第8話 私の気持ち
リザルトが終わり視界が明るくなったと思ったら私は知らない部屋にいた。隣を見ると田辺さんが横になって寝ている。ここは田辺さんの部屋だろうか?男の人の部屋なんて入った事ないからドキドキする。
…ドキドキ?
違う。男の人の部屋だからではない。田辺さんの部屋だからドキドキするんだ。自分の事だからよくわかる。私は恋なんてした事がない。だけどこの人を見るとドキドキして胸が苦しくなる。間違いない。私はこの人の事が気になっているんだ。こんなに優しく…ううん。優しいなんて軽い言葉でこの人の事を語ってはいけない。そんな人だもん好きになっちゃうよね。
でも何で私は田辺さんの部屋にいるんだろう?奴隷…じゃないよね?
奴隷……田辺さんの奴隷なら別にいいかも何て思ってる私を怒らないといけない。
その時だった。スマホにオレヒスから通知が来る。
『いつもご利用頂きありがとうございます。俺'sヒストリー運営事務局です。
バディイベントお疲れ様でした。支配下プレイヤーを獲得された方はおめでとうございます。今後もイベントでご活躍される事を心よりお祈り致します。
そして、残念ながら支配下プレイヤーとなってしまった方は主人プレイヤーの為に今後の人生を捧げて下さい。
今回は支配下プレイヤーの取扱についての説明となっておりますのでテキスト形式での通知とさせて頂きます。
支配下プレイヤーのアプリアイコンは現時点から鎖が巻き付けられたモノに変わっております。これは支配下プレイヤーの証となります。主人プレイヤーは支配下プレイヤーをイベントやシーンに連れて行く事ができます。そして主人プレイヤーが敗北した時には支配下プレイヤーを身代わりとする事ができます。使い方は人それぞれ。ご自身でお考え下さい。
そしてこれは今後の事も含めてのお話となりますが、今回支配下プレイヤーを獲得したにも関わらず、その支配下プレイヤーを解放された方がおります。それもアルティメットレアのスキルを代償としてまで行った非常に面白い決断だったと思います。その方々向けのお知らせとなりますが、当然支配下プレイヤーではないので鎖で繋ぐ事はございません。ですが、お互いの同意があれば”赤い糸”で結ぶ事ができます。この赤い糸の効果は基本的に鎖と同じです。結び方はマイページに行けばコマンドが出ますのでそちらでお願い致します。
そして今後の話になりますが、支配下プレイヤーの解放は自由とさせて頂きます。いつでもご自由にどうぞ。
それでは今後とも俺'sヒストリーをよろしくお願い致します。』
通知を確認した後に念の為アプリアイコンを確認してみるが鎖は無い。やっぱり私は解放されたんだ。田辺さんの手によって。
なんか…嬉しいな
でも何でそんな事ができるんだろう。自分が損してまでどうしてできるんだろう。もっとこの人の事が知りたい。そう思った私は寝ている田辺さんを観察してみる事にした。
顔はすごくカッコいい。それにすごく優しそう…ううん、優しい。体も筋肉質だ。それにいい匂いがする。
なんだか私の心拍数が上がってきた。体も熱いし顔も熱い。
……ちょっと一緒に寝てみようかな。ちょっとぐらいならいいよね。この胸のドキドキが本物か確かめるだけだからいいよね。うん。
「しっ、失礼しますっ!」
寝ている田辺さんに一応断って、私は田辺さんの胸を枕にして一緒に寝てみた。
うわぁ…!これすごい…!心臓が爆発しそうなぐらいバクバクいってる…!
