第6話 いたずらされた機体
逆境でも負けじと修理を始めたが、ニールの機体は独特な構造をしているので、パーツを探すのにも一苦労だった。
次の日になってからマグメイル中の市場を探したが、ニールの機体はマグメイル製ではない。
望んだ全てのパーツは揃えられなかった。
パーツが見付けられたとしても輸入品で高い値段がついていて、ニールの資金を圧迫する。
珍しいもので、しかも高品質なものをまけてくれるはずもなかったが、妥協する訳にもいかず、泣く泣く高額で買わなければならない時もあった。
全てのパーツを見付けられた訳でもなく、鼻から揃えられないものもあった。
見付からないものは仕方なく代替できるようなパーツで間に合わすしかなかったが、それで本当に飛べるようになるのかは定かでない。
パイロットであるニールも整備技術の限界があり、修理の進行状況はよくなかった。
そんな状況になってニールも追い込まれていたのだろう。
ニールはエルロンの油圧を修理しながらも、遂に弱音を口にした。
「もしかしたら、俺は明日死ぬのかもしれないな」
落書きを落としていたエステルははっと振り向く。
「急に何を言い出すの」
「情けないけど、俺は自信をなくし始めているのかもしれない。本当なら勝負を投げ出して逃げるべきかもしれないけど、降りる気だけは全くないんだ」
「無茶な戦いに挑んで命を落とすかもしれないって?」
ニールは「あぁ」と頷いた。油圧装置の相変わらず反応しない。
「機体の整備状況ってのはパイロットの責任でもあるんだ。整備不良の飛行機で空に上がったら撃墜されても文句は言えない。ただ操縦が上手くたって機体の不良を見抜けなければ落とされるしかないんだ」
「でも、今回は荒らされたのよ?! ニールの責任になるはずないじゃない!」
「それでも空では文句は言えない。空に上がる前までに機体を万全にしておかなければならない。空戦は飛ぶ前からもう始まってるんだ」
ニールはこれまで機体の整備不良で死んだものを何人も見てきたのかもしれない。
パイロットとしての長年の経験がニールの教訓となっていた。
しかしそれでもエステルは納得しなかった。
「だから何? 悪戯されるような隙を晒したのがいけなかったって? そんなのニールが後悔しても私が認めないわよ! ニールの管理がどうだったかじゃなくて悪いのは全部ネロたちでしょう!」
エステルはネロの差し金で悪戯されて、相当腹が立っているようだった。
どちらかと言えばパイロットのニールよりも冷静ではない。
かと言ってニールは責められても困るが、悪戯されたことをまるで自分事のように怒ってくれるのが嬉しくて可笑しい。
ただエステルが自分の人権のためだけに怒ってくれているようには思えなかった。
「絶対に修理して、ドッグファイトで勝つわよ。悪戯されたからって負けも死にもしないわ! ネロたちに私たちの底力を見せつけてやるんだから!」
「あぁ……そうだな」
ニールは先程までの自分の弱気が恥ずかしくなってきていた。
エステルは窮地に陥ってもこうも不敵に、不屈に立ち向かっている。
賭けを仕掛けたのは自分だというのにエステルよりも弱気になる訳にはいかなかった。
ニールはエステルに鼓舞されながらも戦意を取り戻していた。
卑怯な手を使ったネロたちを許さないためにも、救うべき人たちを救うためにも、勝利を渇望し始めていた。
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