第五章10 『骨の砕ける音』

「そろそろ貴様のおかれている立場は理解したか? 安心しろ。最終的にお前は殺す。騎士道にのっとり質問に答えれば生かすとうそぶき、一縷の希望いちるののぞみを持たせてから殺すような非道はしない――。それでは一つ一つ質問していこう」


 いまさら――僕になにを聞こうと言うのだ。


「まずは簡単な質問から始めようか――。貴様は何だ?」


「暗殺者……でした」


 執行猶予はついているが教会籍は

 剥奪されている。嘘はついてない。


 ドゴォッ――。顔面に衝撃

 ちゃんと答えたのに――。


し。答えていなければ左手の最後の一本をいただく予定だった」


 ああ――。そういうことか……。


「次の質問に移ろう――なぜカッツェを殺した」


「峰岸亨の……仲間だったからです」


 グチャ――。背中への杖による殴打


「そんな理由で――! カッツェを! カッツェを殺した! 絶対にリーンは許さない! 許さない! 許さない! なんでカッツェを殺した! 殺した! 地獄で詫びろ!」


 目の前のハーフリング

 族の少女はわんわん

 泣きながら杖で僕の

 全身を殴打し続ける。


 鬼族の少女オルガが無言で

 リーンの肩に手をおき無言で制止する。


「俺からも質問だ。なぜ旦那を殺さなければいけなかったんだ?」


「……」


 ボギィッ――。

 左手の最後の指もへし折られた

 痛い痛い痛い痛い。


「あー。答えたくないなら、それはそれでいいよ。好きにしろ。まだ右手も、歯も、目も、耳もある――。まぁ――質問できなくなるから耳と口だけは最後まで残してやるよ。拒絶の回数だけ一つずつお前の体の一部を少しずつ奪うだけだ」


 一瞬、間を置いて質問


「んでさ。耳が悪いようだから同じ質問してやるよ。なぜ旦那を殺さなければいけなかったんだ?」


 ――何故? 何でだ 何でだ

 ――何故? とにかく とにかく

 ――何故? 考えろ 考えろ



 異世界転生者が世界の脅威だから。

 否――。人殺しが救世なんて冗談にしても質が悪い。


 ミミが僕に殺せと命じたから。

 否――。僕がやりたくてやっていることだ。


 僕が生まれついての悪鬼羅刹だから。

 否――。罪の意識を感じながら殺す悪がいるだろうか。


 正義の英雄として誅をくだしていた。

 否――。英雄なら自分の行動に胸を張れるだろう。


「よく……わからない。うまく……説明できない」


 無言。


 右足の甲にエストックが

 突き立てられていた。

 足の甲の骨が砕ける音。

 同時に心も折れそうになる。


「貴様――。とは何だ? いまさらシラを切るつもりか?」


「リーン。負担かけてごめんな。なかなか口を割らなそうだから治癒魔法頼む。こいつに死なれたら困るからな」


「わかったよ……。ボスとカッツェを殺した人間を……安らかに逝かせてなんてあげないから……」


 ****************

 命を司る 森の精よ

 彼の者を 癒したまえ


 治癒ヒール

 ****************


 体は痛い。だけど死ねない。

 意識が途絶える度に、

 痛みで叩き起こされる。

 嘘はついていないはずだ

 ――もうよく分からない。


「もう一度貴様に問おう――なぜ我が主を殺した」


「……危険な存在だったから」


 無言。――左足の甲の骨も砕かれ

 足の甲にはエストックが

 突き立てられていた――。

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