第六章2 『四カ国同盟調印式』
「それでは、
バタンと勢いよく扉が開かれ、
部屋の静寂が破られる。
ベオウルフが会議の場に現れた。
「――四カ国同盟の調印式の最中に邪魔してすまねえ。だが、各国の王が揃っているこの場でしか話せねぇ、重要な話をこれから俺はする。署名の前に少しだけ俺の話に耳を傾けて欲しい」
「
「時間が無さそうなので単刀直入に結論だけ話す。全ての転生者を
「ベオウルフ殿。それはあなたによって救っていただいた
「もちろんだ。ここにいる四カ国の王全員に関係のあることだ」
同盟の調印式に参加
している各国の要人がざわめきだす。
ベオウルフの描いたシナリオ通りの反応。
「まずはルルイエの件から説明しよう。辺境国ルルイエに転生者を送りこみ破滅をもたらした黒幕はこれから話すその男だ。ルルイエを襲った転生者は俺が命がけで殺すことができたが、俺が負けた時のことを考えて
「貴君が我が国から購入した兵器。アレを使わないで済んで良かったな。もっとも我が国としても、まさか対人相手に使用を想定しているとは思わなかったが、ルルイエを蹂躙した転生者はそれほどの危険度の者だったということだな。そのような者ですら手駒にする黒幕か……面白い」
「次に
「
「だがソイツは確かに居る。帝政テスラに狂人フランシスを刺客をとして送りこみ、国から離れていた第一皇子の暗殺を企てた。狂人フランシスの暴走によって第一皇子の暗殺は不発に終わったが、全権大使が両腕を失い、元帥が両目を奪われることになったのは、この黒幕が遣わせた神人が元凶だ」
「あの狂人は自分の手駒として使えないから殺されたということか……。まさかそのような化物が我が国に侵入していたとは……」
「ああ……。イリアスでも、へパイトスという転生者に自分が使うための武器を造らせ、へパイトスが武器を作り終えたとみるや用済みとして始末している。奴にとっては転生者は使い捨ての駒にしか過ぎないということだな」
「あの悪名高い、悪剣遣いの統領を殺した男――」
「一連の事件の全てには、裏で暗躍する一人の少年が居た。この席で心当たりがある人間もいるかもしれない。その少年の名は――
「プルートを殺した謎の少年……」
「ああ、そうだ。狡猾かつ卑劣、冷徹にして大胆。
「まさか――。ヘルメスで目撃されている、美しい少女に連れられていた車いすの少年、それがその男だったということか……そんな、馬鹿な」
「奴は非常に狡猾で警戒心が強い……。俺も奴の動向を探るために、イリアスの教会に潜伏して奴の素性を探っていたが、ついぞ尻尾を掴むことはできなかった。一連の事件を未然に防ぐことができなかったのは、この俺の責任でもある。その点については詫びる。すまねぇ」
「ベオウルフ殿。謝らないで下さい――。全てはそのような凶悪な人物をみすみすと見逃していた我々王達の責任。傭兵のあなたが責任を感じる必要はありません。我が国はベオウルフ殿に救われました。むしろ、お金にもならないのに危険を冒して敵の懐に忍び込んでいたことを感謝しこそすれ、あなたを責めることなど……」
「いや、ルルイエの一件の報酬はあれで十分だ。ここまで話していてもまだ俺の証言だけでは、あまりにも唐突な情報で半信半疑だと思う。だから、俺の証言を裏付けるための証人も連れてきた。ヘルメスで車いすの少年と一緒に居るところを目撃されている
「皆様、お初にお目にかかる。外道の性奴隷、ソフィアだ。ああ――ベオウルフのいう事は全て事実であると、性奴隷である私が証言しよう。命じられていたとはいえ、外道のいいなりになり、間接的に皆様に危害を与えていたことについて詫びる。すまなかった」
「その男は今はどこに潜伏している」
「外道は、今はイリアスの教会で次の惨劇の舞台を生みだすための悪魔の脚本を書いている。私と同じ姿ををした、背の低い妹がそこで外道の姓奴隷として強制労働ささられている。このような私事で、各国の王たる皆様にをお願いするのは差し出がましいことだとは理解しているが、私の妹を教会から救い出してくれ――頼む。私が奴の手から離れた今、妹がどんな酷い目にあわされているか分かったものではない、一刻の猶予も許されない。それが私がベオウルフに頼み、この席に無理をいって同席を願った理由だ」
「ソフィアさんの妹さんの件については、無責任に約束をすることはできません。今回ばかりは、あくまでもその男を制圧することを最優先します。ですが、あなたとよく似た姿の少女を見つけ次第、最優先で救助するように兵に伝えることは約束しましょう。あなたは大変な経験をされました、疲れているでしょう。ゆっくりと休んでください」
「ありがとうございます。そう言っていただけるだけでも救われます」
「貴君の言う事が真ならば、もはや教会もイリアスも奴の手中に落ちていると考えておくのが妥当ということだろうか?」
「そうだ。外道の本拠地であるイリアスは、完全に奴の手中に納められている」
「この一件、もはや宣戦布告無しで我が国の
言葉を遮り、ベオウルフが
強い言葉で断言する。
「
「ふん。厄介な相手だな。ならば貴君はどうすれば良いと考える、覇道王たる我に物を申すのであればなにか腹案があるのであろう」
「残念ながら腹案というほどの案はねえが強いて言うならば、俺ならば各国の精鋭部隊をイリアスに送り込み教会と主要な国の施設を占拠するだろうな。イリアスにある全ての主要施設に奴の思想に染まった教会の暗殺者が潜り込んでいると考えて欲しい。つまり、暗殺者と闘っても勝てる精鋭でそろえるべきだ」
◆◇◆◇
四カ国同盟会議の後
「全てお前のシナリオ通りに進んだな、ベオウルフ」
「はて、それはどうかねぇ」
「珍しく自信の無い答えだな。伝説の傭兵、
「泣くほど大層な二つ名でもねーな。さっきのあそこの席に座っている連中は各国を代表する王だ。一癖も二癖もある食えねぇ
「まさかあやつらも、お前に
「茶番と分かっていても、自国の利益になるのであれば話に乗る。王とはそういうものだ。まあ、俺としては俺の話を信じていようが、狂言だと知りつつ動こうが結果は同じだわな。間違いなく言えることは――これで四各国がイリアスに向けて兵を動かすということだ、この結果だけ得られれば俺の茶番を信じるか、信じないかなんて
「問題なかろう。外道は自分が背負えるか背負えないかなどお構いなしに、その全てを背負う覚悟だけはある。取るに足らないつまらぬ人間ではあるが、唯一その一点のみは信ずるに値する」
「はは。その辛辣な評価、嬢ちゃんらしいな」
ソフィアと分かれたあと、
ベオウルフは一人
「さすがに俺だって全ての元凶を桐ちゃんにしたのは悪いと思っているさ。きっと桐ちゃんにはこれからも安息の日は訪れないだろう。だからせめて、ミミちゃんと一緒に業を背負ったまま生き続けろ。お前の背負っている業は一人で背負うには重すぎる
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