第二章4  『おっぱいマッサージ』

 僕はミミをパジャマに着替えさせるのと就寝前の全身マッサージをするために第零課正史編纂室ミミの寝室に訪れた。


「悪剣遣いを3人同時撃破っていうのはさすがにミミもびっくりしたから、武器庫アーセナルの報告書をじっくりと読んでみたの。それでいろいろ分かったことがあるんだよ」


 僕がミミの衣服を脱がせ、

パジャマのに着せ替えている

最中にミミが語り始めた。


 僕は脱衣技術のみならず、

着衣技術も上級者犯罪者のソレだ。

目隠しをされていてでもミミに

パジャマを着させることができる。


「なんか面白いことが分かったの?」

「なんというか報告書読んで武器庫アーセナルらしい闘い方だなーって感じた」

「そうだね。確かに悪剣遣いを3人同時に撃破したのは“生ける英雄譚“の異名にふさわしいベオウルフさんらしい豪快な闘い方だとは感じたよ」


 ミミの凝った肩を強めに揉む。

朝起きて寝るまでずっと座り仕事を

しているせいか、かわいらしい容姿とは

不釣り合いなくらい本格的に凝っているのだ。


 ちなみに僕はミミが何を研究しているのか

さっぱり分からない。何度かミミの書いた

レポートを読んでみたけど理解不能であった。


「ミミが読んだ感想はきーちゃんの見方とは逆かな。結論から言うね。あの悪剣遣いの3人はんだよ」


「ミミ。ってのはどういう意味?」


「そうだね。もうちょい詳しく説明するね。悪剣遣いの3人はあの夜が武器庫アーセナルを倒せる千載一遇のチャンスだとんだよ」


「誤認?」


「そういうこと。武器庫アーセナルは教会所属の暗殺者でありながら、フリーランスの傭兵という一面も持っている。傭兵の知り合い達に“悪剣遣いをぶち殺す”って意図的にリークしていたみたい。

人の口には戸が立てられないっていうけど武器庫アーセナルは噂を意図的に拡散して、悪剣遣い達の耳に“極秘に仕入れた独自情報”と誤認するように仕掛けていたみたいだね。おびき寄せるための撒き餌だね」


「なんというか豪放磊落な無頼漢ベオウルフさんとしては意外な闘い方だな。それは傭兵というよりも暗殺者としてのやり口だ」


「まー。武器庫アーセナルが戦闘狂で豪快な人間だっていうのは事実。だけど暗殺者としての慎重さや狡猾さなんかも兼ね備えているんだよね。見た感じでは分かりづらいけど。そこがやっかいなところ……」


「へー。人は見た目じゃ分からないものだね」


 ミミの背中にぴったりとくっつき

後ろから胸を揉みしだきしながら答える。


 ミミがどこからか仕入れた情報かは知らないが

“男におっぱいを揉まれると大きくなる”という

情報を仕入れたらしく、それからはおっぱい

マッサージは日々の日課になっている。

どこの誰かは知らないがグッジョブだ。


もみもみ


 ただ――いっこうにミミのおっぱいが

大きくなっている気はしないのだけれど。

それを指摘したらおっぱいマッサージを

打ち切られかねないのでこの事実は

墓場まで持っていこうと思う。

ミミ。悪いやつに騙されるなよ――。


もみもみもみもみもみもみもみもみもみ


「きーちゃんはおっぱいばっか揉んでないで他のところもマッサージして!」


 という悲鳴とともに裏拳が飛んできた。

裏拳は僕の鼻にクリーンヒットした。

スポンジで殴られた程度の威力だけどね。


「そうそう。たとえば陽剣ヒートエッジスルトの直接の死因は頭蓋骨粉砕骨折。骨折以前に、頭の上半分がまるまる無くなっていたみたいね」


「人間の頭をたまごのカラのように破壊するなんて人間離れしてるね」


「うん。でもね。よくよく調べてみるとその前に陽剣ヒートエッジの彼、全身に大火傷を負っているんだよね。

これ武器庫アーセナル燃える水ガソリンをぶっかけたかららしいよ。これは前もって誰に奇襲されるのかを知っていた上で周到に準備していたとしか思えない対応だね」


「なるほど。それで夢剣オートマトンのモルペウスは?」


「どういう手段を使って情報を仕入れたのか知らないけど――。夢剣オートマトンの彼が隷剣スレイヴァーの毒牙にかかっていたことを武器庫アーセナルは事前に知っていたっぽいんだよね。だから武器庫アーセナルはモルペウスをガン無視で隷剣スレイヴァーのフレイヤのみを狙った攻撃したわけ」


