第42話 謎の少年

朝から派手なイベントが発生したからかその後は何も起こらずに1日が終わった。俺はアスカと一緒に帰った。これからは毎日アスカと一緒に帰る。アスカを一人にはさせない。だが…実際問題どうする?シーンクリアに角田撃破は必須だ。体が動くなら間違いなく角田ごときには勝てる。しかし全く体が動かない。それどころか手足が震えて話にもならない。それにシーンに時間制限があるのかどうかもわからない。課題が山積みなのは明白だ。

策が浮かばねえ。どうすりゃーー

「ずっと黙ったままだけどやっぱりまだ痛いの?病院に行く?」


…やっぱこいつは優しいな。自分が困ってるくせに俺の心配をして。

…あれこれ考えたってどうなるもんでもねえ。俺自身の問題だ。俺が変わらなきゃどうしようもねぇ。


「いや、もう大丈夫だよ。ありがとうアスカ。帰ったら酒セン行こうよ。お礼にお菓子買ってあげるよ。」


「ええっ!?本当に!?いいの!?」


「うん!でもなんか一個だけね。あんまりお金ないからさ。」


「ありがとうタロウ!私エヴリバーガーにしよ!」





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家に着き、俺たちはランドセルを降ろし菓子を買いに行く準備を始める。俺とアスカは部屋が同じだ。俺たちはお互いの母親とともに割烹料理屋の店の中に暮らしているから必然としてそうなる。無言で準備を続ける中、アスカが口を開いた。


「タロウ、今日はありがとね。私とても嬉しかった。学校に友達いないから話す相手もいないし、最近は谷口さんとか山川さんに何か言われるから辛かったんだぁ。でも今日はタロウが私といてくれたから学校がとても楽しかった。ありがとう!」


眩しい笑顔でそう言われた俺には後悔が募った。どうして過去の俺はアスカの気持ちに気づかなかったんだろう。どうして過去の俺はアスカの事をもっと考えてあげられなかったんだろう。俺は過去の俺に無性に腹が立った。


「アスカ。俺はアスカの事を絶対1人にはしないから。俺が絶対守るから。俺を信じて。」


そう言い、俺はアスカを抱き締めた。




俺たちは酒センに来た。この田舎の中では唯一のコンビニといってもいいような店だ。今でこそセブンやローソンがありふれているが、当時はこの田舎ではそんな洒落たものはなかった。だが俺はこの酒センが好きだ。きっとアスカとの思い出があるからだろう。でも俺は酒センが俺は大好きであり、入りたくない場所の一つになっている。


「タロウ、本当にエヴリバーガー買っていいの?高いよ?」


「いいよ。でも僕にも少しちょうだいね。僕の買うお菓子もアスカにあげるからさ。」


「いいよ!やったぁ!エヴリバーガー高いからママなかなか買ってくれないからすごい嬉しい!ありがとねタロウ!」


会計をしようとレジに並んでいた時に少し違和感を感じた。有線で流れている曲、これに違和感を感じた。舞花が流れている。舞花というのは彗星の如く現れ瞬く間に日本の音楽界を席捲した歌姫だ。

舞花だよな?この頃に舞花なんかいたっけ?正直この頃の俺は音楽に興味がなく非常に疎い。自信はないがまだ数年は先だったような気がする。


「ねーアスカ。今流れてる曲って誰が歌ってるかわかる?」


「舞花だよー?私いつも聞いてるじゃーん。」


「あれ?そーだっけ?ごめん。音楽あんまり知らなくてさ。」


どうやら気のせいか。未来を知ってるとこういう違和感も感じちまうんだな。気をつけないと。

買い物が終わり家に戻り俺たちはテレビを見ながらお菓子を食べた。アスカはとても楽しそうだった。決して美化してるわけではない。明らかに過去の記憶のアスカよりも楽しそうにしている。俺はこの笑顔を絶やさないようにしなくてはいけない。明日が勝負だ。俺は過去を変えてみせる。




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翌朝、俺はアスカよりも早く目覚めた。一人で海に行きたかったからだ。決して中二病的なあれではない。一人で考える空間が欲しかったからだ。それに美波との接触はこういう時にしかできない。昨日の内にラインをしといてここで落ち合う手筈となっている。

まだ空が白んできたばかりなせいか人がいない。まあ田舎なだけかもしれないが。目当ての砂浜に向かうと意外な事に先客がいた。美波ではない。同じぐらいの小学生の男の子だ。こんな時間に小学生1人って危ないだろ。現代なら不審者に攫われて事案になる可能性極大だな。なんて考えながら少し離れた場所に腰かけた。すると向こうの少年が俺に話しかけてきた。


「おはよう!早いんだね。この時間なら僕だけかと思ったけど君も来たんだね。」


「おはよう。僕もそう思ってたよ。君は何年生?どこ小?」


「あー…僕は関北小の3年だよ。君よりも上だね。」


コイツ3年か。でも朝から危ないだろ。田舎は呑気だな。いや…時代だろうな。なんだかんだ昔は不審者とかそんな騒ぎなんて滅多になかったはずだ。


「君はどうして朝からここにいるの?」


「ははは。それは君だって同じじゃないか。悩みがあるから1人になりたかったんだろう?僕も同じさ。」


コイツ小学生のくせにずいぶん大人びたしゃべり方だな。なんか調子狂う。


「僕は決意の再確認の為に来たって感じかな。」


「決意ね…なるほど。よし、一つ君にアドバイスをしよう。君は少し勘違いをしている。」


「勘違い?どういうことだよ。」


「君の決意は想像がつく。だが、それは勘違いだ。君は自分自身を変える必要があると考えているようだが人はそんなには変わらない。考えて変わるようなら苦労はしない。根っこの部分は変わらない。そんな現在の君が過去の成長とともに形成された人格だと思うかい?違うだろ、それは君の性根だよ。その性根を変えるのではなく奮い立たせるのさ。それが君自身の変化と言えるだろう。今度は必ず身体は動いて角田君を倒せる筈さ。」


「お前…誰だよ…?なんでそんな事までわかる…いや、知ってるんだ?」


「完全に夜明けが来る前に僕は帰るとするよ。」


「まてよ!質問に答えてねぇだろ!」


「ここで君と出会うのはまだオルガニの予定ではないだろう。これは僕からのボーナスだ。こんなシーンで消えてもらっては面白くないからね。」


「オルガニ?なんだよそれは。お前は運営側の人間なのか?!なんで俺の過去にいる!?答えろ!!」


「少し落ち着きなよタナベシンタロウ。君にとってはヒントを貰えたんだからいいじゃないか。僕に会わなければシーンクリアの糸口見つからなかったんだよ?感謝こそされても怒られる筋合いはないんじゃないかな。」


「…ちっ、悪かった。お前のいう通りだ。冷静さを欠いていた。」


「素直だね君は。素直な人間は僕は好きだよ。」


「頼む答えてくれ。お前なんなんだ?それにオルガニってなんだ?」


「悪いがそれを答える事は出来ない。どうせ忘れてしまうしね。それに僕はそろそろ帰るよ。」


「…わかった。ありがとう。お前のおかげでクリアが見えそうだ。」


「それは良かった。では僕は帰るよ。さようならタナベシンタロウ。また会えるといいね。」


そう言い残しその少年は消えていった。

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