第20話 真水の精製

現在の時刻は7時を回ったところだ。言葉の使い方としては2日目なのだろうが実質1日目なのでここからはそれで統一する。

あの後海岸に移動した俺たちはちょうどいい具合の洞穴みたいな場所を発見し、そこに陣を張った。見つからないような死角になっている場所にある洞穴なので前線基地としては最高だ。長期戦になるのだから体を休める事も大切なので美波には先に休んでもらった。美波は先に休む事になかなか納得してくれなかったがどうにか先に休んでもらった。

まず今日は飲料水の確保が先決だ。最悪食糧は無くても3日ぐらいならどうにでもなる。だが水分がなければ圧倒的にパフォーマンスは下がる。それは戦場においては命に関わる由々しき事態に陥る事になる。飲料水は勝ち残る為には不可欠だ。だがこんな無人島らしき所に水がある可能性は低い。いや、森の方なら湧き水とかがあるかもしれないがきっと他のプレイヤーも同じ事を考えてそっちに群がるだろう。そうなればエンカウント率が高くなる。それは得策とはいえない。だが海岸で真水を手に入れるには相当厳しい。そんな事は普通に考えれば誰でもわかる。だが幸いな事に俺にはサバイバルの知識がある。昔、本を読みまくってた時期にサバイバルの指南書みたいなもんを読んだ事がある。そこには真水の精製法が載っていた。俺はそれをバッチリ記憶している。サバイバルなんか実際にした事はないから絶対に成功するとは言えないが俺の知識がちゃんと役立つ事に賭けるし

かない。美波が寝ている間に段取りはしておいた。あとは太陽の熱で暖められるのを待つだけだ。この島の日差しは強いし、気温も高い。洞穴は涼しくて快適な環境だが、日差しの当たる砂浜では既に25度には達している感じがする。理論が間違ってなければそろそろ完成するはずだ。完成の瞬間を美波に見せたいから起きるまで待っていよう。これでできなかったら最高にダサいけどな。


「おはようございますっ!」


不意に背後から声をかけられたのでビクっとなってしまう。美波だ。今日も可愛いな。美波を見るだけで色々元気になるよ。


「おはよう。もっと寝ててもよかったのに。」


「そういうわけにはいきません!本当にありがとうございました。今度はタロウさんが休んで下さいっ!」


残念だがまだ休むわけにはいかない。せっかく作った水精製装置を美波に見せるまでは俺は終われないんだ。


「美波、ちょっとこっちに来て。」


「はい…?なんでしょうか…?」


不思議そうな顔をしている美波を連れて俺は砂浜へと向かった。どうか完成していてくれよ。俺のカッコいい所を美波に見せつけさせてくれ!

俺は期待半分、ビビり半分で装置へと近づく。恐る恐る見て見ると…できている!水がある!!


「よしよし。ちゃんとできてるな。」


「なんでしょうかこのビニールは?物資が入っていたコンビニの袋ですか?わ!タロウさん、これって…!」


「そう、水だよ。」


「どっ、どうして水があるんですか!?」


「サバイバルの本で読んだ事があるんだよ。まず穴を掘って、その掘った穴の中に海水を入れる。そして中心に受け皿を置いて、穴を覆うようにビニールを被せる。最後にビニールの中心に小さい石でも置いて太陽光を浴びせれば蒸発した海水がビニールに溜まって下の受け皿に落ちて真水が出来るって感じだ。」


「すごいです!!やっぱりタロウさんはすごいです!!」


俺の人生史上、最高にカッコいいな。美波が俺を尊敬の眼差しで見つめている。がんばって穴掘りしてよかった。


「そんな大した事じゃないよ。」


「大した事ありますっ!!私が寝てる間に作業して大変でしたよね。1人で寝てて申し訳ないです…」


「いいんだよ。俺は美波が笑ってくれればそれで元気になるからさ。」


「…笑ってくれれば?それって俺の側で一生笑ってくれって事なのかな。」


うん、安定の美波の独り言が始まったな。


「とりあえず味見してみようか。冷たくはないけど水分補給はできるからさ。一応俺が毒味をするよ。俺が生きてたら美波も飲んで。」


「縁起でもない事言わないで下さい!怒りますよ!」


「ごめんごめん。じゃあ先に飲んでみるね。頂きます。」


おっ…!ちゃんと水だ!塩分が本当に無いぞ!


