第21話 遭遇

小1時間ぐらい経ってから美波が洞穴から出て来た。なんだかスッキリしたような満足そうな顔をしている。やっぱり汗だくの体なんて気持ち悪いもんな。


「遅くなりましたっ!」


「大丈夫だよ。せっかく汗を拭いたんだから美波は涼しい洞穴の所にいなよ。」


「ダメです!私も手伝います!」


「こういうのは男の仕事だよ。俺にカッコつけさせてよ。」


「むぅ…そう言われたら何も言えません…。じゃあ洞穴の所からタロウさんのカッコいい姿を見てますねっ!」


「おう。それと美波、パン1つ食べておきなよ。」


「えっ?いいんですか?」


「食べないと力出ないから。」


「タロウさんは食べないんですか?」


「俺はもう食べたから。」


「それは嘘です。タロウさんは1人で先に食べる人じゃありません。」


美波は迷いのない目でそう言い放った。


「俺は男だからいいんだよ。美波は1日2食食べな。」


「ダメです!むしろ私が食べなくても大丈夫です!タロウさんが食べて下さい!」


こうなったら美波は引かないからな。しょうがない。伝家の宝刀を出すしかないな。


「美波、俺にカッコつけさせてよ。」


「それはズルいです…。」


「うん、ズルいよ。俺がそう言えば美波は拒否できない事もわかってる。」


「…わかりました。でも夜の時は半分は食べて下さい。これは私からのお願いです。」


「…お願いか。そんな風に言われたら何も言えないな。」


「はいっ!私がそう言えばタロウさんは拒否できない事もわかってますっ!」


美波がドヤ顔になる。そのドヤ顔が超可愛い。


「あはは。美波には負けたよ。わかった、ありがとう。」


「ふふっ!じゃあパンいただきますね。ここでタロウさんを見守ってますっ!」


まったく可愛い事言いやがって。どれ、働きますか!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれからひたすら作業を続け、水の量はおそらく4リットル分ぐらいはできた。まさかこんなにできるとは思わなかったがこの日差しならできてもおかしくはない。こまめに水分補給をしながらやってもこれだけ残ったのだ。自然って凄いよな。さて、時間的にもう夕方だから今日はここまでだな。別に確保しといた体拭き用の水を使って体を拭いて終わりにしよう。流石にこんな汗臭い体で洞穴にいたら美波に迷惑だもんな。まさか加齢臭なんか出てないよな…流石にまだ出てないだろう…なんかテンション下がって来たな…


「あ、もう終わりですか?」


俺の雰囲気から作業終了を察した美波が声をかけてくる。


「うん、今日は終わろう。見張りご苦労様。」


「ご苦労様なのはタロウさんです。本当にお疲れ様でした。体を拭くのでしたら私が拭きますっ!」


「大丈夫だよ。臭い体なんだから美波は離れていた方がいいよ。」


「臭くなんかありませんっ!むしろいいにお…じゃなくて、一生懸命働いてくれたタロウさんが臭いわけありません!だから拭きます!」


いや…マジで勘弁してくれ…上級魔法使いの俺が美波にそんな事されたらリトル俺が絶対目を覚ます。そんな事になったら美波に嫌われる事は間違いない。それだけは阻止しないといけない。


「私が全部しますからタロウさんは立ったままでいいですよ。そのまま立っていて下さいっ!」


言い方!いちいちエロいんだって美波は!リトル俺が少し反応しちゃってるから!リトル俺まで立っちゃうから!


「本当に大丈夫だって。」


「…私に触られるの嫌ですか?」


そんか悲しそうな顔するなよ…


「嫌なわけないじゃん。だけどほら…」


「じゃあ問題ありませんねっ!さ、脱いで下さいっ!」


もうダメだ…腹をくくるしかない…リトル俺を目覚めさせないように耐えるしかない。


「わかったよ…」


何も考えるな。無だ。無になるんだ。


「失礼しますね。タロウさんって逞しい体ですよね。すごく硬くて太いですし。」


お前わざとやってるんじゃないだろうな。


「わ!パンパンに張ってるじゃないですか!溜まってるんですね…こんなにしちゃダメですよっ!」


絶対わざとだろお前!


