第12話 剣聖バルムンク
暦を数えるのをやめてからどれぐらいの月日が経ったのだろう
退屈だ。何もできないというのは苦痛以外に他ならない
剣に触れたい
剣を握りたい
剣と対話をしたい
我は剣と共に生きてきた。その我が剣に触れられないのなら存在する意義など無い
我はなぜ存在しているのだろう
それすらももう忘れた
それからどれだけの月日が流れたかはわからないが我を訪ねて来た者がいた。怪しげな仮面をつけた気味の悪いモノだ。だが話す事などない。我が話をしたいのは剣のみ。
『お初にお目にかかりまス。剣聖サマでございますネ?』
「失せろ。」
『これは手厳しイ。ですが剣聖サマ。私は良い話を持って来たのデス。話だけでも聞いて見ては如何でしょうカ?』
「不要だ。」
『今一度剣を握れるという話でもデスカ?』
「…どういう事だ?」
我はそのモノに対して興味が湧いた。
『取引に応じて頂ければ剣聖サマにその機会をお作りデキマス。』
「取引だと?」
『えエ。取引と言いましても難しい事はありませン。我々”オルガニ”に協力をして頂キ、”聖符”に剣聖サマの魂を封じさせて頂ければそれだけで十分デス。そしてその聖符を使う者の体に剣聖サマが乗り移れば今一度剣を握れるという事で御座いまス。』
「貴様、何を企んでおる。それだけで終わるわけがなかろう。」
『カカカ!流石は剣聖サマ。ですガ、そんな事は関係ないのではありませんカ?私が何かを企んでいてモ、いなくてモ、剣聖サマは剣を握れればそれだけでよろしいのでハ?』
「なるほどな。気に入らん点は多々あるが背に腹はかえられぬ。契約を交わそう。」
『剣聖サマは聡明で御座いまス。御留意頂きたいのでスガ、聖符の使い手は剣聖サマの主人となられる方になりますので指示に従って頂きマス。』
「わかっておる。して貴様の名は?」
『アインスに御座いまス。では剣聖サマ、聖符の使い手が現れるまでしばしお待ち下さいマセ。』
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あれからどれぐらい月日が経ったのだろう
だが今回は苦にはならない
剣を握れるという希望があるからだ
待ち遠しい…早く…早く我を…
ーーそしてその時がようやくやって来た
『主か、我を呼んだのは。』
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俺は《剣聖の魂》を使うと念じて、初めてのスキル使用を試みた。それと同時に俺の体を金色のエフェクトが包み込む。そして俺の周りの空間に楔形文字のようなモノが浮かび上がり、前方には魔法陣のようなモノが現れる。魔法陣が金色に光り輝き、中心からナニカが現れた。
現れたのは女…いや、男か。その男は黄金のような輝きを放つ金色の髪を後ろで束ねたポニーテールのような髪型をし、サファイアのような青く美しい瞳、芸術品のような美しい顔立ちをしている。あまりの美しさに女と見間違ってしまった。胸のラインで判別しなきゃ女にしか見えないわ。まぁ、剣聖ってぐらいなんだから男に決まってるよな。つーか凄いイケメンだな。
『主が我を呼んだのか?』
「あ、ああ!」
『ふむ。悪くはないな。』
悪くはない?悪くはないって何がだ?
「何がだ?つーか悪いんだけど今は緊急事態なんだ。話なら後にしてとりあえずコイツら片してもらえないか?」
『案ずるな。我と主以外の時は止まっておる。』
イケメンがそう言うので隣にいる美波を見てみると動いていない。ゾルダートたちも同様だ。本当に時が止まっている。これあれだよな。美波に触っても本人にバレないわけだよな。やらないけどさ。
「お前って時を止める事ができるの?」
『できぬ。これは我を初めて呼び出した者にだけ得られる特権である。ただし他の者に危害を加える事はできぬぞ。』
そりゃあそうだよな。そうしたらゾルダートたちを背後から斬りつけてゲームクリアだもんな。
『で、主は此奴らを斬れという事で我を呼んだと見て良いのだな?』
「話が早いな。できるか?」
『この程度の奴らなど造作も無い。だが我が此奴らを倒すのには条件がある。』
条件付きかよ。条件満たせなかったらどうなるんだ?助けてくれないのか?それはちょっと勘弁してもらいたいぞ。このイケメンが助けてくれなきゃ俺と美波はゲームオーバー確定だ。
「…何だよ条件って。」
『主の体が必要だ。』
……は?
え?何それ?コイツってそっち系なの?ちょっと待てよ。俺の初体験が男ってどんだけだよ。上級魔法使いから暗黒魔道士にジョブチェンジするじゃねぇか。
『む?主は何か勘違いしておるようだな。我が力を出す為には肉体が必要だ。簡単に言えば乗り移る必要がある。その為に主の体が必要なのだ。』
紛らわしい言い方してんじゃねぇよ!!勘違いするのが当たり前だろ!!つまりはイタコみたいなもんだろ。それならいいか。
「…なるほどね。お前に体を貸して俺にデメリットはあるのか?」
『主の体の限界を超える力を我が使えば、主の体にダメージが出るぐらいであろう。大した事ではない。』
大した事あるだろそれ。お前剣聖だろ。筋断裂とかしないだろうな。
「…背に腹はかえられねぇか。じゃあ頼むよ。俺は田辺慎太郎だ。お前は?」
『ふむ、シンタロウか。良い名ではないか。我はバルムンク。かつて剣聖と呼ばれていた。』
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