コロス…アハァ…』
「あなたの勝ちね。私の限界点を知る事ができた。感謝するわ。」
『イノチゴイ…キクツモリハナイ…アキラメロ…』
「ウフフ、そんな事するつもりはないわ。確かに私とあなたの勝負はあなたの勝ちだけど、死ぬのはあなたよ?」
『オマエ…ナニヲーー』
ーー私の身体から金色のエフェクトが発動し、前方に魔法陣と幾何学的な文字列が現れる。
そして、
魔法陣からブルドガングが現れる。
『カエデ、少しナメすぎだったんじゃないかしら?かなり危なかったわよ。』
「反省してるわ。これからは気をつけます。ごめんなさい。」
『わかればいいのよ。そんじゃ、ちゃっちゃと終わらせてこの薄気味悪いトコから出るわよ。』
私の身体にブルドガングが憑依するーー
『オマエ…ケンテイ…ブルドガング…カ…?』
「へぇ、アタシの事知ってんだ?」
『アァ…ソウイウコトカ…オレハ…ステイシ…カ…』
「何をブツブツ言ってんのよ。命乞いは聞かないわよ。」
『…オウギ…ハナテ…』
「はぁ?」
『オレハ…オウギデナイト…トドメハ…サセナイ…オレヲ…タオシタケレバ…オウギ…ハナテ…』
「ふぅん。何を企んでんのか知らないけど、そんなに奥義が見たいなら見せてやるわよ。」
ーーブルドガングの纏う金色のオーラが黄金の輝きを放ち始める。
ゼーゲンに雷のようなエフェクトを纏わせ、変則的な脇構えの構えを取る。
ブルドガングの気の高まりからか、監獄全体が揺れ動いている。
対するフェルトベーベルは特に何をする訳でもなく、だらんと腕を伸ばしたまま傍観している。その様相からは戦いを諦めているようにしか見えない。
だがブルドガングに情けをかけるつもりは毛頭無い。
勝負を決める為の奥義を放つ。
「アタシの前に平伏しなさい、ブリッツ・シュトゥルム!!」
脇構えからゼーゲンを乱暴に上へと振り抜くと、レーザーキャノンのような光の塊が前方に放たれる。そのエネルギー粒子の量は人など軽く飲み込んでしまう程の巨大さだ。
それがフェルトベーベルを飲み込むーー
『オレノ…ヤクメハ…オエタ…オルガニノターー』
あっという間にフェルトベーベルを飲み込むが、そのエネルギー粒子は消えたりはしない。
行き場の無くなったエネルギー粒子は監獄1階層をも吹き飛ばし、空の青さを地下にいながら拝む事ができるようになった。
「ちょ、ちょっとやり過ぎたかな…じゃ、カエデ、後はヨロシク!!」
ーーそう言い残し、役目を終えたブルドガングは消えていった。
「ふぅ。ありがとう、ブルドガング。空が見えればホラー感は無いわね。」
あんな心霊スポットみたいな場所から解放されればこっちのもんだ。これでいつもの私に戻れるわね。
「フェルトベーベルの欠片も残ってないわね。まさか特殊装備まで吹っ飛ばしちゃったなんて事は……あら?」
先程までフェルトベーベルが居た場所に、明らかに存在しなかった金色に輝く宝箱が出現していた。
私はそれを開けてみる。すると、中には純白の羽が1枚入っていた。
「羽…よね…?鳥の羽かしら?」
私はそれを手に取る。すると、羽が虹色の光を放ち出し、小さい粒のようなものに分解されていく。
そしてその光の粒が私の身体に入ってくる。
「ちょっ、ちょっと!」
私はそれを払おうとしたが手をすり抜けて全て身体に入ってしまった。
そしてそれが終わると同時にスマホの通知音が鳴り響く。オレヒスからの通知なのは分かりきっているので確認をすると、
『芹澤楓様、おめでとうございます。
エリアボスを倒しましたので特殊装備『エンゲル』を付与致しました。芹澤様の体内へと強制的に装備する事になりましたが、害はございませんのでご心配なさらぬようお願い致します。
使用方法ですが、スキルを使う時と同様に念じて頂けるだけで結構です。使用時間はイベント、シーン、ともに5分間となっております。
ますますのご活躍を運営一同祈っておりますのでよろしくお願い致します。』
「白々しい文面ね。それに肝心のエンゲルの詳細も無いじゃない。時間制限があるわけだけどどんなモノかしら。想像がつかないわね。…とりあえず使ってみようかしら。」
念じてみると、背中から翼のようなモノが生えてきた。
真っ白な純白の天使の羽、そう思わせるぐらいの神々しさが溢れている。
「綺麗…惚れ惚れするわね。ちゃんと飛べるのかな?」
私は羽を動かしてみると…飛べた。ちゃんと宙に浮いている。
次にどれぐらいの速度が出るか試してみると、あっという間に地上に出る事ができた。時間にして1秒かかるかどうかだ。いくら穴が空いているとはいえ、地下から上空に出るのにたったのそれだけなのだから凄まじい。
「他の身体能力は上昇してないみたいだけど、速度上昇と飛べるのはすごく大きいわね。」
私は再度上空へと飛び立ち、大木の上へと陣取った。
「残りの時間はわざわざ戦う事もないわ。目的も果たしたし、後は時間までここにいるとしましょう。」
私は時間までここで星を眺めていた。とても幻想的な光景に心が洗われた。
そして、
リザルトへと誘う闇が訪れるーー
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だがいつもと様子が違った。リザルトなのにツヴァイがいない。何かがおかしい。
ーーそう思った時だった。
スマホの通知音が鳴り響く。
このタイミングで?
疑問はあるが、とにかく内容を確認する。
『いつもご利用ありがとうございます。俺'sヒストリー運営事務局です。トート・ツヴィンゲンでのご生存、誠におめでとうございます。本来ならば担当からのリザルトがあるかと思いますが、緊急メンテナンス及びアップデートによりそれが不可能となっております。後日改めてリザルトを行いますのでよろしくお願い致します。又、緊急メンテナンス及びアップデート中は俺'sヒストリーをプレイする事はできませんのでご容赦下さい。数分後に転送を行いますのでよろしくお願い致します。』
「また何か改悪する気なのかしら。ともあれ、これで終了ね。タロウさんと美波ちゃんは大丈夫だといいけど…」
時間になり、転送されると私は自分の部屋に居た。
そしてスマホの着信が鳴る。
電話だ。
タロウさんからだ。
私は胸が高鳴り急いで電話を取る。
「もしもし!?無事だったんですね!」
『楓さんも無事だったんですね。良かった。安心しました。美波も無事です。』
「良かった…エリアで探したけど居なかったので本当に心配しました。」
『ありがとうございます。みんな無事で良かった。』
本当に良かった。安心した。
『…楓さん、頼みがあるんです。聞いてもらえますか?』
「…あなたの頼みを断るわけありません。どんな事でも聞きますよ。どうしたんですか?」
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