第30話 決着

沈黙が続く。あれからどれだけの時間が経ったかはわからない。まだ十数秒程であろうが悠久のようにも感じられる。

光の輝きが収まったのはわかる。だが私はそれを確認する事ができずにいた。

先程のあの音はバルムンク…つまりはタロウさんの頭を潰された音ではないのか。その疑念が頭からは消えなかった。

状況から見ても私の予想通りの結末である可能性が高い。仮にバルムンクが腕で防いでそれが折れた音であったとしても戦闘が中断しているなんておかしい。どちらかが戦闘不能に陥っているのは確実であろう。

もしもタロウさんが死んでしまっていたら私には生きている意味は無い。後を追って自害しよう。幸いにも剣は手元にある。自死するには事欠かない。死など恐ろしくはない。私が恐ろしいのはあの人のいない世界だけだ。

さっさと眼を開けて確認しよう。もたついて甲斐が私の所にやって来たら面倒な事になる。

ーー覚悟は出来た。


私は眼を開ける事にした


ーーだが、私の目に映って来た光景は想像を超えるものであった。

そこに見たものは、バルムンクが立ち、膝をついているのがウールヴヘジンという光景であった。

ウールヴヘジンは右腕を抑えている。状況から見てあの音はウールヴヘジンの腕が折れる音だったのだろう。だけどどうして?



「ぐぅぅッ……!何故だ…!?何故俺の腕が……!?」


「わからぬか?」


「貴様ッ!!一体何をした!?」


「我は何もしてなどおらん。やったのはお前であろう。」


「何を言っている…!?」


「まだわからぬか?お前は拳聖なのだぞ?」


「そうだッ!!俺は拳聖ウールヴヘジン!!武の道を極めたモノであるぞ!!」


「そうだな。お前の技や身体能力は凄まじいものであった。お前にしかできない動きである。」


「当たり前だ!!これは俺の鍛錬の証!!誰ぞやが簡単にできる代物では無ーー」


怒りを露わにして怒声を上げていたウールヴヘジンが突如として沈黙した。その顔からは全てを理解した事が伺える。


「ようやく理解したようだな。お前自身は確かに強い。だが我らは身体を無くした身である。当然ながら身体を借り受けなければならない。そして忘れてはならないのが宿主が我らと同等の力を手にしている筈が無いのだ。使えばそれだけガタが来る。以前のような動きなどできるわけがない。それなのにお前は自分の身体のように扱った。限界を迎えて当然だ。その右腕以外ももう限界だろう。」


「ーーーーッ!!!」


「それに輪をかけて奥義の使用など愚の骨頂。奥義など宿主との対話が無ければ放てるものではない。貴様のように自己中心的な輩に奥義など100年早い。」


「だ、黙れ!!まだだ!まだ終わってなどいない!!」


「潔さまで無いとはな。愚かな男だ。貴様に拳聖などと謳う資格は無い。おや?何処かで聞いたような台詞だな。フフッ。」


「黙れと言っているのがわからぬのかァ!!!」


「ならば貴様に見せてやろう。貴様たちには無い我々のチカラを。」


バルムンクが纏う金色のオーラがより一層輝きを増す。携える剣の刃には蒼白い光が見える。その蒼白い光からは平伏してしまいそうなぐらいの神聖さが伺える。


ウールヴヘジンが最後の力を振り絞りバルムンクへと攻撃をしかけようとする。だがもはやその動きに精彩は無い。速度すらも常人を下回っている。そんな男に勝機などあるわけがなかった。


戦いの終焉がやって来たーー


「全ての剣の先に我は在るーーブラウ・シュヴェーアト!!」


蒼炎の衝撃波が辺り一帯の空間を引き裂き、海の水さえも飲み込み螺旋状に形成された衝撃波がウールヴヘジンへと襲いかかる。

放たれた蒼炎の衝撃波は暴風雨のように辺りを塗り潰す。そしてそれがいよいよウールヴヘジンを飲み込むと、一瞬でそれが通り過ぎ、静寂と共に太陽の光が戻る。


静寂が訪れた海岸を見るとウールヴヘジンの体がズタズタに引き裂かれ砂浜に漂着した漂流物のように転がっている。かろうじて生きているとは思うが戦う事は疎か立ち上がる事すらできないだろう。

終わってみれば完勝。圧倒的なまでの力量の差を示し、剣聖バルムンクの勝利で幕を閉じたーー

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