ACT35 覆道の戦い ―ターミネーターズ―
広場を右へと抜けて路地に向かう神薙達、三人。
朽ちた箱型の
「エクサ。スキルゲージはどうする。使う? 温存?」
アイヴィーが答えを求める。
いつの間にかリーダーのような立ち位置になっているのが気になるが、それはさて置き、スキルゲージは出来るだけ温存しておいたほうがいい。
HPゲージ同様に時間と共に徐々に回復するものの、対ダスト戦が待っているとなれば、スキルゲージはMAXな状態がいいに越したことはない。
「温存でいけるなら温存。でも無理するな」
「分かったわ」
「了解にゃ」
聞き分けのいい女戦士二人と陰湿な路地に飛び込んだその瞬間、サメの尾びれのようなウェポンスキルが、地を這うようにして襲い掛かる。
それを可能性の一つとして予想していた神薙達は、飛び、避け、弾くと続けると、鉢合わせたプレイヤー三人へとそのまま疾走。
「うわっ、やべ――っ!」
ウェポンスキルが当たって怯むとでも思っていたのか、敵対プレイヤー達の先頭に立つ
最早相手にする必要なし。
神薙は戦士の横を通り過ぎると、後ろで剣を構えている赤髪の剣士に狙いを定める。
視界の隅に、もう一人の兜をかぶった剣士へ駆け寄るアイヴィーが見えた。
言わずとも通じているフォレストエルフを頼もしく感じた時、対峙した赤髪の剣士が奇声じみた声を上げて剣を振るってくる。
しかしそこに神薙はいない。
神薙は振り下ろされた剣の横をすり抜けるようにして、相手の剣士を横撫ぎに払う。
そして「ぐわっ」という定型的な呻き声を上げる赤髪の剣士を捨て置くようにして、そのまま路地を抜けた。
「相手にしてられないから、
「加算されるウイニングポイントも少なそうだし、時間の無駄にゃ」
同じようにデュエルを放棄したアイヴィーとキャラットが後ろへと付く。
トライアングルフォーメーションを保つ神薙達は、そのままダストとの距離を詰めていく。
途中、奇襲や鉢合わせがあったが、幸いにも経験の浅いプレイヤー達だったため然して手間取ることもなく、HP、スキルゲージとも最大のまま、ダストを目視確認出来るところまで来たのだった。
□■□
神薙達の前には覆道がある。
それは、パルテノン神殿でお馴染みのドーリア式建築様式を用いた構造物であり、上部は半円アーチ状になっていた。
柱の間から入ってくる太陽光が大気中の塵を浮かび上がらせ、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出しているが、それは古
神薙が覚えている限り、場所的には渋谷区円山町の北側。
あの辺の路地か――と記憶を辿っていった時。
「中央に集まってるわね。左右から襲われる可能性だってあるのに、やけに堂々としているじゃない」
物陰の先頭に隠れるアイヴィーが声を落として話す。
討伐対象のダスト達(四人と五人のパーティー)は、覆道の真ん中に我が物顔で陣取っており、一人づつのプレイヤーが左右の入り口に目を光らせている。
しかし神薙達はそれを直接目視しているわけではない。
アイヴィーの使用したサポートスキル、〈妖精〉の目を通して見ているのだ。
〈ジェニュエン〉でしか使用できないサポートスキルには、多くの種類が存在する。
ただ、サポートスキルは〈ジェニュエン〉で好成績を残したプレイヤーだけが取得出来るものであって、恩恵に預かれる者はそう多くはない。
その限られたプレイヤーに焔騎士団のメンバーは含まれていて、当然アイヴィーもサポートスキルを所有していた。
その一つが〈妖精〉。
使用者以外には見ることの出来ない羽の生えた小人を使って、主に偵察などを行うサポートスキルだ。
〈妖精〉の見ている光景はパーティー内での共有が可能であり、神薙やキャラットの視界にもその映像はリアルタイムで映っている。
ちなみにプレイヤーサーチは終わっているため、神薙達が覆道の入り口横に潜んでいることを彼らは知らないはずだ。
ターミネーターズ……だったか。
それがダスト達のチーム名。
奴らがプレイヤーの生命を奪うことを考えれば、和訳が『終わらせる者達』とは放胆にしてふてぶてしいと言わざる負えない。
アイオロスの情報通り、チームであるものの種族や装備品などの統一はしていなのか、プレイヤーは皆各々の趣味趣向を前面に出したフリースタイルのようだ。
それは焔騎士団もそうだが、信念が全く違うのは言うまでもない。
「ダストってのは、有体に言えばイキってる連中だ。だから変にデュエルに自信がある奴が多い。かかってこいという感じなんだろう。それと名の知られているダストだと、プレイヤーが近寄ってこない可能性もある。それを分かった上でだろうな」
「ふむふむ。……あれ? そういえば八人だっけにゃ? あと一人いたような……」
同じく隠れているキャラットのそれに、確かに九人だったなと思い出した時、覆道の脇から一人のプレイヤーが出てきた。
どうやら覆道の途中に脇道があったらしい。
そのひと際体格のいいゴリラ顔をしたアニマライト族の戦士は、鉄製の板金を重ねて構成された鎧を胴体に装着していて、腰にはひざ下まである黒い布を巻いていた。
古代ローマ軍の鎧――ロリカ・セグメンタタに似ているが、おそらく鎧を作成する際、実際にモチーフにしたのだろう。
ある種の貫禄すらあるが、ターミネーターズのリーダーなのかもしれない。
しかし、注目すべきはそこじゃない。
そのゴリラ顔の戦士――HPゲージの上に表示されているプレイヤー名、バルバロッサは八人の中央に来ると、そこでようやく頭を掴んで引き摺っていたプレイヤーを離した。
解放されたプレイヤー――まー君は傍目に見ても恐怖に包まれているのが分かる。
自分が今から何をされるのか明確に理解しているようだった。
まー君を
大きな両刃の斧を向けながら口を動かしているが、ここからでは遠くて聞こえない。
〈傍受〉のサポートスキルを使用すれば聞き取ることが出来るが、その必要もないだろう。
お前はここで本当に死ぬのだと死刑宣告を与えているのが、有り有りと見て取れるのだから。
「アイヴィー。この先にハイドポイントはあったよな?」
「あるわよ。覆道を抜けた先を左に折れてすぐね。渋谷だと自販機が二台並んでいるのだけど、その両側。――って、渋谷探索のときあなたも確認したじゃない」
「念のためだ。記憶力の確かさはお前のほうが上だからな」
「お褒めに預かり光栄だわ。それでどうする? 悠長に話をしている場合じゃないわよ」
「あのHPじゃ一発もらってデッドマンにゃ。でもってすぐに……」
デスゲージを溜めて殺すために、デッドマン状態のまー君に斬りかかるにゃ――。
キャラットのその言葉のあとを鮮明に想像したあと、神薙は二人に指示を出す。
次の瞬間、「くたばれっ!!」としゃがれた声で叫ぶバルバロッサが、振り上げた剣でまー君の体を斜めに一刀両断にする。
HPゲージを全て失ったまー君が、恐怖と疑似痛覚に襲われて悲鳴を覆道内に反響させ――。
「〈迷彩〉
クイック設定にしてあるサポートスキルの名を声に出すと、神薙達は作戦を行動に移した。
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