その時だったーー


少し離れた所から人の声が聞こえる。危機感はあるが正直助かった。リトル俺が目覚める寸前だった。


「美波、聞こえた?」


「聞こえました…!ずいぶん遠くですが確かに聞こえました!」


「資材と水を洞穴に隠して様子を見よう。焦らなくて大丈夫だからゆっくりやろう。」


「はいっ!」


辺りを警戒しながら俺たちは洞穴に水と資材を隠した。搬入が終わった時には声がどんどん近づき、プレイヤーの姿も確認できた。


「3人…ですね。1人が追われているように見えますね。」


「そうだね。戦闘をして落ち延びたのか、逃走中に見つかって逃げているのか。逃げてる方は女だな。」


段々とシルエットがハッキリとし、逃げている方は女、追う方は男2人なのがわかった。作業場近くの砂浜へと近づいた時に女の足が止まり、男たちに相対する。

女の歳は高校生ぐらいだろうか。ずいぶんと若い。見た目は悪くない。ハッキリ言って相当可愛い部類に入る。だけど美波や楓さんを見てる俺にとっては驚く事はないのが現状だ。2人のレベルは神の領域だからな。

相手の男は1人が茶髪のボウズ頭のいかにも不良という感じだ。歳は20歳前後だろう。もう1人は小太りの短髪の不良っぽい男だ。

距離が近い事と怒鳴り声なので会話の内容が洞穴にまでハッキリと聞こえた。


「付いて来ないで!!」


「イヒヒ!怖え怖え!」


「さて、そろそろ年貢の納め時だな!」


「村中さん、それいつの言葉っスか?」


「一度言ってみたかったんだよ!さ、痛い目見ねぇウチに股開けよ!殺しはしねぇからよ!」


「誰がアンタらみたいなブサイクに!!」


「生意気っスね。ちょっと痛い目見せてから俺たちの奴隷にしましょうぜ。」


「そうだな。女の分際で舐めやがって。顔は殴るなよ。萎えっからよ。」


「ういっス!イヒヒ!」


「来るんなら私だって黙ってないよ!!」


「へっ!生意気な女だ!」


子分らしき男の体から赤いエフェクトが現れる。Sレアのスキルか。


「俺のスキルは《身体能力上昇》。色でわかる通りSレアだ。その上昇率は30%!さーて!『ごめんなさい、性奴隷にして下さい』って言えたら殴るのやめてやるからな!死ぬなよー!」


子分が女に向かって歩み寄る。だが、女の顔に焦りは無い。


「Sレア如きで勝ち誇ってるなんてウケる。」


「あ!?」


女の体から銀色のエフェクトが現れる。


「え、SSレア…!!」


「逃げるんなら別に追わないけどどうする?」


「な、舐めてんじゃねぇぞ!?レアリティで勝負が決まるわけじゃねぇ!!」


子分が女へ正拳突きを喰らわせようとする。しかし、女がそれを難なく躱し、お手本のような綺麗な回し蹴りを子分の右膝へ叩き込む。パチンという乾いた音がして子分がその場に崩れ落ち、右膝を抑えながら苦悶の表情を浮かべている。


「だっさ。」


女が子分に対し上から見下しそう言い放つ。完全に形成逆転だな。






「強いですねあの娘。」


「そうだね。でもここからが本番だな。どうみても今の男はもう1人の男の奴隷。主人がSレア以下とは考えにくい。SS以上の可能性が高いよ。」


「そうですよね…大丈夫でしょうか…」





主人の男が奴隷の男に近づいて来る。


「ぐっ…!すっ…すみません…村中さん…」


「ちっ、使えねぇなお前は。」


「これでわかったでしょ?別に命は取らないからどっか行きなよ。」


「舐めてんじゃねぇよ女の分際で!俺を侮るな!!それにテメェはもう戦えねぇんじゃねぇのか?」


「…は?」


「お前、スキル1回か2回しか使えねぇだろ?たくさん使えるなら逃げる必要なんかねぇもんな。俺はヤル気満々だぜ?さぁて、どうするよ?」


村中と呼ばれている男の体から銀色のエフェクトが現れる。


「くっ…!SS…!」


「おら!お前もスキル使えよ!SS以上のスキルがあんならなぁ!!」






女がスキル発動しないって事は村中の言う事が当たってるって事か。仕方ない、見殺しになんかできないからな。


「…美波、あのさーー」

「わかってます。あの娘を助けたいんですよね?」


おぉ…!テレパシーか?


「わかる?」


「はいっ!ここで助けるのがタロウさんだと思います。」


「美波には敵わないな。…じゃあ行ってくるよ。周囲の警戒頼んでもいい?」


「もちろんです!任せて下さいっ!」


俺は美波から脱いだTシャツを受け取り颯爽と駆け出した。





「タロウさんのそういう優しい所が私は好きです。」

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