第二章8 『究極の一振り』
へパイトスが隠れ家の推理は容易だった。
結論から言うが彼が隠れているは
――この月面を映す美しい池の下だ。
最初の違和感は池に魚が泳いでいないことだった。これだけ立派な日本庭園に色鮮やかな魚が泳いでいるはずだ。あとまるで入れ替えたばかりの水のように不自然なほど水が澄み切っているということ。
――池の水はお月様を鮮やかに映し出すほど澄み切っていた。
「灯台元暗しという奴だね。この池の下に隠れているのは間違いなさそうだ。屋敷の中は対ベオウルフ戦用にさっきのようなメイドが待ち受けている可能性が高いそうだね」
池の水を排水溝から抜き取り不自然に置かれた岩をどかすと、そこには地下道に通じる隠し扉があった。水が入りこまないように尋常ではないくらい分厚い鉄製の扉になっていた。
鍵はアサシンの基本技術、
地下階段はあくまでも隠し部屋としての運用を想定されているためか、人一人が通るのがやっとの狭い通路であった。作りもいたって簡易的なものであったことからも――隠し部屋に大勢の伏兵が隠れているということはなさそうだ。
カーンカーンカーン――!
隠し通路を抜けると、ちょっとした工房のようなところに出た。部屋の奥では刀を造るための炉の炎が
10メートルほど先でずんぐりむっくりという表現しか表現できない体系のドワーフが鉄を打っている。
遠目には女性の姿をした鉄製の球体関節人形を造っているように見えたが。メイドの一件といい――へパイトスはなんとも業の深い男である。
――最初に口火を切ったのは
「ほほほ……。
「そうだね。脇腹を5回刺されて、両腕の肉もズタズタにされて死にかけたけど」
「ふん――。ワシの自慢の最強メイド2人を倒したことは褒めてやろう。少年」
「ありがと」
体調が万全なら相手が話を気を取られている間に奇襲をかけたいところだが、今の僕にはその余裕がないということと――どうしても確認しなければいけなかったため話を続けた。
「まず、礼節に則って名乗りをあげておこう。わしは全ての
聞いてもいないのに自分語りを続けるアラフィフおっさん。話していなかったら僕の方から質問するつもりではあったのだけど、正直調子が狂う。
「
転生者という言葉が出たことに露骨に驚いている。
あまりに分かりやすいアラフィフおじさんだ……。
「おじさんが
「転生者を
「そう僕は異世界からの転生者を殺す暗殺者だよ」
「異世界からの転生者の存在を知っているものがいるとはなあ。いやいやわしも迂闊だった。カカカ、転生者殺しとはな――面白い。
お主の予想は正解じゃ。ワシはこの世界とは違う”カペラ”という異世界からの転生者じゃ。転生前の世界では物造りが盛んでな。
その世界の中でもワシは超一流の鍛冶師と呼ばれておったものよ。転生前の世界では
だが――神はワシを見捨てなかった。この世界に転生する時には武具にその武具に最も
「ありがとう。おじさんが異世界転生者だということが分かったから安心して殺せるよ。それにしても話し合いをしている余裕なんてあるのかな? 僕はあなたを活かして帰すつもりはないのだけど」
「カカ……! やはり所詮は小僧……青二才! そう焦るな。ところでがなぜわたしが
「外のメイド達も
「ワシは十の最強メイドを使役する者じゃ。貴様が倒したのはまだ二人――。それでその満身創痍。クックック……。これが何を意味するか想像するが良い……。
「一つだけ――大切な質問がある。なぜメイドに刀を持たせた?」
「そりゃ――ワシの趣味じゃ」
「最も重要な質問への回答ありがとう。それは良い判断だ」
「小僧よ――ご清聴ありがとう!――いままでの話は全ては残りの
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――地下工房に沈黙がこだまする
「おじさん急に叫び出してどうしたの……?」
「……頼むから……来ておくれ……
「なんかごめん――。あの隠し扉の入口の内鍵は僕が破壊しておいたから屋敷に待機させているメイドをここに呼ぶのは無理だよ……。
残念ながら諦めて。おじさんを責めるわけではないけど、地下工房のためにあんなに重くて頑丈な扉を造らなくてもよかったかもね」
さっきまでの威勢の良さとは打って変わって今にも泣きそうなアラフィフドワーフおじさん。――カペラの転生者へパイトス。
「はは……ははははは……。なれば……ワシが……一人で……闘うまでじゃ。小僧は勘違いしておるようじゃな。ワシもこの世界の
それに刀は私の本来の得意とする武器は槌じゃ! ワシの槌はオリハルコンですら錬鉄することが可能な超一級の
――ブオン!
およそ50kgはあるかと思われる超重量級の大槌の一撃。へパイトスという男はともかくとして――この
「ふぉっふぉっふぉっ! 小僧――。その満身創痍の体で闘うのは辛かろう。ワシが楽にしてやるから大人しくしておれ」
テンションが上がったり下がったり――精神不安定おじさんだ。
「やだね」
人を
暗殺者の体術は拳闘士とは比べ物にならないがそれでも少し鍛えた程度の
桐咲はへパイトスの右足を横薙ぎに蹴りつけ、へパイトスがバランスを崩した瞬間、右手のひらで顔面を鷲掴みにし、そのまま全体重をかけて石造りの地面に向けへパイトスの後頭部を思いきり打ちつけた。へパイトスの頭部に強烈な衝撃と脳震盪。――まだ意識があるのは奇跡である。
「クソが……。あともう少し――。あともう少しだけ時間があればワシの悲願である
人魂の研究、そのための
「同情はするけど、見逃すための事情にはならないよ。星のめぐりも日ごろの行いも悪かったと思ってあきらめてくれ。せめてもの救いに――僕を憎んで逝ってくれ」
――ザクリ
カペラからの転生者へパイトスの頭蓋にダガーによる即死の一撃を加える。転生者の頭蓋に侵入したダガーの刀身がへパイトスの
脳の破壊により訪れる確実な死。へパイトスはそこで動かなくなった。見た目はグロテスクで
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異世界転生者へパイトスの心音停止を確認
おめでとうございます
「
「
「
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僕はミミから与えられた隠しミッション、”
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