第41話 カッコ悪い

普通はロリ美波だろ。女教師ってなんだよそーー

いや、待てよ。女教師の方が良くないか…?あのタイトスカートヤバイだろ。女教師美波、いいね!


「じゃあ今日からは相葉先生が授業のサポートをしてくれます!ちゃんと相葉先生の言う事聞く事!わかりましたか?」


「はーい!」


そもそもこの時代に副担任なんて制度無かっただろ。何でもありだなオレヒス。そんな事を考えていると村上弘が俺に話しかけてくる。


「どうしたの?いつものタナベくんじゃないみたいじゃん。角田の事やっちまうなら手貸すよ。」


思いがけない村上弘の申し出に俺は嬉しかった。そういえば村上弘はケンカが強いらしかった。本当に強いかは知らないがそういう強キャラ設定がされていた。これも小学生あるあるだろう。ともあれ猫の手も借りたいぐらいのこの状況だ。ありがたく手を借りよう。


「ありがとう。アイツぶっ飛ばすから手を貸してよ。」


「いいよ!じゃあ休み時間にぶっ飛ばそうぜ。」


これでこのシーンのクリア確定だろ。さっきは少し焦ったけど余裕だったな。それよりも美波がニヤニヤしながら俺を見てるのが恥ずかしい。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






休み時間になり、俺と村上弘は角田を廊下に呼び出し、決着をつけることにした。


「村上くん、何?ズルいよね?俺とタロウのケンカなんだから邪魔しないでもらえる?」


超ビビってる角田。正直最高に気分がいい。虎の威を借る狐がブーメランで刺さってる気はするがそんなのは関係ねえ。俺はアスカが守れればそれでいい。それに正義は俺にある。


「そんなの関係ねえじゃん。調子に乗ってるからぶっ飛ばしたいだけだし。かかってこいよ。」


そうだ村上弘。正義はお前にあるぞ。お前が角田をぶっ飛ばして谷口と山川を黙らしてシーンクリアだ。卑怯だろうがなんだろうが関係無い。勝てば官軍だ。



だが、歴史の強制力はそんなに甘くはなかったーー




「お前ら何してんだよ?」


「裕太!助けて!村上がちょっかい出してくんだよ!」


三國裕太…なんでコイツが絡んで来るんだよ…


「あん?村上なにやってんだよ?コイツの事ぶっ飛ばすのか?」


コイツは三國裕太。早い話が番長だ。体も4年生よりデカいゴリラのような奴だ。なんでコイツが出てくんだよ。


「コイツがタナベくんにちょっかい出すから俺がコイツぶっ飛ばすんだよ。」


「そんならタロウがやればいいんじゃねえのか?なんで村上が出てくんだ?」


「そうだよ!村上は出てくんなよ!関係ないんだからよ!」


角田てめえは黙ってろ。金魚のフンが!


「村上がそっちにつくんなら俺がコイツにつくわ。オラ、こいよ村上。」


なんでそうなるんだよデブ。お前は全く関係ないだろ。イキナリ分が悪くなってるし。どうすんだよこれ。でも2対2じゃ絶対ダメだ。三國には2人がかりでも勝てないし、何より俺は役に立たない。どうする?バルムンクを使うか?棒切れ使ったら大変な事になるよな。それにバルムンクで三國を倒してもシーンクリアには繋がらないだろう。角田の撃破、これがシーンクリアの必須項目なはず。どうする…考えろ…


だが、俺が考えを巡らせている間にも時は動くーー


「わかったよ。んじゃタナベくんと角田が戦えばいいんだろ。俺は手を出さないよ。」


逃げやがった。コイツ最低だな。そうだ、村上弘はこういう奴だった。自分の得にならない事は簡単に意見を変える。自分より能力が高いものには挑戦しない奴だ。この数時間の内に村上弘の評価は上がったり下がったり乱れまくりだ。こんな奴を少しでもいい奴だと思った俺は成長しなさすぎだろ。


「おう。んじゃタロウ、角田。やれよ。」


やれよって。お前何様だよ。でもどうする。角田に勝つとかそういう問題じゃないぞ。この頃の俺は完全にヘタレの弱虫だ。誰が相手でも勝てやしない。…体格だけは三國と遜色ないんだけどな。


「おい、タロウもう泣いてんのかよ!泣いても勘弁しねえからな!」


「三國がそっちについたからって急に元気になってんじゃねえか角田。ダッセ。本当に金魚のフンだなお前。」


そう言い放った直後に俺は腹に猛烈な痛みを受けた。


「あんまり調子に乗ってんなよタロウ。金魚のフンはお前も同じだろ。」


ここからの俺は防戦一方だった。小学1年のケンカだから大した事はないが、腹を殴られたり肩パンをされたりのラッシュだ。顔を殴られないだけマシって感じだ。感情は怒りで反撃に転じたい気持ちでオーバーフローしているが、体は震えて防御以外のコマンドは一切受け付けないといった具合だ。ここまでヘタレだとさすがに泣けてくる。それに防御力は当時のままだからとにかく痛い。どうしようもなくなった俺はとうとう膝をついてしまった。


