第六章10 『千年の孤独』
「――ちゃん……きーちゃん」
ミミが泣きそうな声で、
僕の名をを呼んでいる。
僕は恐る恐る目を開く。
「おお……ミミ」
いろいろ言いたい事はあるのに、
それをうまく言葉を紡ぐことができない。
ミミには、いろいろ聞きたいこと
だって山ほどある。
だけど、究極的には――ただ
嬉しいと感じている。
それを言葉に出す。
「とにかく、ミミが無事で僕は嬉しい。体は大丈夫か?」
「頭がちょっとくらくらするけど、たぶん休めば大丈夫だと思う。それよりもきーちゃんの体の方が大丈夫……? 教会を出るときと比べるとずいぶん傷だらけの様子だけど」
「これはね……。別件で負った傷だから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ミミが預けてくれたソフィアに助けられて、何とかかんとか生き永らえているよ。僕が今生きていられるのは、ミミのおかげだよ」
ミミがキョロキョロ部屋を見回す。
「そういえば……きーちゃん。この部屋にシオン見なかった?」
「シオンって、あのミミとミミの親を苦しめた極悪人のことか?」
「そう。千年前からこの世界を歪めている諸悪の根源。この教会の教皇として、国だけでなく各国を裏で操っている化物……。とにかくヤバい存在だから、もし奴がここから離れているのであれば逃げよう!」
「そうだね……すぐに出よう」
「ところできーちゃん、あの燃えている灰はなに?」
部屋の中で煌々と
燃えている灰に指をさす。
「ああ……。ミミを拷問にかけていた、謎の男の灰だよ。かなり手強い能力者だった。完全に頭がおかしい奴で、言葉が通じないし、得体の知れない謎の能力も使ってきた。かなり危ないところだったけど、なんとか倒せた……」
「さすがに見張りを付けずに、この部屋を出るほどシオンは間抜けじゃないよね。きーちゃん、ありがとう。ちょっとだけ、闘った相手がどんな敵だったか特徴を教えてくれる?」
「頭を整理して、覚えている限りの情報を報告するね。門がなんとかとか、桜に至るとか、私は神とか、千年生きたとか、改竄するとか、死ねとか、死ぬなとか、一人でぶつぶつ言っている奇妙な男だったよ。あとは声色を変えていろんなキャラを演じていたから、控えめにいっても、完全に頭のネジが外れている感じで言葉が通じそうな相手じゃない感じだった。転生者ではなさそうだったけど、さすがにミミを酷い目にあわせている奴だったから殺害したよ」
いつも通り、全く要領の
えない桐咲の回答。
ミミも上司として時に
怒ることもあるが、
あまり指摘すると地味に
プライドが傷つくようなので、
あまり問題点を指摘しないのが、
ミミのルールとなっている。
目を
報告内容を頭の中で再構築……。
「分かった。そこの燃えてる灰が……ミミの言っていたシオンだよ」
「なるほど。僕も、もしかしたらそうなんじゃないかという気がしていたよ。ミミとミミのご両親の仇が取れて本当によかった。これでミミの親の仇を取れたと思うとこれ以上に嬉しいことはないよ」
”気がしていた”というのは
嘘だと分かってはいたが、
男の子として多少の見栄を張る
癖があるのは理解していたので、
あえて指摘せずにとりあえず話を進める。
「さすがきーちゃん! この世界を歪ませていた元凶を一人で倒したんだね! 本当に千年前からいろいろと因縁がありすぎる存在で神に近い存在のはずだったんだけど……どうやって倒したの?」
「正確な数は覚えてないけど、ざ10回くらい殺して、それでも謎の能力で死ななくて、その後に斬られて、死にかけたけど、無意識のミミの髪が僕の背中の斬られた傷跡を縫って、一命をとりとめたよ。あの時はありがとう。そのあと、男……シオンが能力的なものを使ってきたけど、その時は一時的に相手の能力が見えるようになっていたから、糸の能力的な物を使って、切って結んで、頭を潰して、燃やして倒したよ。ざっとこんな感じだよ」
少女は頭の中で少年の報告内容を
三回くらい反復したが、
少年の言っていることが
まったく理解できなかった。
少し頭がくらくらする。
きっと後でレポートを書いてもらった時に、
解読するのに苦労しそうだなと感じた。
「そっか大変だったね! きーちゃん偉い!」
少女は背伸びをして少年の頭を撫でようとする。
身長差が40センチ近くあるので、少年が
おじぎをするような形で首を垂れる。
少年は心なしな誇らしげな表情だ。
「とにかく良かった。レポートはあとで提出するよ。でも……もう教会も潰れて、第零課正史編纂室も終わりだから、ミミに報告用のレポートを提出する必要はないのかな?」
「仕事じゃなくても、レポートは書いてくれると嬉しいかな。きーちゃんの特徴的な文体を
「ありがとう。ところで、ミミ。これからどうしようか? 転生者の件も……もうない。ミミと、ミミのご両親の仇も討てた」
「きーちゃん、本当にいままで苦しい想いをさせてごめんね」
「ミミ、それは僕の台詞だよ。ミミが一緒にいてくれなければ、ずっと孤独だった。僕はミミと一緒にいる時だけは幸せを感じることもできたし、本当の意味で何のために生まれてきたのかも理解することができたんだよ」
「きーちゃん……ミミはパパもママも殺されて、千年後の世界で一人で目覚めてからずっと孤独だった。周りに心を許せる人間も居なかったし。だけど、きーちゃんが居たから頑張ってこれたんだよ! ミミのほうこそ、きーちゃんにありがとだよ!」
「ミミ……」
バリィン
ミミとよく似た、背の高い少女が声をあげる。
「外……魔王桐咲! 貴様を倒しにきた!」
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