第二章7 『月夜の輪舞――メイド VS 暗殺者』
僕は
1000年前にこの世界に召喚された者の中には僕と同じ地球から召喚された者もいたようだ。その影響かこの世界には数こそ少ないがその名残を感じさせるものが多々ある。
へパイトスが立て籠るこの、和風建築の豪邸がその顕著な例であろう。
へパイトスは他の悪剣遣いが殺されてからは、真っ先にここに隠れ籠城しているとのことである。侵入者。ベオウルフから隠れるために最も自分の得意とするホームグラウンドに籠るというのは判断として間違ってはいないが――。
「辻斬りが趣味の人間に相応しい姑息な対応。姑息さについては僕も人のことは言えないが」
庭園の池には満月が浮かんでいる――。
「この和風庭園は、なんというか事前にミミから聞いていたアラフィフの趣味が辻斬りの狂人という情報からは想像できないほどに正統派な造りだ」
ザザッ――。
二人分の足音
「閉館後にご来館とは――
メイド!?
和風庭園に野太刀を上段に構えてメイド
月夜に映えるが――
あまりに場違いな光景に思わず言葉を失う。
目の前の女にしてもそうだ――。
和風庭園に野太刀を構えたクラシカルなメイド。
だがここは命を奪い合う場所。
いつまでも見とれている余裕などはない。
僕は軽口を言葉を返す。
「そこはお客様じゃなくてご主人様といって欲しいところだが――。メイドは趣味だがここでのんびりしていくつもりはないんでね。無理にでも通させてもらうよ」
「それでは礼節に則りまずは名乗りをあげましょうか。
「僕はただの暗殺者。メイドさんの土産に残してあげる名もないよ――っと!」
外套の下に隠していた投擲用のダガーを投げる
カキィン――
僕の投擲物は闇に潜んでいた何者かによって妨げられる。
「ありゃー。名乗りすらあげにゃいとは、ほんとーに困ったご主人様にゃ。このお題は高くつきますよー。それじゃーあっちも名乗りをあげましょうか。同じく
そして、猫科獣人――。
速度と手数を得意とする僕の苦手な手合いだ。
「いったい幾ら支払ったら、ここを通してくれるのかな? 平和主義な僕としては話しあいで済むならばそうしたいのだけどね」
といいながら投擲用のダガーを投げつける――がこれも防がれる。夜色に溶ける暗所では不可視のダガーなのだが、この獣人の目にはその軌道が正確にみえているようだ。
「お代はご主人様の命だけで結構ニャ☆」
状況を分析――。
一方、副メイド長を名乗るマホレは身の丈は150cm程度の小柄な猫科獣人。
――特に警戒が必要なのは
戦闘スタイルが近い後者の方だろう。
情報分析完了。
「そこの副メイド長、僕と一対一で勝負しないか?」
目の前に
「おあいにく様。戯言を聞くつもりはないニャ☆」
今日は満月の夜――。猫科獣人の夜行性と月夜の狂気の種族スキルが発動している。速度で上回るのは不可能
フィン
首元を狙った即死の一撃。僕は薄皮一枚でこれを避ける。――速い! だが目で追えないほどではない。
「にゃーははははは。いまの一撃をかわすとは――。なかなかに面白いご主人様ニャ☆」
確かに速い。身体能力も高い。だが――
「うおおおおお!!!」
力任せに砂利を蹴り飛ばす――。ただの目くらましの攻撃。――だが目の前の投擲物に対して反射で防御してしまう。
その一瞬のスキを突き。目の前の標的を無視し――一気に前方を駆け抜ける。狙いはメイド長のエリス。野太刀で斬られれば死は免れないない。ダガーで防ぐことも不可能――もろともに両断されるだけだ。
上段に構えた白刃を振るう。これをバックステップで回避。――足の運びがまったく見えない。次の行動が予想できないあのロングスカートは厄介だ。
ブン
メイド長からの腹部から両断するための横薙ぎの一閃。これをスライディングによって交わし、そのまますれ違いざまに脚の腱を斬ろうと試みる。
メイド長はつま先立ちになりまるで月夜の下で
暗器!! メイド服のロングスカートのフリルの内側に仕掛けられてていたおびただしいゆうに100を超える剃刀の暴力が僕を襲う。致命傷を避けるために両腕で顔を守り切るも両腕の皮膚は醜く抉れている。
機動力を奪うために足の腱の切断を試みるも失敗に終わった。
「あっちの方を忘れてもらっては困るんですけどねぇ――ご主人様ッ!」
スライディングで潜り抜けたその先には――。
トトトトトッ
固定から逃れようとするが――。左脇腹に刺突による五連撃を受ける。かろうじて即死を免れることはできたが、このままでは失血死してしまう。
プッ
口腔内に隠していた暗器。吹き矢で応戦――右肩に麻酔針が刺さったことを確認。この靴底の下の固定された状態から逃れることに成功する――副メイド長は
僕は勢いよく両腕を挙げる――全世界共通の明確な降伏のポーズだ。
「なんのつもりかニャ? 降参のつもりかもしれないけどー。暗殺者を見逃すほどあっちらは寛容じゃないニャ☆」
「覚悟も無く死地に踏み込むとは――つくづく度し難い」
目の前の死に体の男にトドメをさすべく接近する。
二人は気づかない――。桐咲の両腕の上空で漆黒のダガーが円を描きながら旋回していることを。突然の降参のポーズに目が向いているのだからそちらに目がいかないのも当然である――これが
黒塗りのダガーの柄の先端から伸びている
フォン―フォン――ブオン
桐咲の両腕の上空で旋回していた漆黒のダガーはまるで蛇のように目の前の2人のメイドを食い殺さんと襲いかかる――。それは攻撃ではなく拘束を目的とした攻撃!
糸の先端についたダガーを鎖がまの分銅のように遠心力を生みだし――二人のメイドを同時に捕縛する。蜘蛛の糸はまるで蛇のようにグルグルと二人の体に巻き付き拘束から逃さない
「念のため確認するけど、へパイトスさんの居る場所教えてくれるか?」
答えを期待している訳ではないが一応の確認だ。
「答える訳がなかろうが――阿呆。殺すならとっとと殺せ」
「教える訳ないニャ。ばーか」
ある意味想定通りの答えだ。
メイドさんはこーでなくちゃ困る。
「簡単には口を割らないと思っていたよ」
桐咲は左腰のポシェットから注射器を2本抜き出し――糸に拘束されて無抵抗なメイド二人の頸部大動脈に針を突き立てその液体を注入する――。その中の液体は麻酔薬。
悪いけどそこで半日ほどここで眠っていてね。それに、答えてくれなくても一向にかまわない。へパイトスがどこにいるか、この満月が教えてくれているのだから。
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