第6話

 投網と玉網の被害が世界各地に相次ぎ、行方不明者が五百万人を越えた。網の降る場所は徐々に集中化され、中央アジアから北アフリカにかけての被害が特に大きく、行方不明者の半数以上を占めていた。そればかりでなく、網の素材がいつの間に麻からポリエチレンに変わり、吊り上げられる速度が今までの三倍に増し、且つベルトコンベアーのような一定の動きに変化した。青網も落下することがなくなっていた。


 七月になってさらに異変が起きた。朝方、エチオピアのアディス・アベバの住人の一人が、突然恐ろしい速さで宙に釣り上げられた。路地裏のゴミの吹き溜まりに金塊が落ちているのを見つけて、住人が近づいて触れてみたところ、掛け針がわっと金塊から突き出て横っ腹に突き刺さり、“く”の字のまま無理やり体を持っていかれた。


 ムンバイでは、通勤ラッシュに混雑する列車が出発する直前、等間隔に並んだ巨大な掛け針が空から降ってきて、窓枠や降車口に引っ掛かり、窮屈な車両をそのまま宙に持ち上げてしまうと、血を流すようにぼとぼと人間をこぼしながら上空へ消えてしまった。垂れた滴によって、駅には大きな血痕が点在していた。


 ブエノスアイレスにおいては、先端に鉤[かぎ]のついた巨大な棒が現れて、商社の詰まった高層ビルを崩れないようにうまく引き剥がすと、図々しくビルごとさらってしまった。


 そうかと思えば、休日の東京渋谷の青山通り、買い物するために訪れていた羽根木に住む男子高校生が、恋人と手をつないで交差点を渡っているところ、突然巨大な銛[もり]が斜めに降ってきた。街灯ほどの大きさの銛は先端が三叉に分かれていて、容赦なく男女の体を貫通してアスファルトに突き刺さった。その姿は突き刺すよりも、押し潰すというべきである。周囲が騒然と悲鳴をあげるなか、ピクリとも動かない潰れた二人のつがいは、インドの列車同様に血を垂らしながら銛共々上空へ消えた。


 無残な男女は達也のクラスメイトである、玉置と木塚の二人であった。

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