第五章17 『獅子身中の虫』

「これは――酷い光景だな。外道」


「ああ……。地獄だ」


 奇声を発しながら襲いかかる異業を

 ソフィアは“輝く剣サン“で

 躊躇することなく両断して突き進む。


 超高熱で切断面が焼き切るため、

 再生力が高いモンスターでも

 再生不能にする殺戮兵器。


 彼女はこの“輝く剣サン“が

 随分と気に入っているようである。


「外道――妙だ。このモンスター達は両断しても死滅しない。不死者というのは、あくまで魔獣のカテゴリに過ぎず厳密にいえば生物。殺して死なないことなどありえないのだが」


「謎の能力。あの転生者――天使の能力を疑った方が良さそうだね」


「この世界の神話の中の存在、天使が転生者として顕現けんげんするなど信じたくはなかったのだが、この惨状をみる限りはもはや信じざるおえまいよ」


 街は死と絶望に包まれていた。


 車いすをソフィアに押してもらいながら、

 荒野を進む。車いすが揺れるたびに

 全身に痛みを感じる。だが、今はそれを

 気にしている余裕は無さそうである。


「外道。ヘルメス北部の聖堂教会に向かうぞ。壊滅した国の中で北部エリアは何故か被害を免れているそうだ。そこに天使が居ると考えるのが妥当だ。それに聖堂教会には回収しておきたいこの国ゆかりの聖遺物があってな。それの回収も行う」


「よく分からないけど、分かったよ。申し訳ないけど車いすは引き続きお願いするよ」


 ◆◇◆◇◆


 異形が跋扈する街の中を全身包帯に巻かれた少年と、車いすを押す少女が進む。その最中無光の鬼神ノーライトクイーン率いる軍勢が魔獣に魔術を行使している姿も目にした。


 僕たちが最小限の武力行使で目的地に辿りつけたのは、テスラの軍勢によるところが大きい。幸いにして僕のボロボロな様子からテスラの兵に疑われることもなく進むことができた。


 北部聖堂教会は避難を逃れたヘルメスの民の避難所として機能していた。


 ここの避難所の安全を確保しているのは皮肉なことではあるが、この国の敵対国になるはずであった帝政テスラの無光の鬼神ノーライトクイーンの第6師団から第8師団。彼らがヘルメスの民の保護を行っている。


 聖堂教会に入る際にテスラの兵から検問を受けることになったが、全身包帯に巻かれた満身創痍の僕と、介護者のソフィアは優先的に保護すべき対象ということで、聖堂教会内の避難所へ行く事が許可された。


 かくして、僕たちは敵の懐の中に忍び込むことに成功したのであった。

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