第三章17 『正義の英雄――桐咲 禊』
桐咲さんのおかげで全員なんとか生き残ることははできた。でも――改めてこの礼拝堂を見回すと本当に酷い状況だ。桐咲さんが助けにきてくれていなければ、俺たちは死んでいた。命があることだけでも感謝しなければいけない。
「桐咲さん。本当にありがとう……。言葉で気持ちを全部あらわすことなんてできない――だから今後の俺の長い人生で、行動で返していくよ。俺にはあの化け物を倒すことなんてできなかった。守るということの本当の意味を理解していなかった。そんな俺が偉そうに神父なんてやっていたなんて恥ずかしいよ」
俺のような馬鹿な人間が騙し騙しでもやってこれたのは、ティアが村長として村の皆への丁寧な対応、ストラが近隣の街や村へ折衝していたからだ。俺なんて
その能力も失われてしまった。
でも、桐咲さんが幸いにしてこの村に移住してくれた――。この先俺が生きている間は可能な限り彼に恩を返すために頑張らなきゃいけない。
それが、命を救ってくれた者に対しての最低限の義務だ。
「俺が弱かったせいで、ティアや、ストラを守ってやることができなかった……。恐ろしい想いもさせたし、酷い怪我を負わせてしまった」
俺が……あのとき、桐咲さんと同じ力を持っていたならば……。ティアが視力を失うことも、ストラが両腕を失うこともなかった……。
『守りたい』という気持ちだけでは、まったく意味がないんだ。桐咲さんのように『守る事ができる力』が必要だったんだ。
そう。理不尽な暴力から大切な人たちを守ることができる力が必要だったんだ。
「桐咲さんは違ったんだ――。自分の命なんて損得勘定に入れずに、俺たちを救うためにフランシスの
俺は――救世主なんていないと思っていた。
だけど、本当は違ったんだ。
「俺はこの世に善意の正義のヒーローが存在するなんて信じていなかった。だけどそれは俺の勘違いだったんだ。弱者を助ける正義のヒーローがいることを信じられなかった。だから……俺は正義のヒーローをあきらめてしまっていたんだ。バカだよな」
俺達が殺されそうになった瞬間……。
桐咲さんは俺たちを守るために
この礼拝堂にあらわれた――。
あの姿はまさに正義のヒーローだった。
馬鹿な俺が諦めていた――本物の英雄。
俺ばっかりぺちゃくちゃ喋ってる
みたいでちょっとだけ恥ずかしい。
英雄は無駄なお喋りはしないのだ。
冷静になった今……。
俺にはそれが分かる。
でも、桐咲さんもあんなに力があるのなら、もっと村の生活の時にアピールしてくれたら良かったのに……とか浅はかなことも考えてしまった。
でも、違うんだ――。
本当のヒーローっていうのは不必要に自分の力を誇示するようなことはしない。村に住んでいた時も桐咲さんは普通の青年に思えないくらいに力を隠していた。
本当に必要な時にしか力を行使しない。
――それが本物の英雄というものなんだ。
フランシスという男は自分の主張を通すために力を誇示した。だけど桐咲さんは自分の力を隠して、本当に困った人を助けるときだけその力を行使するのだ。
それが正義のヒーローなんだ。
そんなこともわからなかった俺は
本当に救いようのない馬鹿だ。
「俺も、ティアや、ストラの命まで背負ってあのフランシスという男を止めるために戦ったんだ。だけど、それはきっとただの俺の独りよがりだったんだ。本当の正義のヒーローは、桐咲さんのように弱者を理不尽な暴力――悪から守る事ができる力を持つ人のことをいうんだ」
「違うよ――。プルートさん。僕は正義の英雄なんかじゃない」
自分自身を正義のヒーローと名乗るなんておこがましいと考える。桐咲さんはそういう謙虚な人だ。
だからこそ俺や、ティア、ストラ、この村の皆だけはそんな彼を理解し、孤独な道を進む
――そうでなきゃ救われないじゃないか。彼は一人だと自分のことを厳しく律してしまう。そういうストイックな彼も格好いいけど、俺たちが
「だから俺は成るよ! どれだけの時間がかかるか分からない。俺だけでは無理かもしれない……。だけど、俺には――桐咲さんが救ってくれた俺の親友のティアと、ストラがいる。俺は3人で一緒に強くなるよ! 恩返しが何時できるのかなんて分からない。だけど……今日の恩は絶対に返す! いつか、桐咲さんの強さに並べるように――俺も正義のヒーローになれるように頑張るよ!」
「僕はプルートさんのような心をもった人間になりたかった――」
――桐咲さんは、俺を慰めるためにだろうか。無言で俺の腕をたぐりよせて俺を力強く抱きしめる。同性から抱きしめられるなんて普段は嬉しくないけど……。
でも俺のあこがれる桐咲さんなら……さすがにちょっとだけ照れるけど、素直に嬉しいと感じる――でも、あまりにも感極まりすぎたのかな――。
――胸が……酷く……熱い。
あぁ……視界もぼやけてきた気がする。
はは……今更……疲れがでたのかな。
抱きしめている桐咲さんの肩越しに
ストラが駆けつけてくる姿が見える。
何か慌ている……大きな声で叫んでいるような気がする。けど何を言っているのかストラの言葉が聞こえない――。
聞こえているはずなのに脳がそれを拒否する。
きっと友達想いのストラのことだ。俺が想像以上に疲れているのをみて心配して駆けつけてきてくれているんだね。
ストラだって両腕を失って大変な状態なのに……。そんな自分よりも俺の体のことを心配してくれる。ストラはそういう優しい奴なんだ。
ストラの叫び声に呼応するように――ティアも涙を流し何かを叫んでいる――だけど、なぜだかその言葉が聞こえない……。叫んでいる言葉を理解できない。
ティアも辛いことから解放されて……感情が堰を切ったのかな。俺が弱っちいせいでティアには本当に辛くて怖い想いをさせてしまったから……。
ティアの涙は一番最初に俺がぬぐってあげなきゃいけないのに……。情けないけど俺には……もう……できそうにない。
ティア……の泣き顔なんてみたく
……ない……のに。
ははは……でも……困ったな。
酷く眠い……。
でも……なんでだろう?
嬉しいはずなのに……。
嬉しくなきゃおかしいのに……。
なぜだか……とても悲しんだ。
なぜだか……さっきからずっと、
……涙があふれて止まらないんだ。
こんなみっともない顔は
きっと桐咲さんに抱きしめて
もらったことが嬉しいからだ
……俺は今度こそ間違わない……。
俺は、ティア、ストラ、桐咲さん、
村のみんなと……最高の村……を作……。
―――――――――――――――――――
異世界転生者プルートの心音停止を確認
おめでとうございます
「
「
「
―――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます