第二章5 『双子剣の姦計』
ヘカーテが決闘のために選んだ場所はいまは閉鎖された廃坑。炭鉱夫だった彼の父が命を失った場所でもある。廃坑の壁は岩肌が剥き出しになっている。
この廃坑の通路は人一人が通るのがやっとの狭い洞窟である。
「
他者との命の奪い合いのさなかでしか生を感じることができないヘカーテにとって、ベオウルフとの決闘はこれ以上にないほどの愉悦の時でもあった。
「英雄譚殺し《エピックスレイヤー》相手に真っ向勝負では分が悪い。あの3人が殺されたのは敵陣に自ら攻め込んだ地の利によるところが大きい。我は彼らの無念を晴らすためにも、万全の態勢で奴を迎え撃つ」
ヘカーテは決して油断しない。幾たびの戦場において自分よりも優れた相手を
だが、その華やかな印象とは異なり双剣は非常に扱いの難しい武器である。この双剣という武器を
双剣は片手でも持てる武器であるため必然、刀身が短くなる。刀身が短いということはつまりは、
双剣の闘いにおいて
人間の武器の進化の歴史は、斧、剣、槍、弓といかに
一般的な刀の刀身は約100cm対し、二刀流の刀の刀身は60cm。この40cmの差はあまりに絶望的な差である。二刀で一刀に一太刀を浴びせるためには、相手の剣域に潜りこむ――すなわち常に死を意識しなければできない。
ましてや、
一流の剣士であるヘカーテにとって刀身の長さの差は相手との間合いを詰めることで解決し問題とはならない――だがそれはあくまでも格下相手の話である。
相手が自分よりも遥かな高みにあるベオウルフの場合はこの刀身の差は埋めることなど不可能である。
「だから――我は奴との闘争にこの場を選んだ。このような人一人が通るのがやっとの岩窟内であれば刀身の短い双剣に分がある。
ベオウルフが岩窟内で長剣を振るうのは自殺行為である。周りの岩壁にぶつかって、まともに相手にあてることなどできない。
これが
また360度全方位からの投擲物に対しての警戒をしなくても済むという点も多きなメリットだ。この洞窟内であればたとえ弓矢による攻撃とて己の前後さえ警戒すればよいだけだ。迎撃は容易だ。
「仮にこの廃坑で、水責め、火責め、毒ガスなどで攻撃されさた時用に予備の隠し通路も用意している。その点は抜かりはない。最も
なおかつ、我はこの暗闇で目を慣らしている、外部から侵入してきたものに対して暗闇に順応している我は圧倒的なアドバンテージを持てる」
通常であれば、慎重なヘカーテと言えどここまでの対策はしない。自分の命を狙おうとする相手がかの
「生前は
「いつでも来い
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