「おいタロウ!謝れよ!そうすれば許してやるよ!二度と逆らいませんって言え!」


「はぁ?てめえ見たいなクズになんで謝るんだよカス。絶対張り倒してやるからな。」


直後に俺はビンタをくらった。


「デカイ口ばっかり聞いてんじゃねえよ!反撃もできないくせによ!」


その時だった、さすがにこの騒ぎだから担任と美波がやってきた。


「あなたたち何してるの!角田くん!あなたやりすぎでしょ!」


「いや、だってタロウが…」


「職員室に来なさい!三國くんに村上くんも!タナベくん大丈夫!?相葉先生、タナベくんを保健室に連れていってもらえる?」


「はいっ!タロ、田辺くん大丈夫!?保健室行きましょう!!」


うぅ…美波にこんなカッコ悪い所を見られてしまった…死にたい…

よく見ると美波たちの後ろにアスカがいる。あぁ…アスカが美波たちを呼んでくれたのか…情けねえな俺…逆に守られてるってなんだよ…





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「それじゃあそのまま少し冷やしといてね。」


「ありがとうございました…」


「タロウさ…田辺くん、大丈夫?痛くない?」


美波がめっちゃ心配そうな顔で見てくる。カッコ悪いなぁ…


「はい、大丈夫です。ありがとうございます…」


くそ…俺は何しに過去に戻ってきたんだよ…しっかりしろよ。情けねえ。これじゃ何にも変わらねえじゃねえかよ。


「もう大丈夫です。教室戻りましょう相葉先生。」


「そ、そうね。じゃあ私たちは戻ります。ありがとうございました。」


「もう喧嘩なんてしないでね。お大事に。」


保健室を出て俺たちはすぐ、誰もいない理科準備室へと入った。


「タロウさん!?大丈夫ですか!?」


理科準備室に入るとすぐさま美波はビンタされた頬を撫でてくる。


「…大丈夫だよ。なんか美波にダサい所を見られちゃったな。あはは…」


「そんな事ありませんっ!!あの角田って子…絶対許さない…!!」


美波の可愛い顔に憤怒の色が漂っている。そのまま理科準備室を出て行こうとしたから俺は必死に止める。グーで殴りに行きそうな雰囲気がダダ漏れだろ。美波はたまに暴走するからな。


「落ち着いて美波!!俺は大丈夫だから!!」


「でもっ!!タロウさんにこんな事をする奴を許せません!!」


怖えぇ…なんだこの迫力は…何かが乗り移ってるんじゃないのか。


「頼むよ美波。これはきっと俺が角田を倒さないといけないと思うんだ。美波がアイツを殴っちゃったら大問題になる。だから俺に任せてよ。なんでも美波のお願い聞くから。」


「なんでもですか?」


「お、おう。」


なんだ?一気に美波の空気が変わったな。


「絶対ですね?」


「うん、約束する。」


「わかりました。それなら我慢します。でも絶対倒して下さいね。」


「ああ!美波の期待を裏切ったりしないよ!」


「ふふっ!それなら良かったですっ!それにしても小さい時のタロウさんもイイですねっ!」


「なんか照れるな。でもまさか美波が女教…じゃなくて先生で来るとは思わなかったよ。」


「私も驚きました。私がここに来た時は部屋に居たんです。」


「部屋?美波のアパートって事?」


「違いますよ、私たちのマンションです。」


私たちのって…言い方。


「あのマンションってこの時代に無いぞ?何でもアリだなこのゲーム。」


「部屋の中は全く同じですよ。タロウさんの私物もありますし。」


「マンションも転送されたのかな?」


「あ、その言葉は当てはまりますね。それでテーブルに置き手紙があったんです。それには『相葉美波様は小山小学校の副担任としての参戦とさせて頂きます。』って書かれていました。」


「役が与えられるって事か。俺はてっきりロリ美…じゃなくてクラスメイトとして来るのかと思ってた。」


「ふふっ、それでも良かったかもしれませんねっ!あ、そろそろ戻らないと怪しまれますね。スマホは持ってますよね?それで連絡を取り合いましょう。」


「そうだね。じゃあまた後で連絡するよ。」




俺たちは教室に戻り小学生にありがちな担任による無理矢理仲直りの儀が発動して形だけの仲直りをした。当たり前の話だがこれで収まるわけがない。それに向けて俺がしなきゃいけない事は俺自身の性根を叩き直さなければならない。この甘ったれた弱虫根性をどうするか。それがシーン攻略の鍵だ。

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