……ちょっと待って、私何してるの!?初対面の男の人と一緒に寝て何やってるの!?そもそもこのタイミングで田辺さん起きたらどうするの!?変な子だって思われるよ!?冷静になりなさい美波!!落ち着くのよ。クールになりなさい。
……もうちょっとだけ堪能したら田辺さん起こそう。
「田辺さんっ!起きて下さいっ!」
じっくりと堪能した私は何食わぬ顔で田辺さんを起こした。しばらく起こしていると田辺さんが目を覚ました。結構距離近いかな?大丈夫だよねこれぐらい。
「えっと…相葉…さん?何でここに…?」
「私にもわかりません…視界が明るくなったらこの部屋にいて、目の前に田辺さんが寝ていたんです。」
田辺さんとお話しできてるのがすごく嬉しい。顔が赤くならないように冷静に努める。まずはしっかりお礼をしなくちゃ!
「あの…本当にありがとうございました。田辺さんが助けてくれなければ、私はあの澤野って男に今頃…」
「礼なんて要りませんよ。俺は当たり前の事をしただけです。」
当たり前のように言える田辺さんすごいですっ!
「でも、そのせいで田辺さんは大事なアルティメットを失ってしまいました…!本当に申し訳ないです…」
「うーん…別に大した事じゃないですよ。そんな事で済んで良かったです。だから気にしないで下さい。」
胸が苦しい…!キュンキュンしてるから田辺さんを直視できないよ…!
「…どうしてですか?どうして私なんかに優しくしてくれるんですか?私を救って、田辺さんは何も得はしていません!損しかしていません!それなのに…どうしてですか。」
「…相葉さん、それは違います。俺は損なんてしていませんよ。それに得もしてます。」
「え…?」
得…?してないですよ…?
「あなたの人生を救えたのに損なんてするわけがありません。得は…こうして相葉さんと話ができている事が得です。これに笑顔でも付けてくれたら最高ですね。あはは。」
また涙が出そうになった。どうしてこの人はそんな風に言えるんだろう。どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。やっぱりこの気持ちは本物だ。私はこの人に惚れてしまったんだ。ちゃんと…ちゃんと言わなきゃ。
「…あの時、奈落の底に突き落とされた気分だったんです。」
「え?」
「澤野の奴隷にされる事が決定し、更にはバディだったはずの和田にまで裏切られて…。男の人なんてそんなもんなんだ、そういう事しか考えてないんだって改めて思い知らされました。私の人生を振り返ってみても男の人ってそういう性的な事しか考えていない人たちばかりだったんです。だから私、男の人って苦手なんです。性的な事を考えている人ってわかっちゃうんです。でも…田辺さんは違った。最初に見た時から思っていたんです。そういう雰囲気出ていない人って初めて見たから気になってました。だから田辺さんが私を助けてくれた時、本当に嬉しかったんです。」
しっかりと自分の気持ちを田辺さんに話す事ができた。
「初めて相葉さんの笑顔見れましたね。」
「あ…自然に笑っていました。恥ずかしいですね。ふふっ!」
「すごく得させてもらいました。ありがとうございます。」
なんか恥ずかしいな。でも田辺さんにそういわれてすごく嬉しいな。
「でも…。そんな事ではダメだと思いますっ!恩返しがしたいんですっ!何かおっしゃって下さいっ!何でもしますっ!!」
「……本当に何でもいいんですか?」
「はっ、はいっ!!」
意外な反応だった。やっぱり田辺さんも男の人だもんね。全然大丈夫!心の準備はできてますっ!でも、田辺さんも私の事を想ってして欲しいなぁ…我儘だな私…
「じゃあ…朝ごはん、作ってもらってもいいですか?」
「…………はい?」
なっ、何を言っているんだろう…?ごはん…?ごはんなの…?それでいいの…?
