第10話 薬が欲しくて…

決められた時間、決められたルートでビルに入った俺はすれ違う人に怪しまれること無くそこへ辿り着いた。


言われていた通りにドア横に設置されているポストの裏側に磁石でくっついていた鍵を使って中へと入る。





「電気は付けちゃ駄目なんだよな…」





そこは事務所であった。


指示されていた通りに部屋の中央の床に持ち込んだ箱を置いて蓋を開ける。


そこには携帯電話が一つとライターが入っていた。


開くと共に携帯電話のランプが点灯し着信を知らせる。





「もしもし…」


『無事に辿り着けたようだな、それでは今から指示する棚にライターで火を付けろ』


「はっ?何を言っている?それよりも約束の薬は?」


『安心しろ3ヶ所に火を付けたらくれてやる』





そう言われ電話を繋いだまま指示される棚にライターで火を付けていく。


棚の中にあった紙が燃え上がり火の手が上がり始めたところで…





『よし、薬はライターの底に貼り付けてある』





そう言われ手にしていたライターを見ると底に錠剤が一つ貼り付けられていた。


それを目にした瞬間俺はそれを直ぐに取り外し口に含んだ。


薬を目にした瞬間に唾液が溢れるように出始めて水もないまま飲み込んだのだ。





「これだけか?もっと無いのか?!」


『安心しろ、まだ用意してある。だが今すぐは無理だ、1時間後に…』





薬を服用したからか興奮が収まらず火の手の上がる部屋を出てそのままトイレへと駆け込んだ。


そして、個室に入り俺は意識を失った…














「んっ…んんん…ここは…」





目を開くとトイレの床に倒れ混んでいた。


記憶が曖昧だがビルの2階にあるテナント事務所へ向かわなければならないことを思いだした。


無意識に暴れまわったのか身体中のあちこちが痛くヨロヨロとそこへ向かう…


そして、ドアの前で中が明るくなっているのを見て思い出した。


危うくドアを開きそうになったのだがその手を離して立ち止まる。





「そうだ…薬が…一時間後に…」





そのまま俺はビル内をフラフラと歩き回り裏口のドアを見付けてそこから外へと出た。


雨が本格的に降りだしていたが火照った体にとても心地好くそのまま足を踏み出す。





「薬…早く薬を…」





フラフラとしながらも前へ前へと歩き続け約束のその場所へ辿り着いた俺は周囲を見回す。


交差点の角であった。


そして、俺が振り向いた瞬間を目掛けて一台の車が突っ込んできた。





「ごえっ?!」





勢いよく止まる気が全くない車は俺の腹部を押したまま後ろの壁へと激突した。


自分の内蔵が破裂し骨が砕ける音が生々しく響き口から大量の血液を吹き出す。


そして、俺は見た…


こちらを睨み付けるように見る運転席のその男の顔を…

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