第三章2  『おっぱいを覗く時、おっぱいもまたこちらを覗いているのだ』

 この異世界でめぐりあった親友は二人。赤髪ポニーテールのおっぱい少女ティア、金髪ショートのお調子者がストラだ。


 俺たちが住んでいるとこはザナドゥという国のその一角にある小汚いスラムである。普段は3人で手分けして残飯を漁ったり、ゴミ箱で拾った値打ちのありそうなガラクタを売ったりしてなんとか食いつないでいる。


 ティアのおっぱいは大きくかわいいが、スラムで花売りエアリスをさせるようなことはさしていない。そんな仕事は俺もアストラも認めない! 俺たちは貧してもそこまで鈍していないのだ。


 俺、ティア、ストラ。

 3人とも全員奴隷階級である。


 奴隷階級の人間はどうやって生きるのか? 


 この世界の奴隷階級の人間が

 生きていく方法は大きく別けて2つある。


 まず第一の選択肢は、自分自身に値札をつけ商品となる方法。奴隷階級としては最もメジャーな生き方ではある。人間としての自由が奪われる代わりに最低限の生活は保障される。――所有者によってはそれすら望めないかもしれないが。


 この異世界においても人間を買うというのは安い買い物ではない。ヤギや牛を買うのとは違うのだ。なので、所有物である奴隷を飢え死にさせるような所有者も少ないので少なくとも餓死するようなことは少ないようだ。


 ただ、それはただ餓死しないというだけの話である。


 男は朝から晩まで馬車馬のように働かされるし、女性は更に独身男性に買われた場合、当然のように夜の相手を求められる。男女ともに過酷な生き方ではある。


 もう一つの選択肢は、盗賊団や山賊団やフリーランスの傭兵に属し、窃盗や犯罪や戦争など、物や人の命を奪う側に回る側になるという生き方だ。


 ある程度人間としての自由はあるが、国からもギルドからの庇護からも外れ、常に死と隣り合わせのような生活を送らなければいけない。それに少なからず非倫理的な行いを甘受かんじゅする覚悟をしなければならない。


 俺は、多少なりとも戦闘の心得はあるので本当に餓死するような事態まで追い詰められたら、フリーランスの傭兵として生きるという生き方も考えられなくはないが、ストラはともかくティアは傭兵として働くのは無理だ。


 俺がフリーランスの傭兵として生活費を稼いで二人を養うことも考えてはいるが、まだそこまでは追い詰められてはいない。それはあくまでも本当に最後の手段だ。


 3人で今の生活を続けるためには、別の生き方を探らなければいけない。とはいってもなかなか当意即妙に良いアイディアが浮かんでこないのが辛いところだ。


 現状の俺たちはまだこの2つのどちらの道も選んでいない。残飯を食べて空腹を凌いだり、ゴミ捨て場で掘り出し物を見つけて売ったりといった感じでなんとか生きてはいけているが、さすがにジリ貧で選択の先延ばしにしかなっていない。


 この困窮した事態について口火をきったのはストラだった。


「ルート、ティティ、このままじゃ俺たち餓死しちまうぜ。かといって正式に奴自分に値札付けて奴隷になるのは嫌だし、山賊や盗賊になるのは最悪だ。どうしたものかね。3人で食っていく方法ないかな」


「ねえねえ。ルー君、トラ君。たとえばだけど、このスラムを出て他の村に移住するっていうのはどう?」


 さすがはティア。良いアイディアではある。

 俺は転生後はこのスラムから出たことが

 ないのでその点が心配ではあるが。


「俺、実はこの街の外に出たことがないから他の村のこととかよくわからないんだよ。それに奴隷階級の俺たちの移住を許してくれる村があるかはちょっと疑問だ」


「へー意外。ルー君この街を出たことがないんだ。なんとなくだけどいろんなところを見たことがあるようなイメージだったから」


 金銭的にも精神的にも余裕がなかったし。正直ティティとストラと居るのが楽しくて外に出ようという発想が湧いてこなかったのだ……。


「力になれなくてごめん。俺はこの街しかしらないんだよ。ティアは他の街のこと知っているのか?」


「私はちょっとだけなら知ってるよー! 私はもともとはこの街と違うところで両親と暮らしてたんだ。私の両親はダンジョンで死んじゃったんだけど。

 両親の死後はヤクザ者っぽい人たちが家にきて家財道具を売り払われて、私も奴隷として娼館に売られそうになったところをギリギリ逃げのびて辿り着いたのがこのスラムっていう感じだよ」


