第五章19 『囚人の解放』
パンドラという少女は傷病者の見舞に訪れていた。
「完成品も素敵。だけど真白なキャンパスに一から絵を描くというのも素敵だわ」
少女の瞳にはこの部屋にいる
人間たちをおもちゃ箱の
人形としか映っていない。
「遊び方は無限大。ばらして遊ぶのも、お医者さんごっこで遊ぶのも、煮るのも焼くのも私の自由ね」
少女は慈愛に満ちた表情で
傷病者の見舞を行う。
一国の王でもある彼女が国民を
見舞う姿は、何もしらない者たちにとっては。
神々い姿に見えたであろう。
「外道。あの少女がパンドラか。ドンパチやるにしてはここは人が多すぎるな」
「そうだね」
パンドラの行動パターンを読むのは容易だ。
「外道。もう一つ寄るべきところがある。行くぞ」
「分かった。すまない……車いすを頼む」
◆◇◆◇◆
地下邪教徒拷問室
「ここは?」
「この教会の拷問室に通じる地下通路だ。邪教徒を改心させるために造られた地下施設。もっともこの地下から生きて出てきた人間はいないそうだがな。宝物殿にあった
地下の拷問室。あの痛みの
記憶が呼び覚まされる……。
「そこにも、聖遺物というのがあるのか?」
「いや。天使を殺す前に会う必要がある人間がいる」
教会の施設とは思えない、
悪魔的な装飾のされた分厚い
鉄の黒い扉が目の前に広がる
「鍵がされているね。ソフィア」
ソフィアは僕を
目線だけで僕に開錠しろと
威圧をかけてくる。
錠前自体はバカでかいが構造は単純。
ガチャリ――確かな手応えを感じる。
「開いたよ。ソフィア」
「いくぞ」
重い鉄の扉をソフィアが開くと
そこには悪夢のような光景。
拷問用の器具が所せましと置かれていた。
あの村で出会った青年。
アストラが居た。
まだ拷問をされる前のようである。
「誰だ……パンドラの使いか?」
「いや違う。
助ける。じゃなくて助けて欲しい?
言葉の意味を僕ははかりかねた。
「貴女、それはどういう意味か説明してくれるか?」
「この聖堂教会は間もなく私たちによって戦場と化す。元帥以外でテスラの師団長に命じることができるのは特命全権大使以外にはいない。あの天使に極力気付かれぬようにこの建物の中にいる人間を外に、できるだけ遠くに逃がして欲しい」
「アレと闘おうというのか。無謀だ。私も捕らえられてこのザマだ」
「無謀なのは承知だ。初対面の素性の知れない人間を信用する必要もない。私たちをおとりとして利用するが良い。天使の注意を引く程度のことならできるだろう」
「助けてもらって悪いが、そうさせてもらう。ところでそこの――全身包帯の少年が闘いに立ち会うのは危険だと思う。こちらで預かろうか?」
「この男も一応は戦力だ。死ぬ覚悟くらいはあるさ。問題はない」
「……ならいいのだが。分かった。君たちに質問したいことは山のようにあるのだが、その猶予はないということだな。師団長と合流次第、そのように指示を出そう。君たちも無理だと思ったらすぐに逃げてくれ」
「無論。助勢いただき感謝する」
「ところで……。外に看守がいたと思うのだがそれはどうしたのだ?」
「この包帯の男は呪術師でな。障害となるであろう看守や見張りは洗脳の外法でこの男の精神支配下におかれている」
でたらめである。
当然僕には呪術は使えない。
前回同様
隷属させているだけだ。
「なるほど……その血まみれの包帯も呪術用の装飾ということか。わかった――約束は果たそう。私は自国の兵と、この国の生き残りを助けることのみに専念する。後から戦力を君たちに送ることはしない。だから、そのことについては先に詫びる」
「全権大使のお気持ちだけでありがたい。ありがとう。勝手に死地に踏み入る馬鹿どものことなどは一切気にせず、あくまでも自分の責務だけを全うして欲しい」
「承知した。そなた達に武運あれ」
その言葉を告げるとともに、アストラは
後ろを振り向かずに走って行った。
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