第三章14 『三千世界に真の理を』
「クソが……よくも私の顔を。『美の本質』を世に布教させるための装置として貴様だけは生かしてやるつもりだった。だけどもう貴様は必要ない」
「おまえが俺の記憶のどんな
「俺の故郷は食料の蓄えが少ない。ひとたび戦争がおきればその少ない蓄えまで召し上げられる。だからやせ衰えて餓死する奴も多かった。生きるために子が親の死肉を食らうようなこともあった」
「あとは弱者が強者に蹂躙され、戦争に負けた村の女が奴隷として扱われる……か。確かにそりゃ地獄だよ。だけどなあ、温室育ちのお前が知らないだけで、この世界でもそんな
――苛立ちながらその感情を言葉に表すことができずに沈黙を続ける
「おまえはなぁ……。俺の故郷の誰かに似てる気がしたんだよ。それがずっと俺の頭の中に引っかかっていたんだ。おめーは村の駄々っ子のガキと同じだ。いい年してんのに8歳のガー坊とかわらねー駄々っ子のクソガキだよ」
「戯言を――。貴様にはわたしの価値観を世界に広める拡声器としての利用価値があると思ったから活かしていただけだ、こんなに腐りきって穢れて醜悪な心を持つ貴様には、美の伝道師とは認められない。ここで醜悪なままで朽ち果てろ」
「さっきまでは、随分と余裕かまして大物ぶっていたけど随分とキャラ崩壊してんじゃーか。ちゃんと最後まで『プルートさん』って敬称付けろよ。余裕がなくなると言葉まわしの一貫性がなくなる奴って、なんっつーか雑魚っぽいぜ」
フランシスは怒りに任せて短剣を振るう――。
フランシスが冷静な状態であれば絶対に外すことのない神速の一撃、だがプルートはこれを四つ足を広げうつ伏せになることで
「この戦闘の最中に、お友達の介護とはずいぶんと余裕があるんですね」
「わりいなストラ。お前の腕使わせてもらう」
ストラは冷静さを取り戻し。
決意と共に――強い声で言い切る。
「あぁ――ルートの好きに使え」
プルートは礼拝堂の床の切断されたストラの腕に噛みつき歯で固定し、両腕でストラの腕を握り力任せに肉を左右に引きちぎる。
その光景は骨付きの鶏肉を食らいつく地獄の餓鬼の姿に似ていた。腕の肉が引きちぎられ落とされ骨が剥き出しになる。まるで蟹の腕の殻を剥くように鮮やかかつ迅速に肉を削ぎ落す。
まったく理解のできない地獄の餓鬼のようなプルートの姿を目の当たりにしてフランシスは思わず絶句する――それがプルートの狙いでもあった。
一瞬のフランシスの筋肉の硬直を見逃さなかった。口にストラの腕をくわえたまま、四つ足の虎のような勢いで一気にフランシスとの距離を詰める。
フランシスは直線的な動きで自身へ突っ込んでくるプルートに向かって短剣を突きつける。だがそれはそもそも避ける意思のないプルートにとっては意味のない行為。
プルートはフランシスの凶刃をその身で受けとめた。あまりにも斬れ味のよすぎるそのフランシスの短剣はプルートの勢いを減速させるのには適さなかった、プルートは零距離まで接近。
骨が剥き出しになった腕を腹部に突き刺しす。皮肉なことにフランシスがあまりにも鋭利な刃物で切断したせいで、ただの剥き出しの骨が剃刀並みの鋭さを持った凶悪な刺突武器と化していたのだ。
だがそれでプルートの動きは止まらない! それを突き刺したのとは逆の手で今度は骨を叩き割るための衝撃を加える。
フランシスの内臓でストラの破裂した骨片が散らばり臓腑を食い破る。モース硬度が低く、衝撃に弱い骨に衝撃を加えればすぐに砕ける。臓腑に突き刺した状態で衝撃を加えれば
――プルートの住んでいた前世は戦争の絶えない世界であった。
戦場に無数に散らばる武器の活用、死骨を使った即席武器を活用する技術が発達していた。前者の闘い方を
「確かにお前の指摘する通りだ。綺麗ごとばかりで自衛の手段を伝えていなかった俺にも問題がある。お前のような精神薄弱なクソ野郎にここまで追い詰められたのは『理不尽な真実』の存在を教えず人間のよい側面だけを教えていたから、お前のような害虫の存在を許してしまった。その点に俺の責任があることは認める。だから――」
――プルートはすっと深呼吸をする
「だから俺はここに宣言する。この
――
プルートの頭上から光が天へと向かう。フランシスによって築かれていた絶対の隔絶領域である
届いた光が空にぶつかると円を描くように爆発的に拡大。村全体をおおう大きさの電子回路を空に形成する。
プルート自身の転生前と転生後の間に培った、その全人生を5000人の村民全員と、10000頭近い魔獣の頭脳に追体験させる。つまり――この瞬間に15000人がプルートと同じ能力を得たに等しい。
その投影された情報の中には現在のこの礼拝堂の光景も含まれる。
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