第二章3  『一刀遣いのへパイトス』

 重い足取りで第零課正史編纂室にたどり着く


「ミミ。すまない。ベオウルフさんのところに交渉に行ったけど悪剣遣いの2人を譲ってもらうことはできなかった」


 結果を出せなかった事実に言葉を詰まらせながら伝える


「しゃーなしだよ。武器庫アーセナルならそーいうだろうとは想像していたよ。きーちゃんには負担をかけたね」


 ミミは意外性もなくこの結果が当然のような反応だ。あまりにすんなりにミミが納得してくれたので逆に肩透かしをくらう。僕はあれだけ胃をキリキリさせながらこの部屋にはいってきたというのに。


「おや。異世界転生者絡みのことだから怒ると思ったんだけど?」


「まっ……。あの男相手にまともな交渉なんてムリムリ。特に今回はもともと“悪剣遣い“は武器庫アーセナルの殺害対象でもあったわけだし。今回ばかりは運がなかったと思ってあきらめるしかないかも」


 ミミはよほどベオウルフさんと関わりたくないのか、早々にあきらめモードだ。――たしかにミミとは相性はあまり良さそうではない。ベオウルフさんは体がやたらデカくて威圧感あるしな。


「ミミの期待に添えられるかは分からないけど一応、ベオウルフさんから譲歩案は提示してもらえたよ」


 目をキラキラと輝かせ露骨に上機嫌になる我が上司様。因果応報剣フィードバッカーが強奪されてしまったという不慮の事故は黙っておこう……。


「すごーい! さすがわたしのきーちゃん。どんな譲歩案をもらってきたの?」


「ベオウルフさんが双子剣オールフォーワンのヘカーテを殺って、僕が一刀遣いワンフォーオールのへパイトスを殺るっていう条件だよ。『どちらが早く殺せるか競争だっ!』って言っていた」


「やるじゃんきーちゃん。惚れ直しちゃうかも。すごーい!」


 すごーい!……。因果応報剣フィードバッカーが強奪されてしまったという不慮の事故は黙っておこう……。大事なことなので心の中で二度誓いました……。


「それにしても双子剣オールフォーワンは何となく分かるとして、”一刀遣いワンフォーオール”ってどんな能力だろうね? 普通剣って1本で使うものだから“一刀遣い”とか言われてもイマイチピンとこない」


「んー。ミミも調べてはいるけど“一刀遣いワンフォーオール”についてはあんまりくわしい情報がないから分からないんだよねー。辻斬りが趣味のドワーフのアラフィフおっさんっていうくらいしか情報はないよ」


「なんかいろいろ最悪の組み合わせだな……。一刀を詠うくらいだからなんとなく“剣の道を極めた古兵ふるつわもの”的な感じを想像していたけど違うのかな? 正統派の相手ならば僕の得意とする領分なんだけど」


「あはは。確かに正統派の相手は姑息なきーちゃんにとっては相性のいい相手だね。じゃんけんのグーに対するパーみたいな。

教会の図書館で過去に彼が殺めた人間の検死報告書なんかも読んでみたけど、普通にズバッと斬り殺されただけで、死体にはこれといって特徴はなかったらしいよ」


 想像通りなら敵は僕の得意な相手っぽいな。あとはベオウルフよりも早く相手を暗殺することを考えよう。

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