第12話 借金の果てに・・・
あの日から俺の人生は真っ逆さまに転落していった。
謎の奇病に関する論文を幾ら発表しようと実際に検証した例が存在しない以上卓上理論の域を出ない。
それだけでなく実際に検証されて別の論文として発表されてしまえばそれまでなのだ。
「なんでだ・・・なんでだよ・・・」
路地裏でゴミの横に座り込みながら盗んだ酒を浴びるように喉の奥へと流し込む。
ありとあらゆる所から借金をして返せる充ても無く逃げるしか生き残る術が無いのだ。
こうしている間も常に金利で借金は雪だるま式に増え続ける。
どうしてこうなった・・・
「もうどうにでもなれ!」
酒の勢いもあったのだろう、闇金の一社へ向かって俺は手にした酒とライターを手に駆け出した。
「うぅ・・・くそぅ・・・」
昔見た映画の様に酒を口に含んで吐き出すときにライターの火を使えば口から炎が噴出せる。
そう考えて闇金の人間に向かって行なった結果、口の中の酒に引火して大惨事。
そのまま殴る蹴るの暴行を受け手足を縛られたまま事務所へ連れ込まれたのだ。
「殺すなら殺せ・・・」
もう何も無い・・・
俺には何も無いんだ・・・
「まぁそう言うなよ、実は良い話があるんだが・・・」
親玉と思われる男が嬉しそうに話しかけてきた。
その内容に俺は耳を疑った・・・
借金は連帯保証人となっていた元妻が現在風俗で働きながら返済しており娘も人質に取られている・・・
それを助けたければ生命保険に入ってとある人間と無理心中しろと言われたのだ。
正確には殺して自殺をする、それで2人は解放されると。
よくよく考えればそんな上手い話があるわけ無いのに俺は信じてしまった。
そして、その日の内に生命保険を掛けられ半年の間強制労働をさせられる事となった。
「遂に・・・明日なのか・・・」
顔は痩せこけ全く別人の様な姿となった俺はようやくその日を翌日に迎える事となった。
死ぬ前にもう一度妻と娘に会いたい・・・
だが、その願いは叶う事無く当日を向かえ、俺は車に乗せられシートベルトを着けさせられる。
「それじゃあ予定を話すぞ、2時間後にあそこの交差点に男がやって来る筈だ。そいつを轢き殺せ」
シートベルトは外れないようにされておりドアも開かなくなった車の中で俺はその時を待ち続けた・・・
そして、雨が降り出し雨音だけが車内に響き渡る・・・
雨音と言うのは人の心を落ち着かせる効果があると昔聞いた事がある・・・
数時間後には知らない誰かを殺して自分も死ぬ。
そう考えるととても恐ろしくなるのだがその感情を雨音が沈めてくれる・・・
「死ぬには良い日か・・・」
そう口から発した時にフトルームミラーに映る自分の顔を見て驚いた。
夢で見た自分を轢き殺した男の顔そっくりだったのだ。
だが直ぐにそんなどうでもいい事は頭から忘れて人を見逃さない為に集中する・・・
そして、来た。
俺は慌てず車のエンジンを掛ける。
雨音がエンジン音を掻き消してくれてそのままアクセルを全力で踏みつけて突撃する!
目指すは交差点に1人立つあの男だ!
「お前を殺せば家族が!!!家族が!!!」
窓は開いておらず雨音が響く中で俺の声が相手に届く筈も無く俺の車は男の腹部へと接触し奥の壁へと激突した!
だがそれでも俺はアクセルを一切緩める事無く全力で踏み続ける!
フロントガラスから見える押しつぶされた男が吐血しこちらを見続けていた。
目は反らさない、きっとこいつも俺と同じ様に利用されて消されるんだ。
「はは・・・やった・・・」
先程までこちらを見詰め続けていた男がいつの間にか頭部をボンネットに乗せるように事切れて居た。
全てをやり遂げた満足感のまま俺は渡されていた薬を口に含む。
あぁ・・・もう一度・・・家族に・・・会いた・・・かっ・・・た・・・
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