第9話 どうしてこうなった

「やっと駅に着いた。1日長かったな…」


仕事が終わって最寄り駅の小山駅に着いた。後はここから歩いて数分のマンションへ帰るだけだ。


「冷静に考えると凄い1日だったよな。」


俺'sヒストリーを始めて24時間ほどが経過した。昨日この道を帰るときにはまさかこんな体験をする事になるとは思ってもいなかった。過去をやり直すチャンスだとか、奴隷獲得とか、あまりにも非現実的な事だもんな。

それに美波みたいな美人と知り合いにもなれたし。挙句にライン交換もしてしまった。俺の人生現時点でも相当変わったよな。それにしても美波は可愛いよな。帰ったら電話でもしてみようかな。いや、ウザいか?うーん…。あ、しまった。コンビニで弁当買うの忘れた。もうマンションに着いちゃったしな。仕方ない、カップ麺でいいか。

自宅がある最上階の8階までエレベーターで移動する。8階に着けばあとは角部屋である810号室までちょっと歩けば俺の楽園へと帰還できる…はずだった。


誰かが俺の部屋の前にしゃがんでいる


薄暗い明りだから誰かはわからない。体つき的には女だ。誰だ?俺はモテないから女の知り合いなんていないぞ。

恐る恐る近づいてみる。すると相手もこちらに気づいたみたいで立ち上がるーー


「あっ!おかえりなさいタロウさんっ!」


「えっ…?美波…?」


部屋の前にしゃがんでいたのは美波だった。なんで美波がいるんだ?忘れ物か?


「どうした?忘れ物?」


「いえっ!ごはんを作りに来たんですっ!でもタロウさんの帰宅時間聞くの忘れてしまったので待ってました。」


いや、危ないだろ。もう夜の10時だぞ。一体いつからいたんだ?このマンションはオートロックじゃないんだから不審者とかいたらどうするんだよ。


「いつから待ってたの?」


「えっと…6時ぐらいからです。」


「そんなに待ってたの!?」


俺は美波の手を握って体温を確認する。


「ふえっ…!たっ、タロウさん…!?」


冷たくなってんじゃん。まだ春なんだから夜は冷えるんだぞ。風邪引くだろ。パーカー1枚しか着てないし。体のラインがよくわかるキツめのパーカー1枚しか着てないし。胸が強調されてるパーカー1枚しか着てないし。


「冷たくなってるじゃないか。風邪引いたらどうするの?それにそんな長時間外にいたら危ないだろ。」


「すみません…でも…タロウさんにごはん作りたくて…」


よく見るとスーパーの袋が足元にある。これじゃ怒らないな。美波はいい子だな。俺に恩義を感じて作りに来たんだよな。


「ありがとう美波。でも無理しなくていいんだよ?ま、とにかく中に入ろう。入って入って。」


「はいっ!お邪魔しますっ!」


美波を家の中へ上げたはいいがどうしよう。暖房なんか無いもんな。あれだけ体温奪われてたら風邪引くのは確かだ。風呂で温まるのが一番だと思うけどここで風呂に入って来いよなんて言ったら下心丸見えだもんな。さてどうするか。


「タロウさん?どうしたんですか?」


「いや、美波にどうやって風呂に入らせるか考えててーー」

「えっ!?」


「…」


…どうしよう。つい言っちまった。違うんだよ、下心なんか無いんだよ。うわぁ…美波がめっちゃ俺を見てる。無言で見てる。仕方ない。本音で行こう。嘘をついてはいけないと俺の第六感的なのが言っている。


「…あのな、そんなに体が冷え切ってるんだからこのままじゃ美波が風邪を引く。だから風呂入って温まって来て欲しいんだよ。」


「えっと…いいんでしょうか?そうするとごはんの支度が遅れてしまいますけど…」


「そんなの全然いいよ!美波が風邪を引く方が俺は嫌だよ。」


「ふふっ!じゃあ先にお風呂頂いてもよろしいですか?」


「もちろん!あ…でも替えの服とか下着が無いか…女の子だもん同じの着るのは嫌だよな…どうするかーー」

「あ、大丈夫です。替えの下着はありますからっ!でもパジャマは無いのでお借りしてもいいでしょうか?」


何で下着あるんだよ。てかパジャマって何!?泊まる気!?


「えっ!?美波、泊まるの?」


「そうですけど…?」


何、その泊まるのが当たり前みたいな空気!?当たり前の事何聞いてんだコイツみたいな眼は何!?いくらなんでも無防備すぎだろ。俺だって男だよ?美波みたいな可愛い子いたら襲うよ?知らないよ?

あ、わかった。男って思われてないパターンかこれ。そうだよなぁ。俺みたいなのと美波が釣り合うわけないもんな。意識なんてされるわけがないよな。


「それはダメだよ。」


「どうしてですか?」


「そりゃあ…」


困ったな。なんで?って聞かれたら言葉が出ないな。


「私…昨日の事が怖くて…もしかしたらこれは夢で、目が覚めたら澤野がいるんじゃないかって…だから…タロウさんにいて欲しくて…」


くっ…!俺はなんて馬鹿な男なんだ…!美波は1人でいるのが怖いから俺と一緒にいたいんじゃないか!他に頼れる奴なんているわけないだろ!それなのに俺は襲うとかそんな事考えて…!澤野と同じだろそれじゃ!!


「ごめん美波…俺の考えが足りなかった。いいよ、泊まっても。」


「ありがとうございますっ!じゃあ明日、私の部屋から荷物持って来ますねっ!」


「…え?荷物?」


「すぐにお風呂入って来ちゃいますねっ!少し待っていて下さいっ!」


そう言って美波は風呂場に入って行った。

え?何?ここに住むの?どうしてこうなった…

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