第4話 勝利
「はい、みーつけた!!おっほっほー!!女や!!女やで!!それもとびっきりの上玉や!!なぁ、シンさん!!」
澤野が歓喜しながら手招きで俺を呼ぶ。遅れながら俺も角を曲がると、そこには女の子と中年の男の2人のプレイヤーがいた。
中年の男の方はどこにでもいる普通のオッさんだ。何かを目立って挙げる事もないモブ全開のオッさんの中のオッさん、キングオブオッさんだ。
だが、女の子の方は凄まじい程の美人だ。腰まである長い黒髪、少したれ目の優しい瞳を持ち、美しさと気高さを併せ持つ女の子だ。
身に纏っている青のワンピースが彼女の清楚さを更に引き立てている。圧倒的なまでのその存在感に俺の心は彼女に釘付けになっていた。
「そんな…どうして…?」
俺が聞いた彼女の初めての言葉は恐怖の感情を帯びていた。だが、恐怖の中にも彼女の持つ気高さは失われていなかった。俺たちに先手を取られはしたが、彼女の瞳は次の一手を必死に考えている。その彼女の表情に俺は見惚れていた。
「みっ、美波ちゃん!逃げよう!逃げて態勢を整えるんだ!」
「はっ、はいっ!!」
俺たちに出くわして混乱している様子だったが、すぐさま退却する姿勢は見事だ。戦いにおいてそれはとても大事な事だ。奇襲を受け陣形が崩壊しているのに戦い続けても勝てる見込みなどない。退却をして陣を整えるのが定石だ。
そんな感じで考察をしているうちに俺たちと2人の距離はどんどん離れて行く。
「おい、いいのか?逃げちゃったぞ?」
「美波ちゃん言うんかあの娘!ええなぁ。ワイの好みどストライクや。堪らんなぁ。」
澤野がその爬虫類のような眼であの女の子の事を見ている。その姿は捕食対象を見つけた動物のようであった。
「おい、聞いてんのかよ。」
「聞いてる聞いてる。シンさんはせっかちやなぁ。まあ、見ててみぃ。」
澤野と話している間に2人は角を曲がってしまった。逃げられてしまってはこちらとしても分が悪くなるんじゃないだろうか。奇襲をかけられたのだからそのまま一気に勝負を決めた方がどれだけ楽であったかわからない。
ーーそんな事を考えていた時だった。
「えっ!?どうして!?」
俺たちの背後から逃げて行ったはずの美波と呼ばれている娘とオッさんの2人が現れた。美波からはその美しい瞳に驚きと恐怖が融合した絶望に近い眼差しを俺たちへ向けている。
俺もこの状況には驚いたが、これが澤野のスキルなのだろう。逃げて行った獲物を自分の元へ集める引力のようなものがコイツのスキルなのかもしれない。
「おかえり美波ちゃん!!キミいいねぇ!!すごく可愛いわ!!ワイの好みや!!」
澤野が美波を舐め回すような目つきで見ている。その光景は性犯罪者そのものであった。今はバディという関係だが正直コイツと仲間ではいたくない。
「だっ、駄目だ…何かのスキルなんだ…これじゃあ僕たちは…」
「諦めないで下さい和田さん!!戦いましょう!!勝機は必ずありますっ!!」
美波は和田という男に対して力強く言い放った。そしてラウムから剣を取り出し、澤野に向けて剣を構える。
「あー、美波ちゃん。そういうんはええよ。ワイ面倒なの嫌いやから。美波ちゃんは俺たちには勝てへんよ。悪い事は言わん。降参しとき。」
「戦ってもいないのにそんな事わからないじゃない!!」
「わかるで。ワイにはわかるんや。美波ちゃんらの持つスキルはレアが最高やろ?ハッタリやないで?わかるから言うとるんや。美波ちゃんがレア2枚にアンコモン1枚。オッさんがアンコモン3枚や。」
美波と和田の表情に恐怖が宿るのが見えた。澤野が言った事が見事に当たっているのだろう。それに加えて澤野のスキルによりこの場から逃げる事のできない状況。それは精神的にかなりキツい。自分の思考の先を行っている人間により、場を支配されていれば、心が折れてもおかしくはない。それでもこのイベントが終わらないという事は2人の戦意はまだ削がれていないという事なのだろう。それだけでも称賛に値すべきだ。
「だから何!?レアリティで勝負が決まるわけではないわ!!」
「気ィ強いんやね美波ちゃん。ますます気に入ったわ。でもワイは早くシたいねん。だから教えたるわ。ワイの手持ちはSSが3枚や。どう足掻いても勝てへんで。」
澤野がニヤつきながら美波にそう告げる。すごく楽しそうに卑しい顔をしながら美波の心を圧し折ろうと、わざわざ手持ちの軽いカードから切って美波の心を少しずつ圧し折っていく。
「……っつ!!まだよ!!それでもまだーー」
「あ、そうそう。ワイのバディのあそこにおる優男の兄さんな、アレはアルティメットを持っとる。しかも2枚もや。」
「アルティ…メット…?」
「そうや。デタラメやないで。本当に持っとるんや。都市伝説みたいなスキルをあの男は2つも持っとるんや。」
美波が手に持つ剣を落とす音が一帯に響き渡る。その後に2人は膝から崩れ落ち、地べたに座り込む。
戦いは終わった。美波も和田も顔面蒼白で戦う意思が無い事は明白であった。
そして、脳内に戦闘終了と俺たちの勝利のアナウンスが流れる。
俺の初めてのイベントは勝利を収めることができた。
それと同時に辺りが闇に包まれ始める。
完全な闇へと変わると闇の中からアイツが姿を現わす。
『さテ、リザルトを始めましょうカ。』
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