第三章4  『村を発展させよう』

 スカウト方針を決めてから1週間。ストラは移住希望者のスカウトに奔走した。金髪緑目の長身というストラのハイスペックな容姿はスカウトマンとして適任だったようだ。


 正直こんな辺鄙な村に来る物好きなんていないと思っていたが、人族だけでなくエルフやウサ耳獣人娘といった多くの女性移住者をこの村に移住させるという偉業を達成した。


 ――単純に俺が亜人が好きなだけだが……。対外的にも多民族が集う“移民の街“というのは評判が良さそうではある。


 街の人間もストラのスカウトに気づいていないわけではなかったのだろうが、スラムの孤児が減ってくれるのは街の利益にかなうのでお目こぼしされていたのだ。


 街の厄介払いをしてくれるボランティア程度の認識だったのだろう。


 ◆◇◆◇

 ストラがスカウト活動から帰ってきた後


「ストラ。街でのスカウトお疲れ様! というか実際にこの街に移住したいという人間が居ることにまず驚きだ」


「ありがとルート! お世辞でも嬉しいよ。ちゃんと説明したらリスクを理解した上で、前向きに検討してくれる子はわりと多くて助かったよ。声かけた子にぐーぜん胸の多い子が多かったからルート的にはラッキーだったな」


 ――やはり持つべきものは(性癖を)理解する友である。……と冗談はともかくとしてこれほどすんなり賛同者が出たのは、ストラのコミュニケーション能力と容姿があってのことだろう。本人は無自覚なので教えてあげるつもりはないけどね!


「お……おうありがとうストラ! ちなみに魔獣が村の中を歩き回ってるってことに引いている子とかいなかったの?」


「最初は驚いていたけど、説明したら理解してくれよ。スラムで暮らすよりは危険と隣り合わせでも自由が欲しいというところだろうね」


「ところで想像以上に希望者が多かったんだけど、家の数足りるかね? 新規の移住者向けに廃村の家はリフォームしたけど、元々あった家だけでは全員を住まわせることは難しそうだ。新規に家を建てるとなるとなかなか大変そうだぞ」


「そうね。トラ君のの言う通り手狭になるから、家の増築は急務よね。明日以降にオークとコボルトに手伝ってもらって、家作りを急ごっか!」


「そうだな。畑仕事はコボルトがやってくれるし、オークが森からくだものとか山菜をたくさん取ってきてくれるから、食糧面では問題なさそうだしね」


「水の問題についてもコボルトに井戸の作り方を投影アップロードしたら、自発的に井戸を作ってくれるようになったから水で困るようなことはなくなったしね。魔獣は意外に勤勉で驚くよ」


「街と比べたら不便だけど最低限は村としては機能してきたと思っている。そこで新しく移住した人たちが学習する場所。そう学校を作りたいと思っているんだけどどうだろう?」


 ――転生前の世界地獄ジュデッカで憧れていた職業。それが学校の先生だ。貧しい農家の家だったので、先生になるなんて夢の夢ではあったが、異世界でこの夢が叶えられるのであれば、これ以上に嬉しいことはない。


「そりゃ面白いねー。ルートが先生なら投影アップロード使えば大勢の生徒に知識を一瞬で理解してもらえるわけだからこれ以上ないほどに効率的だよな。でも肝心のルートが知識がないといけないから、今日からガッツリ勉強漬けだな」


「ティアが家から持ち出した、学術書、初球魔導書、百科事典暇つぶしに読んでたけど、役に立ちそうで良かった。投影アップロード頼みではあるけど、自分の勉強したことを他の人に伝えられるっていうのはいいね」


「村人も増えるし大変だけどルートがんばれよー!」


「おう! だけどまずは学校よりも住む場所を確保するのが重要だ。移住者のための家造りを最優先でおこなわなきゃな! その間に今までよりも一生懸命俺も勉強するよ」


 ストラのイケメンとコミュ力の力で、スラムからいろんな種族の人間が移住してくれた。これで、人間と魔獣の共生する最低限の下地ができたわけだ。


 俺の前世の夢でもあった人間――エルフ、人族、獣人、ドワーフ、鬼族、そして魔獣も分け隔てなく学べる学校の創設を作りたい。


 学校の設立に当たって二点課題があった。


 第一の課題は、100人くらいが入れる平屋の教室を作る必要があること。村人である人族、魔獣が一緒に学べる場所が必要だったからだ。


 俺の投影アップロードの同時に情報を投影できる限界人数が100人程度だという理由もある。投影アップロードの対象とする人数が増えれば増えるだけそれなりに集中力を必要になるのだ。


 100人程度が入る教室を作ること自体は魔獣の助けがあれば、それほど大きな問題ではない。第二の課題は俺だ。現時点では人に物を教えるほどの知識はない。


 転生前の世界でも学校に通うことができなかった農夫だったので、いままさに勉強中という状況だ。朝から晩まで勉強して知識を頭に叩き込んでいる。


 俺が勉強さえすればその村の住民の知識レベルを一気に上げられるのだから、これは非常に意義のある行為だと思っている。


 それに、単純に勉強するということは、前世の俺では果たせなかったことでもあり、単純に楽しいことなのだ。


 ◆◇◆◇

 とある日の夕方プルート邸にて


「ルート。この村も大勢の住民が生活するようになってきけど、住民が増えるにつれ、細かないさかいも増えてきた……。この村は多種族の人間、魔獣、といったように文化や価値観の異なる人たちが集まっている村だ、だからちょっとしたことで喧嘩の火種ともなる」


「トラ君の言う通りね。昨日の出来事だけど獣人の子が、エルフの子に対して”耳長”とかいって馬鹿にしている子をみたわ。エルフにとっては冗談で済まない差別用語らしいのよね……。

たまたま目撃したから声をかけて止めたけど、多種族が共生するためには、このあたりのお互いの気遣いは必要だと思うの」


「ティティの懸念も最もだ。その一点だけだったらまだ笑って済ませられるけど、今後もっとそういうトラブルが増えそうだ。そのあたりの調整は俺とティティがケアしよう」


「そうね。例えば村で宗教を広めるのはどうかな? この村オリジナルの新興宗教とかだと危ない感じけど世界で一番普及しているのなら無難ね。同じ神を信仰する者同士であれば仲間意識を持ってくれるかもしれないとおもうんだけど。ルー君どうかな?」


 ――ティアのおっぱいに気が取られて頭が飛んでいた。


「ん……。全然思いつかなかったわ。さすがはティアだ。それ、めっちゃ良いアイディアだと思う! 共通の信仰対象があれば多種族間の協調も捗りそうだね」


 もし魔獣にもそれが適用できるのであれば、善行、慈愛、正義といった人間の価値観を理解してもらうことで、魔獣のありようも変える事ができるのではと思ったからだ。


 人間同士でも種族によって価値観が異なるため、共通の信仰を持つことは意味があることだ。


「私もこの村に移住したみんなが共通の価値観を持つというのは争いを避けるにはいい方法だと思う。どれだけの効果があるかはわからないけど、やってみる価値はあると思うの」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る