7時間目。お見舞い
放課後、予定通りに入院中のウチのクラスの子のお見舞いへ向かう
ウチのクラスの中心の一人である北野裕子(きたのゆうこ)、おとなしい子であるが麻倉舞や本田ほたるとも仲が良い
ストレートな黒髪の子で、成績はクラスでも上位くらい。類友という言葉がある通りに麻倉舞や本田ほたると同レベルで可愛らしい子である
クラス評判では綺麗と言われているらしいが、高校生くらいなら基本可愛らしいが正しい
綺麗なんてのは大人になってから発揮されるものだと俺は思っている
道中のコンビニで軽くプリンでも購入し、病院の受付でお見舞いの手続きを行う
入院した次の日にお見舞いに行ったので、やり方はわかっているのは楽だ。お見舞いなんて行ったことが無かったから、本当に焦ったことは記憶に新しい
いや、北野裕子のお母様から肺炎で入院しました。しばらくお休みしますとご連絡来たときは本当に焦った
肺炎という言葉は頭に入らず入院という言葉だけをキャッチし、居ても立っても居られなくなり休日だったのだが、すぐにニンちゃんに跨って病院まで行ったレベルである
その時に、ようやく肺炎ということを理解したので、かなり恥ずかしかった
カーテンで仕切られてるベット
そこに北野裕子がいる…はず
「入るぞー」
軽く声をかける。万が一着替えてたら俺は死ぬ。社会的に死ぬ
また、返事が無ければ寝てると判断して、少しだけ顔を見て帰るつもりだ
「原田先生ですか?大丈夫ですよ」
鈴のように綺麗な声が返ってくる。そう、北野裕子は物凄い声が綺麗だ
そんなに声は大きくないが、透き通るような声は耳にはっきりと届く
「よう、北野裕子。調子はどうだ?」
カーテンを開けて、ご挨拶
「そうですね、普通に治ってると思いますよ」
にこやかに微笑む顔色は入院初日とはまるで違っていた。もう普通にいつも通りの北野裕子である
ベットテーブルに教科書を拡げて勉強していたようだ。俺が入ると教科書を閉じる。続けていても良かったんだが
「そうか、退院はいつ頃になりそうなんだ?」
「退院は明日になると聞いてます。お母さんに確認しないと詳細はわかりませんが」
そうか、明日なのか
そろそろ体育祭の季節がやってくるからな。イベントごとにはやっぱり思い出作りのためにも参加するのが良いと思う
「明日か良かったな。これ見舞い品のプリン。3個入りの焼きプリンだ。食べられるなら食べてくれ」
お見舞いと言ったらメロンとか果物盛り合わせとかのイメージがあるが、流石にメロンも盛り合わせも高すぎる
そんなもんを用意するのは、ドラマだけだと思いたい
プリンもいい線いってると思うし、ただのプリンではなく焼きプリンというところがポイント高いと思うんだ
若い子好きだろ?焼きプリン
俺は好きだぞ
「焼きプリン好きなんです!ありがとうございます」
ほら、好きだった
笑顔が二割増しに変化する
ほんとに北野裕子は安心できる。麻倉舞や本田ほたると違ってな
平和。これで実は焼きプリン大嫌いで、俺が帰ってからゴミ箱とかに捨てられてでもしたら、多分死ぬ気がする
「勉強してたんだな」
「流石に2週間も休むと厳しいものがあるので、舞ちゃんやほたるちゃんにノートのコピーとか持ってきてもらって、暇な時間が多いので勉強してます」
偉いなぁ…癒される
俺、勉強なんて自発的にやったことないよ。基本一夜漬けだよ。教員免許に関しては1か月漬けだったな
「俺の担当教科なら教えてやろうか?」
頑張る生徒を応援するのは教師の役得である
頑張っている子がいるなら応援するのは教師の役割
頑張れない子がいるなら頑張るように促すのも教師の役割
最近はモンペが怖いが、ウチのクラスには厄介なご家族の方がいらっしゃらないので楽である
「プリント貰ってますし大丈夫ですよ。原田先生の授業はプリントの内容だけ網羅していれば問題ないです」
俺の授業は基本的に教科書を使用しない
教科書を暗記するなんて嫌いだし、誰も好きにならないから俺は基本的に教科書の内容から重要なところだけを抜き取って、歴史的背景や、現在はその場所にこんなのが建っているなどの、過去と現在の情報をまとめたプリントを生徒たちに配っている
地理歴史なんてそこまで重要な教科ではない。好きもんは勝手に覚えるし、最低限必要な知識を授業で覚えてもらうようにする
あとは、飯とか観光スポットとかと紐づけるなーそっちの方が関連付けやすいし
という理由だ
生徒達からは特に不満もないらしいので、安心している
「ただ、先生のお喋り聞けないのは残念ですけどね」
知って若干得する豆知識や、実際にニンちゃんで現地に行った時の感想やその土地の特徴をクソほど喋りながら授業をしている
横道に脱線することもしばしば
しかし、北野裕子お前は良い奴だな・・・涙が出そうだ
「退院したら嫌って程、聞かせてやるよ」
「わかりました。楽しみにしてます!」
「ゆっちー今日もまいがやってきたよー!」
束の間の平穏を破るように騒々しいのが来た。カーテンが勢いよく開かれる
北野裕子が着替えてたらどうするつもりだったのか、恐らく考えてないだろう
ここは病院なんだから、病室なのだから静かにしましょう朝倉舞
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