第五章9  『地下室の拷問』

 ――意識を失っていたようだ。

 僕は地下室で目を覚ました。


 レッド・タブレット末期発狂抑制剤の効果が

 切れたせいか、感覚が鋭敏になっている。


 エストックで貫かれている腹部の

 穴は治癒術によって塞がれたようだ。


「お前にはいろいろと聞かなければいけねーことがあるんだがな。それだけじゃ俺たちの気がおさまらねぇ。お前には死ぬよりも苦しい痛みを与え――そして殺す」


 オルガ――。鬼族の少女――。

 前衛職の重戦士ガーダー

 体格は僕よりも大きい。

 身長はベオウルフさん並みか……。


「殺す――? そうか。殺してくれるか」


 思わず本音弱音が出てしまった。


 顔面に鉄球のような衝撃――。

 鬼族の少女“オルガ”の拳だった。


 口腔内が自分の歯に

 よって醜くえぐられ

 口元から血がしたたり落ちてくる――。


「アホかおめー。だから言っただろ。となぁ!」


 そういう意味だよな

 ――僕は本当にバカだ。

 この期に及んでまた楽な方を

 選ぼうとしていたのか。

 本当に――救いようのないゴミめ。


「あたいの――あたいの! ボスとカッツェを殺したお前を――リーンは絶対に! 絶対に! 許さない! 簡単に死ねるなんて――思わないで!」


 ****************

 医の太師父だいしふ パナケイア

 定命じょうみょうの者に 癒しの力を


 継続回復リジェネレイト

 ****************


 彼女も――。

 僕のよく知る女の子。リーン。

 ミミよりもちょっとだけ大きいけど、

 ハーフリング族の女の子。


 あのパーティーの回復術師ヒーラーだったね。

 口の中の傷は癒えていく――。


「我が主もカッツェも――こんなことは望まなかっただろう。だが、それは今は関係のないこと。我らは我らの意思で仇を――取る」


 この子もよく知る子だ。フーラ。

 エルフ族の少女。

 前衛職の騎士ナイトだ。


「今の我には“”などというものは期待するな――。貴様も楽に逝けるなどという――甘い幻想は捨てるのだな」


 フーラは僕の手を両手で握った。

 握手。場違いな光景。

 彼女は僕の指を一本だけ握り……。


 ボギィッ――。


 左手小指が変な方向にねじ曲げられる


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――。

 拷問の授業で――最も多くの

 人間の神経が通っている部分は

 『手・指・顔・性器』と教わっていたな。


 そこを傷つけると最も苦痛を与えられると。

 あはは――確かに痛い――笑えるほど。


 ボギィッ――。

 左手薬指が変な方向にねじ曲げられる


「痛いか」


「い……いたい――。です」


「やめて欲しいか」


「はい」


 ボギィッ――。

 左手中指がへし折られた――。


「やめるかよ……馬鹿が」


 ボギィッ――。

 左手人差指がへし折られた――。


 あまりの痛みに――意識を失いそうになる。

 意識が――……。


 ボゴォ


 強烈な衝撃で意識が強制的に引き戻される。

 右肩に強烈な衝撃――。

 確実に骨にヒビが入っているだろう。


「これ。肩パン――とか言うんだってなぁ? 旦那が酔っている時に学生時代のトラウマ話して話していたっけなぁ! 思春期の男はこれされるのが嫌なんだってなー。普通ならたいして痛くないかもしれないが。俺の肩パンはちょっと重いぜ」


 肩――神経の少ない場所のはず。

 だけど痛い――痛い。鈍痛。


「俺は手加減が苦手だからさ、腹とか殴ったらうっかり内臓破裂で即死させかねねーからそれ以外の部分を痛めつけて――最後に殺す」


「こいつ! さっきからダンマリきめてる! もしかして”痛覚遮断ペインキル”使ってるのかもしれない! リーンはボスとカッツェを殺したお前にらくなんてさせてあげないから!」


 ****************

 仮初の力は 剥奪された

 残るは惨めな 己が抜殻


 強化解除リーンフォース・ブレイク

 ****************


 はは――そんなもの使ってないよ。

 そんな便利な能力もない。


 さっきから――痛くて痛くて仕方ないよ。

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