「あ、料理苦手でしたか?」
「いっ、いえ!料理は人並みにはできると思います!そうではなくて…そんな事でいいんですか?」
「俺の為にごはんを作ってくれたら幸せです。」
…今の台詞ってどういう意味だろう。結婚しようって意味なのかな。もしかして田辺さんも私の事想ってくれてるのかな?そうだといいなぁ。でも本当に欲が無い人だなぁ。
「本当に欲が無い人ですね。台所借りますねっ!すぐに用意しますので待っていて下さいっ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おー…凄い美味しそうですね。」
テーブルに並べた品は、トースト、ベーコンエッグ、ポタージュスープの3品だ。トーストは焼いただけ、ポタージュもレトルトだから料理なんてしてない。ごはんを作ろうと意気込んだのにベーコンエッグしか作ってない。冷蔵庫に何も無かったから仕方ないけど…手料理振る舞いたかったのに…
「冷蔵庫に何もなかったのでこれしかできなくてすみません…」
「十分ですよ!俺じゃこんなのできませんし、トーストも明らかに自分で焼くより美味しそうです。相葉さん、ありがとうございます。」
やっぱり優しいな田辺さん。よしっ!勇気出して言ってみよう!がんばれ私!
「あのっ!私の事は美波って呼んで下さいっ!それと敬語はやめて欲しいですっ!…その方が距離が縮まるし。」
うぅ…最後はひよってしまった…
「わかりました…じゃなくて、わかったよ。じゃあ俺の事もタロウって呼んでよ。親しい人はみんなそう呼ぶから。改めてよろしくね、美波。」
うわぁ!前進!前進したよっ!名前で呼んで呼ばれてのよ関係まで前進したよっ!
…よし!タロウさんって呼んでみよう!
「はいっ!よろしくお願いします、タロウさんっ!!」
言えた!言えたよっ!やった!やった!
「でもタロウさん、ちゃんとした食事を摂らないとダメですよ?野菜室に何も入って無かったですし、お弁当とカップ麺のゴミがたくさんありました。」
そこから考えられる事は彼女はいないと思う。断定はできないけど。
「仕事があるからなかなか難しくてさ。ついコンビニとカップ麺の世話になっちゃうんだよ。」
「あ、やっぱり社会人なんですね。タロウさんはおいくつですか?私は20歳の大学生です。」
「俺は34だよ。」
「えっ!?34!?34歳ですか!?」
「お、おう!」
全然見えない…私とあまり変わらないと思ってた。
「全然見えませんっ!!23、4だと思ってましたっ!」
「あはは。それはよく言われる。それだけは自慢なんだよね。いつも中高生を相手にしてるからアンチエイジング効果があるのかもね。」
「中高生…?タロウさんは学校の先生ですか?」
「いや、家庭教師やってるんだ。」
「あ、なるほど!プロでやられてるって事は頭が良いんですねっ!すごいですっ!」
タロウさんが先生だったら勉強に集中できなくなっちゃうよね。それに違うレッスンとかしてもらいたく…って!違う違う!何を考えてるの私は!!
「美波、大変な事に気付いちゃったんだけど。」
「…どうしたんですか?」
まさか私の妄想がバレたとか…?そんな事になったら切腹ものだよ…聞くの怖いなぁ…
「美波ってどこに住んでるの?場所によっては結構大変な事なんじゃないか?」
「あっ…!全然気付きませんでした…」
なんだ…そんな事か…驚かさないで下さいよ。バレたのかと思っちゃいました。
「ここ茨城なんだけーー」
「ええっ!?茨城なんですか!?わっ、私も茨城なんですっ!!!」
47分の1の確率…これって結構すごい確率だよね…
「ここ茨城市の小山ってとーー」
「ええっ!?小山なんですか!?わっ、私は上郷なんですっ!!!」
こんな事なんてありえないよね…これって…
「…絶対運命だよね。こんな偶然あるわけないもの。」
「でも凄い偶然だね。あ、大学生って言ってたけどどこの大学なの?俺は茨城中央大学だったーー」
「ええっ!?茨城中央大なんですか!?わっ、私も茨城中央大なんですっ!!!」
「…間違いない。運命なんだ。」
「なら今日は大学あるよね?駅まで送って行くよ。それとも大学まで送って行こうか?なーんてーー」
「ぜひ大学までお願いしますっ!!!!」
「お、おう…?」
やった!タロウさんに送ってもらえる!嬉しいな!頑張れ私!!
こうしてタロウさんとの物語が始まっていくのであった。
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