隷剣スレイヴァーのフレイヤを殺そうとすれば、隷剣スレイヴァーの支配下にある夢剣オートマトンのモルペウスはフレイヤを自動的にかばう訳だから、必然的に防戦一方におちいらなきゃいけないわけだ」


 ミミをうつ伏せにして、上から馬乗りに

またがり腰のあたりを集中的に指圧する


「あふぅーん」


 とかいう艶っぽい声が聞こえた

気がするがたぶん幻聴だろう……。

ベオウルフさんのせいで僕も疲れた。


 それはともかく、ミミは労働時間が長すぎる

せいか毎日マッサージしないと、すぐに

凝りが酷くなるから可哀そうではある。


 座り仕事の時間が長いミミにとって腰と肩の

コンディション悪化は特に致命的な問題である。


「結果はご覧の通りね。隷剣スレイヴァーのフレイヤはまったく何もできず二人同時に串刺しにされて死んじゃった。これ武器庫アーセナルの筋書き通りぽい。もともと隷剣スレイヴァーはまっとうに闘うと厄介な敵ではあったからね」


「そうなの? 報告書を読む限りは隷剣スレイヴァーのフレイヤだけは雑魚のイメージしかないんだけど」


「断言するけど隷剣スレイヴァーはあの3人の悪剣カースドエッジ』の中では、一番厄介な相手だったんだよ。だって、あの剣で斬られた人間は強制的に隷属させられちゃうから。

1人だったらたいした脅威じゃないけどヤケクソになって1000人とかを隷属されてたら想像できないほどの脅威だよね。

仮に武器庫アーセナルが斬られていたら教会どころか国すら危ない。――まぁ武器庫アーセナルが斬られることなって100%あり得ないから想定するだけ無駄な妄想なんだけど」


「確かにね。1000人に襲われるとか地獄絵図だね。武器庫アーセナル以外は生き残ることは不可能だよ」


 ミミの手のひらのツボを親指で強く押す。

ハンドリフレクソロジーというやつだ。

親指でてのひらを指圧する。


「いいわぁー指圧いいわぁあー」


どうやらお気に入れのようである。

僕も褒められるのは嬉しい。

さすがは僕だ。


 ハンドリフレクソロジーでミミの

特にお気に入りなのは、ミミの指の爪を

ちょっとだけ強めに親指と人差し指の

間に挟んでぐりぐりしてから

”キュー……ポン”とやるマッサージだ。


「もっとやってー」


というリクエストがきたので

今日もリクエストに応える。


――キュー……ポンッ


「ベオウルフさんは策士だってことは分かったよ」


「でもね――。本当に武器庫アーセナルが恐ろしいのは、いままでにあげた策の方じゃないんだよ」


「ミミ。説明を頼めるか?」


「うん。そもそも策なんて最初っから必要ないのに策をろうしていることだよ。たとえば、陽剣ヒートエッジのスルト。彼には最初から何かをブン投げていれば瞬殺できた相手。次に夢剣オートマトンのモルペウスだけど、フレイヤを狙わずモルペウスと真っ向勝負で闘っても単純に暴力だけで制圧できた相手。

隷剣スレイヴァーのフレイヤがヤケクソになって1000人の手下を連れて襲撃したとしても、武器庫アーセナルなら返り討ちにしただろうね。

”策はろうすれど必要なし”そういう奴なんだよ。単純な暴力だけで制圧できる相手でも最善のシチュエーションで戦闘を楽しみつつ殺す。そういう奴」


「ミミがベオウルフさんを苦手としている理由が分かったよ。確かに……可能であれば関わりあいたくない相手だね」


 最後に愛情をこめてヘッドマッサージをしていたら、僕の上司のミミはすやすやと寝息を立てたので……疲労困憊しているミミを起こさないように毛布をかけ――僕はアサシンらしく足音を立てず静かに退出した。

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