第三章5  『廃村に移住して早2年』

 ティアのナイスアイディアをもとに作られた学校ができてから早一年。


 なんとこの村はザナドゥお墨付きの多種族が共生するモデル都市として補助金を貰ったり、税金が免除されるといった破格の待遇の村に急成長していた。


 村の人口も現在は5000人にまで成長している。

 村としてはかなり大規模な方である。


 ぶっちゃけ廃村を勝手に占拠して再開拓して居座っていたので、そのうち追い出されるんじゃないかとヒヤヒヤとしていたのだ。なのでザナドゥからのお墨付きを得られたのは大きい。……ましてや特別待遇など想像もしなかった。


 これも全て対外的な折衝せっしょうをしてくれているストラのおかげだ。


 来年発行される最新の地図にはこの村も正式に追加されるようである。地図に正式に名前が刻まれるというのは、正式に国から認められることを意味する。


 この廃村に3人で移住して2年。

 転生前では信じられないような

 毎日が忙しく、そして楽しい日々だ。


 もちろん魔獣を村に移住させたり、多種族のスラムの人間を受け入れたり、学校を作ったりといった、非日常が刺激的だったという理由もある。


 だけど、ティアとストラと一緒に過ごせたことに比べればそんなことは些末さまつなことに感じる。3人一緒なら何もなくても幸せだっただろう。


 異世界転生で一番恵まれていたのは親友に出会えたことだ。転生時にタナボタで得た投影アップロードなんというのはおまけみたいなものだ。


◆◇◆◇ 

 プルート邸、村設立二周年パーティーにて


「ルート。この2年間本当にあっという間だったなー。まさかルートが神父と呼ばれるようになるとは――。最初は違和感あったけど今ではそこそこ似合ってると思うぜ!」


「つーか、それはストラが『宗教を広めるなら教師の肩書よりも、神父と名のった方がいいと思う』っていう提言に従っただけだぞ。正直申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、それなりに真面目に職務を全うしてるつもりだよ」


「あはは。ルー君は出会ったころから本当変わらないね。宗教の普及についてはザナドゥの人達もルー君の功績はかなり評価されているみたいだよ。ルー君が法衣ほういきている姿は最初は最初は笑っちゃったけど、最近は神父感でてていい感じだよ!」


 ――俺は話の脈絡なくティアのおっぱいを凝視している。特に意味はないけど。クセになってんだ、ティアのおっぱいを凝視するの。


「ティアありがと! 聖書で学んだだけの独学だし布教の仕方だって投影アップロードの能力を使って知識を投影している反則だけど、褒めてもらえるのは嬉しいよ」


 ティアはこの2年間の外見の変化はポニーテールをおろしてロングにしたことだ。俺はポニーテールも好きだけど、女の子らしいこの髪型も好きだ。


 と、髪型を心の中で褒め称えつつ、視線はティアのおっぱいに引き付けられる。――恐るべき万有引力。


 なお、俺の露骨なおっぱいへの視線ガン見についてはこの2年間ティアから直接つっこみをくらったことはない。


 なんというか奥ゆかしいというか、うん……素直にいい子だと思う。俺の視線があまりに露骨だとたまにストラからテーブルの下で軽く蹴られたり、肘で突かれたり、咳ばらいをされたりするが、基本的には黙認されている。


 ―――まぁ。


 おっぱいを凝視してるのも、これは言いにくいことなのだが、実は照れ隠しみたいな感じもある。俺はティアの顔を直視できないのだ……。ティアと目と目があうと思わず赤面してしまうのだ。


 だから、自然に視線が顔から

 下に向くという事情もある。

 目と目をあわせて話せないのだ。


 ――さすがにこれはドン引きされるので、ストルにもティアにも悟られないようにしなければいけない。


 男として情けない気がするしな。

 それなら下心が露骨な

 奴という印象の方がまだ冗談で

 済みそうだ――いや、済むのか?


「ストラも凄い成長したよな。元来のコミュ力の高さを活かして、住民の誘致とか近隣の村や街との折衝せっしょう等々、お前じゃなきゃ絶対無理。正式に村として認めてもらえたのもストラのお手柄だよ」


 ストラの緑の瞳を見据え、2年間の感謝をねぎらう。――さすがに、俺も同性のストラと目をあわせられないほどのコミュ症ではない。

 

 金髪、長身、緑の瞳、気さくな人格と同性の俺でも魅力的だと感じる好男子だ。まぁ照れもあり本人の容姿を直接褒めたことはないが。


「ルート。お世辞でも嬉しいぜ! それにしても村も大きくなったよな。最初は3人とコボルトしかいなかった村が、今では5000人も住民が暮らす街になった。村が円滑に機能しているのは、村長のティティのおかげだな」


 ティアが村長になってくれたおかげで女性の住民も安心して住めるようになったし、女性らしいきめ細かな対応をしてくれるので住民からの評判も極めて良い。


「わたしが村長だなんて申し訳ないという気持ちだよ。今も勉強中。それにしても、ルー君の能力のおかげで魔獣を含めて村民が全員簡単な魔術なら使えるようになったのは画期的だったね! 簡単な怪我なら治せちゃうし生活がだいぶ楽になったみたいだよ」


「そだな! 今では料理に火の魔法を使ったり、洗濯に水魔法をつかったり、ちょっとした怪我なら治癒の魔法で治しているね。

そのせいかせっかくこんな田舎に移住してくれたお医者さんが暇をしているという新たな問題も発生しているが、これは今後の課題だな」


「移住希望者も本当に増えたのは嬉しい悲鳴だな! ルートの頑張りのおかげだ。そーいえば、昨日移住してきた住民の中にハーフリングの幼女をおんぶしている変わり物がいたな。

なんかさ……微笑ましい姿だったよ。ハーフリングの子は体が弱そうな感じの子だったから村のみんなが生活をさりげなくサポートしてあげる必要があるかもな」


「ハーフリング族か。かわいい種族よね。この村にはいろーんな種族の子が移住してきているけど、ハーフリング族の子が移住するのははじめてね」


「昨日移住してきた人間で言うなら、絵描きの人もなかなか印象的だったよな。フランシスさんだっけ? なんというか神秘的な感じで芸術家だなーって感じだった。この村を絵に描いてくれれば興味をもってくれる人も増えるかもね」


「そうだな! 明日の洗礼――という名のこの村の説明会オリエンテーションにその子達も来るそうだから楽しみだ。みんなに気に入ってもらえるように頑張るよ!」


 ――まだこの3人は知らない。その新たに訪れた移住民の中に後にこの村に災厄をもたらさんとする者が含まれているということを

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