第二章6 『死の廃坑――双子剣 VS 武器庫』
ズドォーン! 廃坑に爆音が響き渡った――。
「ふん――。
「おう。待たせたな! 明らかに分かりやすい入口があったから蹴破って入ってきてやったぜ」
規格外の男による規格外の行動……。だが悪剣遣いのヘカーテ、相手が規格外の存在であることは織り込み済みである。想定外の事態に動揺することもない。
いわく翼竜殺し、いわく巨人殺しその他もろもろの偉業を成してきたことも当然知っている――その上でヘカーテはなおベオウルフに対して勝機があると見積もっている。
「随分と遅かったな――。臆病風に吹かれたかと心配したぞ。
強がりではない。
この男の嘘偽りのない本音である。
「いまいちリアクションが薄くて残念ではあるが、サプライズの登場を喜んでもらえて嬉しいぜ! 俺は人が喜んでいる姿をみるのが好きな人間だからな。俺の名はベオウルフ――ただの傭兵だ!」
「ふん。ただの傭兵ときたか。――
「
「いざ尋常に勝――」
ベオウルフはヘカーテが開戦の口火を言い切る前に右腰の鞘からファルシオンを抜刀――神速の居合術を放つ! だがヘカーテは最小限の動きでこれを回避。幾たびの死地を経てその勘の
カカーン
ヘカーテの目にもとまらぬ二連撃がベオウルフのファルシオンを弾き飛ばす。ベオウルフは反動で後退する。
「
「へっ。楽しんでもらえたみたいで嬉しいよ」
「我の
「ほぅー。そりゃなかなか面白そうな趣向だな。そんじゃー楽しみにしているぜ。楽しみついでにお前さんが二刀流なら、俺もお前の流儀にあわせて闘ってやるよ」
ベオウルフの慢心――。これはヘカーテの織り込み済みの必須勝利条件の一つでもある。だが、外道に堕ちた身とは言え二刀の道の
ガガギィン――
ヘカーテの無言の意思表示
ヘカーテの二刀の連撃を左鞘からフランベルジュを抜刀し受け止める。宣言通り両手持ち剣の二刀流という異様な姿を晒していた。
ファルシオン、フランベルジュ共に
「ふん――。貴様の慢心は“悪剣遣い”の我にとっては好都合。だが剣士としては不快だ。貴様の得意なスタイルは両手持ちだ。それでかかってこい」
「その提言はありがてーがなぁ……。一度男がこれと決めたら引けねぇんだ。自分の決断を曲げるというのはできねぇ相談だ! このまま無理を通させてもらうぜぇ!!」
ファルシオンとフランベルジュによる連撃――。長大な剣は洞窟内の岩壁にぶつかり岩壁を掘削しながらヘカーテを襲う。
だが、壁にぶつかっている時点で速度は急激に落ちている。ヘカーテがこの攻撃を避けるのはあまりに容易――だが彼はあえてこれを剣で受けきる。
「大きさ、長さの異なる二振りの二刀でここまで戦えるとはさすがだ! 面白い……! 面白過ぎるぞ
ヘカーテはこの瞬間のためだけに
生きていたのだと確信した。
「攻守逆転だ。今度は我が貴様を興じさせてやろう。――我が二刀の深淵を
カキンカキンカキンカキーン――
終わらない剣戟の嵐。だがこれもベオウルフは受けきる。ベオウルフの恐るべき視力と、
「おぉっと……。こりゃさすがに手ぇ痺れてきやがったぜ」
「我の
ヘカーテの持つ双剣は
「ぬぉぉ……! こりゃ……駄目だ! 武器交換!!」
ヘカーテの連撃により刃こぼれしてただのいびつな鉄の棒きれと化したファルシオンとフランベルジュを目の前の男に向けて投擲――。
ヘカーテは最低限の動きでこれを回避――即座に態勢を立て直す。ベオウルフはその一瞬の
カキンカキカキンカキカカカカキカキンカカカカカカキーン――
ベオウルフの常軌を逸した動体視力でも剣戟を追いきれない。交換したばかりのクレイモアとバスタードもすでにボロボロの鉄の棒きれと化している。
「そろそろ終局だ。心から礼を言うぞ
――
ヘカーテはベオウルフ相手に対等な決闘ができると考えるほど
ヘカーテのいままでのすべての
全ては究極の一を成すため――膨大に蓄積された暴力の渦が生ける伝説に襲い掛かる――。
――
ヘカーテの肉体の内側からの破裂音――。
ひき肉のようにズタズタになった両腕の肉が飛び散り廃坑内を朱色に染める。当然、ヘカーテには何が起こったのか理解できるはずもなかった――。
これは
「礼には及ばねぇさ。こっちだって楽しませてもらったんだぜ。ありがとなヘカーテ。間違いなくお前は本物の剣士だよ」
ベオウルフは胸元から黒塗りのダガーを取り出し、目の前の男の頸部の大動脈を一閃。普段の大胆で豪快な戦い方とは全く異なる――命を刈りとることのみに特化した鮮やかで精緻な一閃。
フッ――。ヘカーテの首元で小さく風を裂く音がした
あまりの剣閃の美しさに
涙が流れたのは自分の命が失われることが悲しいからではない。それはあまりにも彼の剣が美しかったからだ。自身の命を奪ったベオウルフの剣閃の
彼は外道には堕ちたが――死ぬ最後の瞬間まで剣士であった。
「お前との殺し合い、楽しかったぜ。約束通りその名は記憶に刻んでやるよ」
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