金村の死

私は母が死んでから、その悲しみを振り払うかのように、金村と会い、愛を深めていった。

金村の家に行くこともあれば、金村が私の家に来ることもあった。

金村もそれに答えてくれて、「結婚しよう」と言ってくれた。

勿論、私も承諾をし、書類に必要事項を書いて金村に託した。


「来週、一緒にデートに行こう」

金村はふと思いついたかのように言った。

「分かった。でもどうして?」

「結婚届を役所に出さないといけないだろう」

そうだね、と私は言って、

「役所以外にもどこか行こうよ?」

と聞いてみた。

「そうだな・・・ 役所に言った後、昼間は映画を見て、夜は夜景を見に行こう。綺麗に見えるところを知ってるんだ」

私は待ち遠しくて仕方がなかった。


当日、いつものように車で迎えに来てくれた。

ドイツ製の高級車だ。

そうして私たちは役所に行き、結婚届出して、受理された。

この時が、母が死んでから一番楽しかったと思う。

映画館に行く道中、高速道路に乗った。

金村は開いた窓を見て、

「少し肌寒い、窓を閉めよう」

と言った。

「そうね、寒くて、乾燥していて、嫌になっちゃう」

私は窓を閉めながら、そう答えた。

「もう秋も終わるんだよな」

「秋が終わるんじゃない、冬が来るのよ」

私がそう言うと、金村はまた、何か見えないものを追いかけるように窓の外を見た。

そして、

「君には話さないといけないことがある」

そう切り出して、彼が死にたがる理由を話し始めた。


金村には大学に入ってから、ある一人の恋人が出来た。

相思相愛の二人は、純粋なお付き合いで、幸せでいっぱいだったという。

だが一年前の冬、金村が家に帰ると、何やら物音が聞こえたらしい。

親が帰っているのかと、こっそり寝室を覗くと、親は恋人と性行為をしていたそうだ。

金村には怒りしかなく、気付いた時には二人とも殺し、それを山に遺棄し、多額の遺産だけが手元に残ったという。


「自分の私欲のためだけに、親を、恋人を殺してしまった。そしてその罪から逃げるばかりで、償う事が出来ていない。だから死にたい」

私には何も言う事が出来なかった。

そうして、そのまま映画を見終わり、夜もすっかり更けてしまった頃合いに、金村は高台の駐車場に車を止めた。

そこから見える夜景は本当にきれいだった。

少しして、

「やっぱ寒いね、何か温かいものを買ってきてよ」

と、金村が言った。

ちょうど駐車場の端っこに自動販売機が有ったので、お金を受け取ると私は飲み物を買いに行った。

暖かい缶コーヒーを二つ買い、ふと振り向くと、車から火が出て、めらめらと燃えていた。

走って車に駆け寄るも、熱気のせいで進めない。

金村は車の中からこっちを見て、笑顔で微笑んだ。

私はまたしても何も出来なかった。

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