第六章11 『魔王桐咲の死』

「魔王桐咲……貴様を倒しにきた!」


嬢ちゃんソフィア……ちょっとだけ、黙っていて。よっ、桐ちゃん」


「おひさしぶり……です」


 さすがに困惑が隠せない。

 なぜ、この部屋に2人が入れたのかとか、諸々含め。

 この二人は破天荒が過ぎる。


「嬢ちゃんの言うように倒すとは言わないが、桐ちゃんにはケジメをつけてもらわなくちゃならない。その覚悟はあるか?」


「……はい」


「桐ちゃんが引き起こしたこと、そうじゃないこともひっくるめて、ありとあらゆる罪を背負ってもらうことになる。いままで各国で起こった惨劇や戦争の首謀者、教会の黒幕として、そういう物をひっくるめた全部だ。この世界の人間が起こした憎しみ、悪意を桐ちゃんに受けてもらう。この世界の悪の象徴になるということだ。それでも、いいか」


「多くの人間を殺め不幸にしてきたのは事実です。その罪は、裁かれて然るべきものだとは考えています。僕に死ね、ということですね」


「そうだ、桐ちゃんには悪いが――死んでもらう」


「元より僕には罪を償なうことなど不可能でした。裁かれるべき存在だという自覚もあります。一つだけ、ミミのその後の生活の保障だけは約束してください」


「約束しよう。それじゃ一思いに殺してやるから、目をつぶれ」


 ベオウルフは懐から短刀を取り出す。

 刃先が鈍い光を放つ。

 

「ミミ……今までありがとう」


 少年は目を瞑る。

 少年の胸に刃物の先端が突き刺さる。

 胸部から熱い血が流れる。


って、な」


「…………?」


「バネ仕掛けの仕込みナイフ。桐ちゃん、胸をよーく見てみろ、実際には刺さってねーよ。さすがの俺も人が人を裁けると考えるほど、傲慢な考えはしてねーさ」


「バネ仕掛けの仕込みナイフですか……。いや、でも……すみません。やっぱり刺さってました。血が、結構胸から流れてますし」


「ははは。わりぃわりぃ。手入れもまったくしてないから、バネがちぃっとばかし錆びついていたか。ケジメの儀式のつもりだったのが、うっかり本当に殺しちゃうところだったな。運が良かったな桐ちゃん」


「はぁ……そうですね。ありがとう? ございます。人を殺すための暗器についてはかなり勉強しているつもりでしたが、人を殺さない仕込み武器は初めて見たので、普通に騙されました。そういう仕込み武器があるんですね……」


 刺された部分が、思いのほか痛く、

 かつ出血しているため、桐咲は

 蜘蛛の糸と針で傷跡を応急処置する。


「俺も、嬢ちゃんソフィアもそこまで非道じゃねーさ。一応、魔王桐咲を討伐するという名目でここに来ているので、そこら辺に転がっている死体を代わりに持って帰るさ」


「ベオウルフさん……そんなことをして大丈夫ですか?」


「なに、所詮は俺が仕込んだマッチポンプの茶番だ。各国の王を巻き込んだ以上、俺が背負う負債も更に増えると思うと頭痛がするが、ぶっちゃけ各国の王にとっても今回の俺の茶番に乗ることで棚から牡丹餅、濡れ手に粟が得られる案件だ。良いように取りなしてくれるだろうさ。なんなら四カ国相手にバトルってのもまた、一興かもしれんなぁ」


「僕の罪は赦されるものではない」


「そうだな。この世界の誰も、神も、お前の冒した罪は赦すことなんて出来ない。だからこの俺様だけは、桐ちゃんの残虐悪行非道外道の数々を赦してやるさ。そうじゃなきゃ、あまりに……救いがなさすぎんだろ」


「外道。私達がどんなに取り繕ったところで、外道の生存を疑うもの、復讐を誓うものは出てくるだろう。お前の生存を知れば、多くの者がお前を殺しに来るだろう。いずれにせよ今後も安息の日々などは訪れない。それはここで、裁かれて死ぬよりも辛いことかもしれないが、それでも構わないと言うのだな」


「構わない。どこかの国のスラムで人知れず、迷惑をかけず大人しく生きるよ」


「外道の頑固は筋がね入り、か。まあ……背負いきれるかは別として覚悟は理解した」


 ソフィアは燃えている灰を

 指さし、言葉を続ける。


「話は変わるが、この部屋を出る前に、一つ片づけておいたいことがある。シオンにより確実なる死をもたらす。あれは外道が思っている以上に危険な存在。そもそものこの世界の歪みをもたらした元凶。やりすぎても、やりすぎることなどない」


「嬢ちゃんの言う通りだ。あの燃えている灰がシオンだろ。さすがに俺の目から見てもあの灰は確実に死んでるとは思うが、慎重に越したことはない。念には念を入れておくか。ルルイエの一件で傭兵の仕事としての報酬もらったアレを使う。燃える目エルダーサイン。永遠に消えない黒炎。ちいっとばかしもったいねーが、使い道も無さそうだし景気よく行くか」


 ベオウルフが、ソレをかざすと、

 真っ赤に赤く燃えていた灰が、

 どす黒い炎に呑み込まれる。

 悪意をまとった黒い炎。


「その黒い炎は、あまりにも危険。間違ってあの黒炎に触れたら誰も助からない。アレには誰も触れられぬようにシオンの灰ごと厳重に封印しよう。12の牢獄ピスティス・ソフィア


 黒い炎の周囲に12の硝子膜

 による牢獄が形成される。

 天使でも破壊できない完全なる結界。


「ありがとう。ところで、匣庭の法パンドラの統治で、と願ったんですが、僕の異能は僕の支配する領域内でしか効果を持たないんだ。ベオウルフさんによって、密室空間が破られた今、シオンの魂魄は輪廻の輪に回帰したのでは……?」


「外道。現在、この教会の頂点、つまり教皇は桐咲 禊ということになっている。これはイリアス国からの承認も得て、書面上の所有者もそのようになっている。教会に関わる施設すべての所有権は外道、桐咲禊のものになっている」


「僕が教皇……。ヘルメスの一件では、天使とはいえ、少女が法皇になったから、少年が教皇であってもおかしく無いと思われているということなのか」


「まあ、名ばかりの押し付けのだがな。今後はこの教会は、教会という邪悪な組織が存在したことを後世に残すための、負の歴史の啓蒙施設として作り直される予定だ。戒めとして永久にこの教会の所有者は桐咲禊となることも保証されている。つまりはこの国が存在する限りにおいて、ほぼ永久的にこの施設は外道の……匣庭の法パンドラの統治の適応範囲内。まぁ、そんな物がなくても12の牢獄だけでも十分ではあるのだがな」


「つまりは。まーだシオンは生きたまま燃え続けているというわけだ。もう喋れないから生きているのか確認するすべもないけど、理屈的にはまだ灰になっても生きて苦痛を感じ続けている。桐ちゃんもヘルメスの地獄を見ているなら、その意味は理解できるだろ」


 とは言え、やり過ぎな感じもするけど、 

 おそらくそれ位の警戒すべき相手

 だったのだろうと、結論付けた。

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