第22話 海の怪物

ハルと一緒に海中へ潜っていくと、ニールは海底に驚くべき光景を見た。


先の尖った建物が底から真っ直ぐに伸びている。


三角柱で銀色が光るそれはまるで空へ伸びる一本の大木のようだった。



ニールはその大木と同じような建物をどこかで見たような気がしていた。


しばらく考えて、いつか奴隷商人が寝城にしていた建物と似ていることに気づく。


まったく同じではないにしても、細長くて、銀色で、ガラス張りと言った特徴は他に見たことはなかった。



大木よりも深くには他の建物も水面に向かって建っていた。


大木ほど細長くはないが、やはりガラスに囲まれている。


それらの建物の間には小さい魚が群れをなして泳いでいて、真上から見ると海の底を歩いてるかのようだった。



ニールは大木や他の建物と小魚の大群を見て、かつて海の底で町が栄えていたことを実感した。


こうして真上からこの街並みを眺めるのは、飛行機からチルナノグやマグメイルを見下ろすのとあまり変わらなかった。



眺めを見ながら二人は海底へと泳いでいった。


ハルが小魚の群れの中へ混じっていくのでニールも後に続く。


マップに付けた印の場所にクリムゾンレッドがないことを確かめて、そのまま次のところへ道路を泳いだ。



歩道を泳いでいると、さらに底へと続く入り口を見付けた。


入り口の門に文字が書かれていたが、今は使われていないもので読めない。ロゴが鉛筆で「N」を象っていることだけはわかったが意味まではわからなかった。



その入り口の横を過ぎようとすると、先を行っていたハルが突然泳ぐのをやめた。


肩を叩いて指を差すのでのでニールも見ると、先には巨大で見たこともない生き物の姿がいた。


小魚とは比べ物にならないほど大きく、自由自在に動かせる触腕が何本も胴体から伸びている。


まだ遠くにいるので全長は定かではないが、少なくとも20メートルはありそうだった。



その化け物も二人に気付いたのか、進行方向をこちらに変えた。


近づいてきているのか、目に見えるサイズがどんどん大きくなる。


遠くにいても手の平サイズなのに、すぐに一人分の大きさになった。



二人は慌てて逃げようとしたが、今から海上へ逃げようとしても間に合いそうになかった。


どうすべきか考えているうちにも怪物は接近してくる。


ニールは迷った後、さらに底へ続く入り口へ逃げることに決める。


ハルの肩を掴んで入り口へ泳いだ。



泡を上げながら潜っていると、頭上の入り口が大きな音と共に崩壊した。


瓦礫と一緒に怪物の触腕が伸びてくる。


化け物は入り口の原型がなくなるほど暴れているようで、いくつもの触腕が蠢いていた。



その触腕の一本に後続のハルが酸素タンクを掴まれた。


必死に泳いで離そうとするが触腕の力は強く、タンクさえも潰し始める。


酸素を漏らし始めたタンクを見て、ハルはタンクもレギュレーターも離して深くへ逃げた。



ニールのレギュレーターを借りてハルは呼吸し、二人は呆然として蠢く触腕を眺める。


退路が塞がれてしまった二人はさらに奥へ潜るしかなくなり、交互に息をしながら先を進んだ。



ライトを付けて暗く不気味な道を進むと開けた場所に出た。


金属の棒でできた道路のようなものが底に敷かれていて、その道が二つある。


相変わらず文字は読めなかったが、看板には矢印が書かれていて、ニールは直感でその道を辿ればどこかへ着くことがわかった。


道が崩壊していないことだけを祈り、二人は目的地の方角に合う道を辿った。



金属の道はそれまでと違って、剥き出しになったコンクリートでできていてさらに不気味だった。


生き物は泳いでおらず小魚一匹さえ見当たらない。


大きな生き物は入ってこれなさそうなのに、魚が住み着いていないのがいっそう恐ろしかった。



それでも先を進んでいたが、不幸にもライトの光は道が瓦礫で埋もれているのを照らす。


ニールの祈りは通らず道は崩壊していた。



ニールは呆然と眺めていたが、ハルは酸素残量を確認してあまり時間がないことを確かめる。


ニールを連れて引き返そうとしたが、ニールはハルに酸素タンクを預けて、瓦礫の方へ泳いだ。


ハルが怪訝そうにそれを見ていたが、よく見ると瓦礫から何かが漏れていることに気づく。


ニールが息を止めながら瓦礫を退けていると、それが不意に勢いよく漏れ始めて、ニールはそこから奥へと流され始めた。



流れの勢いはとても速く、ニールが瓦礫に掴まっていても穴の奥へ吸い込まれてしまいそうだった。


ハルも流され、ニールが片手で助ける。


しかしニールの片腕だけで激流を耐えることはできず、遂には手は離れてしまった。


二人は真っ逆さまに穴へ落ちていってしまった。

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