第三章3 『魔獣と廃村を開拓しよう』
ティア、ストラの3人でスラムから出て、一昼夜歩くことで新しい移住の候補地としていた廃村までたどりついた。そこで大きな問題が発生した。
まず、移住先であるこの廃村だが――ゴブリン達の根城になっていた。人が住まなくなったこの廃村は魔獣たちにとって格好の住処だったのだ。
ゴブリン程度であれば、転生前の
「ルー君。あの人数のゴブリンを倒すのは難しそう。食糧も限られてるし、引き返すなら今がいいかも」
「そのまえに試してみたいことがあるんだけど。ゴブリンの天についてティアは何かしってる?」
「コボルトとかがそうかな? 体格や食べるものが似ているから生息圏が重なっているから互いを天敵視している関係ってきくけど……。それがどうしたの?」
「俺の
まず1つめ。情報を一方的に提供することができるだけで、テレパシーのように双方向で意思の疎通ができるものではないという点。俺の脳内情報を直接送るので相手には俺のことが分かっても、俺には分からない。表情や反応をみなければいけないのだ。
2つ目。転送する情報を虚偽の情報を伝えることはできないということである。虚偽の情報を転送して相手を混乱におとしいれるというような用途では使えない。
3つ目。知識や情報や感情について相手に正確に転送することはできるが、その情報をどのように解釈するかについては相手側次第。
洗脳とは違い100%の確度で俺の脳内情報を投影することができるが、その情報をどう捉えるかは受け手側である。相手の意思を捻じ曲げて強制的に何かを実行させるというようなことはできないのだ。
具体例として俺たちが、廃村をゴブリンから強奪した時の話をしよう。
この世界の比較的知性の高くどこにでもいる魔獣は、ゴブリンとコボルトだ。2種族ともに同じ程度の知性、同じ程度の身体能力なのだが、この2種族は狩場や生活圏が重なりあうため、お互いがお互いを天敵と認識している
ゴブリンに占拠された街の奪還の際にはコボルトの力を借りることとした。
魔獣相手の交渉なのでいろいろ難航したのだが、説明すると長くなるので割愛させてもらおう。
最初は能力のようだが、ゴブリンの住む廃村に案内して、直接ゴブリンの住処を目にした時には俺のことを味方であると確信してくれたようだ。
その後のコボルトの手際は鮮やかだった。コボルトの群れは、ゴブリンの寝込みを襲撃して殲滅した。このようにして、急遽結成された、人族と魔獣の連合軍による初の共同作戦が、無事に作戦を遂行することができた。
――この廃村復興のため魔獣と、人族が協力しあった最初の一歩であった。
◆◇◆◇
とある日。3人で夕食会にて
「ルー君の能力を使って、農耕知識をコボルトに学習させる事はできる?」
「試したことないけど、面白いアイディアだ。あいつらにとっても食糧事情が改善されるのはメリットのあることだからな」
そういった経緯もあってコボルトに畑の耕し方、農具の使い方といった農業に必要な知識をコボルトに
狩りから農耕に移行する様子は人間の進化の歴史のようで面白い現象ではある。このまま代を重ねれば人間のようになるのであろうか、なんて想像をした。
「ルートいいねー! 俺たちの代わりに魔獣が労働力として働いてくれるのは助かる。 この土地の土は痩せ細って堅いから俺たちだと耕すのはしんどすぎるからな……。この村が廃村にされた理由も分かるというものだよ」
「いやいや。ティティアのおかげだよ! サンキューティア!」
サンキューおっぱい
「どういたしまして! コボルトって私には何考えてるか分からないけど、言葉が通じたらもっと楽になると思うの。ルー君の言語知識をコボルトに
「考えたこともなかったな。おし! 試してみようか。それも革新的なアイディア。さすがおっぱ……ティア! うまくいくかは分からないけどやってみる!」
コボルトに言語知識を修得させるのは楽だった。ただ、人間と同じように話せるようにはならなかった。おそらく脳の作りもあるが、声帯の構造の違いが原因と思われる。
彼等は言語ではなくジェスチャーでコミュニケーションを取っていたので、声帯が発達していないのだ。
コボルトと俺とのやりとりはこんな感じだ。
――――――――――――――――――
「ジャガイモを収穫してきて」
「ワガッダ…イモトル」
「雨が降りそうだから農具を小屋に片づけて」
「アメ…ノウグ…カタズゲル。ワガッダ」
――――――――――――――――――
短い指示であれば理解してくれるようになったので、ティアと、ストラもコボルトに対して指示が出せるようになった。アイディアを出してくれたティアだ。おっぱいがでかい子はあたまが悪いという通説があるが、あれは迷信だな。
まある日。この村の軍師ティティア殿からこんな助言があった
「木を切り倒したり、運んだりするのは小柄なコボルトでは大変みたい。例えば、力の強い2足歩行の魔獣を村に移住させてみるのはどうかな?」
こんなことを。ポニーテールの少女は言った。
「ルート。たとえば、森の番人と呼ばれているオークを移住させてみるっていうのはどうだ? 凶暴そうだけど草食性で魔獣のなかでは比較的知性が高い魔獣だと聞いたことがあるよ」
ストラは結構物知りなのである。
「おお……! それは良いアイディアだね。さっそく交渉に行ってみる」
◆◇◆◇
あとは、オークの住む森に3人で訪れて交渉に臨んだ。この辺りはコボルトを移住させた際のノウハウが大いに役立った。
体格の小さいコボルトと違いオークは木を切り倒したり、材木を運んだり、暖を取るための薪割りをしたりという力仕事全般をこなしてくれた。大きな岩をどかして障害物を撤去してくれたり、材木を運んだりしてくれるので街の発展に大いに役立った。
◆◇◆◇
「ルート。コボルトとオークのおかげで、だいぶ街っぽくなってきたな。ただ、家を作ったり、服を作ったりという細かい作業はやっぱり人間じゃないと難しそう。移住希望者を募ってみたらどうかな?」
「ストラ。それいいアイディアだな! だけどこんな
「それなら俺たちが住んでいた街のスラムの子とかに声をかけてみるのはどうかな? 俺たちみたいにあのスラムで暮らすくらいなら多少危険でもこの村に移住しようと思う奴らも多いと思う」
「それは良いね! スカウトはコミュ力高いストラにお願いするよ。とはいえさすがに無条件で移住させるのもリスクがあるから、スカウトの条件を決めておこう」
「おーけー!」
「まずは、ガラが悪くないこと! これは街の治安のための必須条件」
「名案! 山賊みたいな奴らが大挙したら乗っ取られかねないからな。で次は?」
「スラムの中でも特に困ってそうな人であること。単純に人助けにもなるし、移住先のこの村でも頑張ってくれるはず」
「そうだな! ルートやティティがスラムからここに移住したのも同じ理由だからな。了解了解! 他にもある?」
「種族は問わず受け入れること。条件さえ満たしていれば獣人も人族もエルフも差別せずに移住させよう」
「おーけー! 特に人族に限定する必要はないっつーのは俺も同意だよ」
「あと、これは可能であればで構わないのだが……おっぱいがでかい子をほんのちょびっと優先度高めでスカウトすること。ほんのちょびっとだけな。これはストラの仕事に対するモチベーション向上に関わることでもある」
「……。なんか責任を俺に圧しつけてるけどさ。俺、別に巨乳派ではないんですけど!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――後半のやり取りはもちろん冗談だが、そんなやりとりを一時間ほど続けて、移住民のスカウト方針と、ストラのスカウト活動が始まったのである。
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