ACT09 グランルクス城 ―円卓の騎士――
城の王の間の装飾は権威の象徴だ。
本人の資質に関わらずいかに
そして
つまり玉座は被支配者にとって神の領域と同義。
しかし、その玉座というものがこのグランルクス城にはない。
いや、あるにはあるのだが、それは円卓に並ぶ十二の椅子の一つに過ぎず、よく見れば他の椅子よりやや装飾が凝っているだけものだった。
その椅子にオールバックに無精ひげの男――アイオロスが腰を掛けている。
アイオロスは王の間に入った神薙達を認めると、「来たか」と重く響く声を出した。
アイオロス。
焔騎士団を結成した男にして、誰もがその統率者としての才を認める団長。
〈EAO〉での種族は神薙と同じヒューマン。
漆黒のプレートアーマーで身を固めたその姿は、凛々しくも豪胆を思わせる面貌もあってか、色あせた円卓の椅子でありながらアーサー王を思わせる威厳すらあった。
神薙達が各々の椅子に座ると同時にアイオロスが立ち上がる。
そして円卓を囲む十一人の団員を順に眺めたのち、口を開いた。
「皆、忙しい中での収集に応じてくれて感謝する。それでは早速、次のリリース・デイに向けての初回会議を始めたいと思う。今日の議題は三点だ。一に、参加予定のダストの詳細とそれに対する討伐人員の振り分け。二に、デュエルフィールドである渋谷区のハイドポイントの把握。そして三に、
「ちょっと待って。一と二はいつも通りだけど、三のハイエナが収集した噂話って何だ?」
神薙も疑問に思った項目に、アイオロスの隣に座る団員が説明を求める。
副団長のナイトホローだ。
種族はヒューマンとダークエルフの混血であるヒュルフ。
浅黒い肌にぼってりとした唇。そして赤いライダースーツのような防具の下に隠れた肉感的な肢体を持つ彼女は、つまりとびきり妖艶だ。
そんな彼女が自慢(おそらく)の唇の間からサクランボの種を出すと、指で弾く。
種は円卓の中央にあるトラッシュボックスに入ると、電子の煙となって消えた。
「それは追って説明する。まずは定例通り一と二から片づけていこう」
アイオロスのそれに肩をすくめる仕草のナイトホロー。
了解の合図と捉えたのだろう、頷くアイオロスが先を続けた。
□■□
「――もう一度繰り返すが、今回はターゲットとなるダストの組織力が高い。よって討伐は必ず三人以上で行うこと。もし何等かの事情により二人になった場合、討伐は中止。〈ジェニュエン〉を生き延びることだけを考えろ。そのためのハイドポイントもしっかり頭に叩き込んでおけ」
アイオロスが椅子に腰を下ろす。
それは初回会議終了の合図であり、あとは解散前の質問タイムのみ。
なのだが挙手する者はいない。誰もが今のミーティングだけで十分だったのだろう。
と思った矢先、ナイトホローが手を上げる。
そこで神薙はもう一つの議題を思い出した。
「追って説明するんじゃなかったのか? 例のハイエナの件」
「ああ、そうだな。失念していた。すまない。……いや、正直議題というには
「で、その懸念事項とは?」
ナイトホローがサクランボを口に放り込む。
「大量のモノケロスが横流しされたらしい」
横流し――つまり裏ルートによる転売。
ゴーグル型MR機器であるモノケロスは複合現実管理局の公式サイトからしか購入することはできない。
それを横流しとなると、管理局に送られる前の工場からということになる。
しかし、そんなものを横流しで手に入れてどうするというのだろか。
「はいにゃ」
左方に座るキャロットが、ビッと挙手をする。
質問があるらしい。
アイオロスに「いいぞ」と了承を得たのち、彼女は口を開いた。
「それは声紋と指紋照合未登録なのかにゃ? だとすると〈ジェニュエン〉に参加しないコレクターじゃないかにゃあと。ほら、モノケロスって唯一の超広範囲MR機器だし、それにハイセンスでかっこいいにゃん? だからそう思ったにゃ」
その線は確かにある。
モノケロスは原則、〈ジェニュエン〉に参加の意思がある者しか購入してはならないという決まりがある。そしていざ購入となると、その場で十本の指の指紋登録、及び、ある一文を声紋として登録することなる。
その一文は、『
〈ジェニュエン〉を始めるための合図だ。
〈ジェニュエン〉に参加する気はない。しかしモノケロスは欲しいとなると、やはりキャロットの述べた仮説が正しいのかもしれない。
「当然、照合は未登録だが……なるほど、その可能性は大いにあるな。しかし大量というのが引っ掛かる。おそらく五十は超えていると俺は踏んでいるのだが、詳しいことはまたハイエナでも聞いておくとしよう――」
今度こそ初回会議が終わり、焔騎士団のメンバーが各々の意思によって散っていく。
ある者はリアルに。
ある者は城の中に。
ある者は城の外に。
神薙は席を立つ。
そして幾人かの団員達と同じように、扉へと向かった。
懸念事項と言い切ったアイオロスは、何か不穏を感じ取っているのではと頭に過らせながら――。
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