不意の死、正体の分からない者から授かる異能、自分以外には認識できない敵との戦い…と挙げていくと、凡百の作品になってしまうのですが、この物語には、それらとは一線を画すものがあると、強く感じます。
主人公の境遇にこそ物語を貫くテーマがある、と思っている私にとって、この主人公・火村炎司には鮮烈な衝撃がありました。
多くの場合、異能を持つ者が二重生活者になる時、日常では普段通りに過ごし、戦う時に異能を操る者に変化するのではないでしょうか?
しかし火村炎司は逆であるように感じました。
戦闘時にこそ本来の自分に戻り、二度目の生を生きる者に変化して日常を過ごしているように思いました。
そして、日常を別人として過ごす物語では、多くの場合、間抜けを装う事が多いと思うのですが、火村炎司は別人として過ごす日常も、飾る事もしない代わりに、自分を偽る事もありません。
しかも、それはダークファンタジーという言葉から受けるイメージを損なう事なく馴染んでいます。
ダークヒーロー、アンチヒーロー、ヒーロー、その相反する要素をバランスよく備えた快作です。