第五章13 『満身創痍』

 あの地下室からソフィアに

 担がれてから意識を失い、

 僕は宿のベットで目を覚ました。


 目の前には椅子に座って

 本を読む少女ソフィアがいた。


「あれからどれくらい寝ていた?」


 全身が痛い――。あの拷問あとに

 ソフィアから治療を受けた

 ことは覚えているがその

 後意識を失っていた。


「まる2日ですね。外道」


 2日間。長いのか短いのか。

 とりあえず命はある。


 ――手足を確認。


 右手と左手は包帯で

 グルグルにされている

 指は完全にへし折られたからな。


 でも右肩は折られたはずなのに、

 少し痛むが、間接は動く。


「ソフィア、僕右腕折れてない」


 ソフィアは僕の質問に

 つまらなそうに答える


「折らずに関節を外しただけなので」


 左右の腕が動くだけで幸運と

 思うしかない。諦めていただけに

 素直に感謝しかない。


 足の甲も貫かれたところは

 ケロイド状のアザになっている。

 直立は無理か……。車いすが必要だ。


「そういえば、ソフィアは医療技術とかをギルドに特許として売って儲けていたんだっけ。それにしても凄い医療技術だね。ありがとう」


 超常の力と言われる

 魔法も万能ではない。


 たとえば斬り落とされた

 腕が治癒魔法でくっつく

 わけではないし、細菌性の

 感染症が治る訳ではない。


 元々、治癒魔術ヒールは人が持つ

 自然回復力を急激に活性化させる。


 どちらかという身体強化系の

 魔法と考えた方が実態に

 近いかもしれない。


 


 治癒魔法が存在するこの

 世界においても、医療技術が

 重要視されているのは、

 これが理由である。


「あのまま外道に死なれるとミトスフィア・ミーリア女史との約束を反故にすることになるので命だけは助けました。しばらくは安静にしていた方が良いでしょうね。ついでに抜かれた歯もはめときました」


 よく分からないが、歯も腕も一応

 くっついているのはソフィア

 のおかげだ。感謝せねばなるまい。


 彼女達に辛い想いをさせ

 たことは事実だ。

 この痛みも甘んじて受け

 入れなければなるまい。


 ミミが僕に究極の一振りソフィア

 付けてくれていなければ、

 あの地下室で息絶えていただろう。

 ミミとソフィアには感謝しかない。


「念のために確認です。外道は彼女達に復讐をすることを考えていませんね?」


「あるわけない。これ以上関わらない方が互いにとってよいのだろうね」


「残念です。もし『はい』と言っていれば女史との約束を反故にしてでもあなたを殺すことができたのに。外道」


 これからはソフィアの質問に

 ついてより慎重に答えねば

 いけないなと思わされた

 瞬間であった。


「気遣いはありがとう。今日中にヘルメスに移動しよう。なにも戦争にいくわけではないのだからこの体でも支障はないだろ。車いすでしか移動できない状態でさすがにムチャするつもりはないよ」


「で――なぜ永世中立国ヘルメスに行くことに決めたのですか?」


「僕がミミの約束を果たしたいと思っているからだ。つまりはこれは僕の欲求であり、やりたいことだからだ。先日の件で本当の意味でそれを自覚できた気がするよ」


「ふん」


 鼻で笑われた。


「誰かのためではなく、自分がやりたいから行動しているだけだ。そう最初から」


「そうですか。それならば外道の好きなようにすれば良い。ミトスフィア・ミーリア女史の義理も約束もある。とりあえずは外道に助成はしよう」


「ところで、この俺がここで寝ている間にニコラ、ヘルメス、テスラの3カ国間に動きはあった? もし何か分かったことがあるのであれば教えて欲しい」


「あなたがこの部屋ですやすやとのんびり寝ている間に、私が懸命に働いて得た情報を披露しましょう。まずは先制攻撃を仕掛けた側のニコラ国が何らかの理由で壊滅的な損害を受け、事実上の脅威ではなくなりました」


「距離の離れているニコラ国でなぜそんな被害が?」


「詳細は不明。異能、または天使の能力と考えるのが妥当。これは明らかに常軌を逸脱した現象のため、考えるだけ無駄です」


「規模が大きすぎる話だな。帝政テスラの動きは?」


「魔獣と人間との混戦部隊が進軍しているとのこと。その軍を指揮をしているのは無光の鬼神ノーライト・クイーン――ティティア」


「礼拝堂の生き残り――。ヘルメスについては現状どうなっている?」


「現状、永世中立国ヘルメスは戒厳令が敷かれており、正確なところはわかりませんが、地獄というのが相応しい状況のようです」


「もはやこの規模の話となると僕の出る幕はないのかもしれないが、せめてヘルメスの近隣まで向かおう。この街で車いすも調達したい。いまの僕のこの足だと徒歩での移動は……少々きつそうだ」

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