第3話 バディイベント
……誰かに呼ばれている
……いや、起こされてる?
……ああ、寝てるのか俺
「兄さん!何寝とんねん!早よ起きや!!」
「あー…?どこだここ…?東京…?」
目が覚めて辺りを見渡すと、人が行き交っている往来で俺は横たわっていた。少し遠くには東京のシンボルともいえるスカイツリーが聳え立っている。俺は茨城に住んでいるのに何で東京にいるんだ?
酔っ払ってここまで来た…?いや、それは無い。俺は基本的に酒は飲まない。それに記憶が無くなるまで飲んでここまで来るなんて無理だろ。なんでここにいるんだ…?
「兄さん寝ボケとるんか?アンタもプレイヤーやろ?」
「プレイヤー…?…あ!」
そうだ。思い出した。俺'sヒストリーとかいうゲームを俺はやる事になったんだ。え?それで東京まで来たの?ワープ的な?
「え?これワープで来たの?東京まで?」
「なんやアンタ初心者かいな。かー!こんなんお荷物やん。」
悪かったな。つーかコイツ、初対面のくせによくそんな事言えるな。
この男の風貌は金髪のツンツン頭で、爬虫類のような眼をしたなんとも薄気味悪い男だ。見た目的には平気で悪態を吐きそうな感じである。
「まあええわ。ここは東京に似てるけど東京やないで。バトルエリアゆー所や。」
「バトルエリア?じゃあ東京ではないのか?」
「そうや。この人混みも実際の人間やないはずやで。だから殺しても構わへんのや。」
おいおい、ずいぶん物騒な話だな。実際の人間じゃないって保証も無いんだろ。仮に保証があっても人殺しなんかしたくねぇよ。
「今からワイと兄さんはバディになって敵バディと戦うゆー事や。そろそろ運営から開戦通知が来るで。おっ、来た来た。頭の中に通知の知らせが流れて来とるやろ?」
「おっ…本当だ。」
頭の中に通知が入る。文書と音声の融合みたいなモノが俺の頭の中に情報を知らせている。
『いつも俺'sヒストリーを御利用頂きましてありがとうございます。俺'sヒストリー運営事務局です。
只今より、バディイベントを開催致します。
勝利条件は敵バディの戦意を喪失させる事。よって心が折れた瞬間に敗北となります。また、死亡された場合も同様です。
勝利バディの報酬はスキルアップカードを1枚それぞれに差し上げます。
それでは支配下プレイヤー獲得を目指して頑張って下さいませ。』
ちょっと待てよ。理解し難いワードてんこ盛りなんだけど。死亡って何だよ!?殺し合いゲームなのこれ!?
「ちょっと待てよ!死亡って何だよ!?殺し合いすんのか今から!?」
「兄さん何眠たい事ゆーとるんや?オレヒスはそーゆーゲームやで。」
関西弁の男は困ったような顔で俺を見ている。
「は…?本当に殺し合いすんのか…?」
「殺し合いは状況によりけりやろ。殺したら奴隷にならんしな。」
「奴隷って何だよ?」
「カカカカカ!兄さん質問ばっかりやな!少しは自分で考えや。」
うるせぇよ。知らないんだから仕方ねぇだろ。
「ま、えーわ。さっき運営からの通知で支配下プレイヤーゆーとったやろ?それが奴隷の事や。俺たちが勝てば相手バディを奴隷にできるんや。殺したらあかんけどな。」
ツヴァイの野郎はそんな事言わなかったじゃねぇか。リスクありすぎんだろコレ。こんなの漫画の設定じゃねぇか。そんな事になるなんてわかってれば参加なんかしてねぇよ。
「なんやなんや顔青くして。そんな心配すんなや。ワイはごっつ強いからな。負けるなんてあらへんで。」
関西弁の男が自信ありげな表情で言う。
「そうなのか?」
「おう。安心せぇ。」
気に入らない奴だが強いってんなら一先ずは良かった。こんな所で奴隷なんかになりたくはないからな。
「んで、兄さんはどんなスキル持っとるんや?チュートリアルでガチャ回したんやろ?レアぐらい持ってれば最高やけどな。」
「ああ…俺が引いたのはアルティメットレアってやつを2枚とーー」
「はぁ!?アルティメットやて!?兄さん嘘なんて吐いたらアカンで!?」
関西弁の男が急に狼狽えだす。
なんだよ。嘘なんて吐いてねぇよ。
「いや、本当だぞ?」
コイツは何をそんなに狼狽えてるんだ?そんなに良いカードなのか?
「…嘘吐いてる風には見えんな。ならホンマもんか…!なんや、楽勝やん!!儲け儲け!!」
関西弁の男は急に上機嫌になる。
忙しい奴だな。精神科行った方がいいんじゃねぇか。
「そうや!自己紹介がまだやったな!ワイは澤野宏之!大阪出身の22歳や!職業は…聞かん方がええな。兄さんは?」
「俺は田辺慎太郎。34歳で家庭教師をしている。」
「34やて!?アンタ若く見えるな!?てっきりワイと同じかちょい上かと思ったで。ならワイはシンさんって呼ばしてもらうで!」
さっきまで愛想悪かったくせに急に態度変わったな。それだけ俺のアルティメットが凄いって事か。
「なぁ、澤野。アルティメットってそんなにすごいのか?」
「当たり前やで!スキルには全部で6種類のレアリティがあるんや。下からコモン、アンコモン、レア、スーパーレア、ダブルスーパーレア。そしてアルティメットレアや。レア以上なんて滅多に手に入らん。そしてアルティメットなんてもんは存在してるか怪しいぐらいの代物や。」
そんなにすごいカードだったのか。でも大概のカードゲームってレアリティが凄くても使えないカードとか、レアリティが低くてもすごいカードがたくさんあるよな。俺の《巻戻し》と《剣聖》はどうなんだろう。でも《巻戻し》は明らかに凄いよな。やり直せるって事だもんな。
「なるほど。わかったよ、ありがとう。で、これからどうすればいいんだ?イベント始まってるのに動かなくてもいいのか?」
「んー?そろそろええか?ほな歩きますか。」
なんだその反応は…?殺し合いになるかもしれないのになんでそんなに落ち着いてるんだ?
初心者ってのが辛いな。いくら凄いスキルを持っていても動きが読めないと困る事になり兼ねない。とりあえず今は澤野の動きを見て学ぶ事に努めるか。
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「相手に女がいればえーなぁ。でもブスはごめんやで。シンさんもそー思わへんか?」
歩き始めてしばらく経ったがその間澤野の軽口はずっと続いたままだ。何でこんなに余裕なのか理解できない。コイツ自身のスキルに自信があるんだろうが、相手だって強いかもしれないんだぞ。
「なあ澤野。何でそんなに余裕なんだよ?俺がいくらアルティメットを持ってても相手だって強いかもしれないんだぞ?」
「んー?そうかもなぁ。でも大丈夫やで。強くはないからなぁ。」
「なんでわかるんだよ?」
「それがワイのスキルや。いくらシンさんでも詳しくは教えへんけどな。敵のスキルまではわからんけどレアリティや居場所はわかるんや。相手らはレアまでしか持ってへん。楽勝や。さて、そろそろやな。そこのビルの角曲がったらおるで。さぁ、狩りにいこうか!!」
澤野の先導で俺たちは廃ビルの角を曲がった。
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