「オッケー、ちゃんと水だよ。結構美味しいよ。」


「じゃあ私も頂きますっ!……わ!すごいです!美味しいです!」


「これで水の問題は解決したな。出来た水は貝殻にでも入れて保管しておけば問題ないだろう。穴に海水を入れたらちょっと寝てもいいかな?」


「それぐらい私がやります!だからタロウさんは休んで下さい!」


「じゃあ美波の厚意に甘えて休ませてもらうよ。何かあったらすぐ起こして。」


「わかりました!」


やっぱり組んで戦うって強みだよな。1人で戦ってたら休む事もできないわけだろコレ。仮に奴隷がいたとしても寝首をかかれる可能性だってあるもんな。美波と出会えて本当に良かったな。何より可愛いし。うん。

冗談はさておき真面目に現状確認しとくか。俺のスキルは《剣聖》と美波から貰った《打撃無効》、《剣の心得》だ。《剣の心得》は俺に効果があるかはわからないけど他に有用なスキルが無いからとりあえず装備した。

美波のスキルは《騎士の証》、《予知》、《身代り》とSSフルセットの布陣だ。あれ?俺より美波のが強くね?そうなると俺の存在意義ってなんだろう…。いやいや。ネガティヴなのはいかんぞ慎太郎。こんな時はとりあえず寝よう。決して現実逃避じゃないぞ。体を休めて戦いに備える為なんだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ましてスマホを確認するとちょうど昼になっていた。洞穴の中に美波の姿は無い。俺は急いで洞穴から出て美波を探す。すると水精製所に美波はいた。汗だくになって水を精製している。


「ちょっと美波!?汗だくになってるじゃないか!?」


「あっ!おはようございますっ!」


ここに転送した時に美波が着ていた服は紺のカーディガンに白Tシャツ、下はスカートの清楚スタイルだったが、今はカーディガンを腰に巻いて白のTシャツ1枚になっている。その白Tシャツが問題だ。美波は汗だくになっている。そりゃあ30度を軽く超えているであろうこの暑さだから当然だ。汗だくだからTシャツが透けてその程よいサイズのCカップであろう胸を包む水色のブラが見えている。エロい。エロすぎる。上気して頬までピンク色に染まってるじゃねぇか。


「あのさ…美波。」


「なんでしょうか?」


キョトンとした顔するな。これ俺がバーサーカーモード入っても美波のせいだよ?


「…いや、なんでもない。そんな汗だくになってずっと水を使ってたの?」


「はいっ!日差しが強いからすぐに水ができるので楽しいです!あ…すみません、汗臭いですよね…」


全然臭くないんですけど。いい匂いがプンプンして俺の理性がヤバイんですけど!


「いい匂いしかしな…じゃなくて臭くなんかないよ。」


「そうですか?なら良かったです!」


「次は俺がやるから美波は休んでなよ。あ、汗で気持ち悪いなら水浴びでもしてくる?俺が見張ってるからさ。」


「いいんですか?あ、でも…」


「あ、もちろん覗かないから!ちゃんと後ろ向いて見張ってるから!」


「…別に覗いてもいいんですけど。」


「ん?なんだって?」


「なんでもありません。海水だからベトベトしないかなって思ったので。」


「あー、確かに。それなら水はあるから体拭くだけでもやれば?タオルは無いけど俺のシャツで拭けばいいからさ。あ、俺のシャツなんかじゃ嫌だよーー」

「それがいいです!!それで拭かせて下さい!!」


「あ、はい。」


「じゃあ洞穴で拭いて来ますね!!覗いちゃダメですからねっ!!」


「あ、はい。」


俺からシャツをぶん取って美波は洞穴に消えていった。なんか殺気が出てて怖かったな。やっぱり体を拭きたかったんだな。女の子だもんな。うん。

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