 ティティアの話を眉間にしわを寄せてまじめに聞きながらも。自分の遺志とは無関係に視線が少女のその形のよいおっぱいに引き付けられる。


 これは万有引力の法則という

 質量をもつすべての物体の間に

 働く働く絶対の法則だ。


 男の眼球はおっぱいが放つ引力に

 逆らうことはできない……。


 目の前のポニーテールの少女が

 少し恥ずかしそうな顔をしている

 気がするが……。きっと気のせいだ。



 ――おっぱいを覗く時、おっぱいもまたこちらを覗いているのだ



 そんなことを考えていると、少女の顔がだんだん紅潮していくような気がした。さすがにガン見しすぎたせいか、空気を読んだストラから目の前のポニーテールの少女に気付かれないくらい軽くひじてつをくらい正気を取り戻す。


 危ない危ない…。アストラが助けてくれなければ、あやうく深淵おっぱいにのみこまれるところだった。


「ティティも波乱万丈な人生を送っていたんだなぁ…!」


 涙もろいアストラがよよよと涙目をぬぐう。良いやつだ。あと俺の暴走をさりげなく止めるあたり人としてできてるよな、とは感じる。


「あはは。トラ君も気にしないでよ。このスラムに住んでる皆がなわけだから、私だけが特別じゃないよ。でも逃げた先のこのスラムで、ルー君、トラ君に出会えていなければ、今頃死んでたかも」


 ティアはおっぱいをガン見した俺をとがめず、まったく視線に気づかないふりをして話を続けてくれている。いつもガン見している俺に気づかないふりしてくれて感謝である。なんともいじらしい良い子だ。


 さすがにおっぱいをガン見する癖は俺もやめたいのだけど、無意識に目が引き付けられてしまうので、その点は許して欲しい。全ては万有引力の陰謀だ。因果律そのものに対する反逆だ。


「それは俺も同じだよ。ティアとストラには本当に感謝してる。生活は苦しいけど、なんとか生きていけるのは二人のおかげだよ。俺ももっと知恵がまわれば良いんだけど」


 実際のところ。俺の異能の投影アップロードは自分自身の脳内の情報をイメージとして相手に投影することができるという微妙な能力だ。


 もし俺が賢者とか知識系の職種の人間だったならかなり使える能力だったろうが、あいにく俺の生前は農夫だ。


「そうだね。私もトラ君やルー君に出会えたことは神に感謝してる。金目の物はヤクザ屋さんに奪われたけど、百科事典、各種学術書、初級魔術の魔導書、この辺りの地域の地図とかは持ち出すことができた。トラ君、この本を使ってお金儲けとかできないかな?」


「うーん。たぶん俺たちが話してもまともに聞いてくれる人間はいないと思うぜ。ティティが話してたさっきの移住の話だけどさ、地図があれば候補地見つけられるんじゃないか?」


 ティアが取り出したこのザナドゥ国の地図を3人で見ながらあれやこれやと話し合いながら知恵熱が出るほど考える。三人寄れば文殊もんじゅの知恵というやつだ。


「昨日ゴミ箱に捨てられてた新聞を読んだんだけど、この街からギリギリ歩いていける距離のとこにヘスぺスという村があったんだけど、土が枯れ果てたり、魔獣に襲撃されたり、戦争で村長その他主要人物が死んだりと――。

 そういったもろもろの理由で、完全な廃村になってるそうだ。俺たちでその廃村を再開発して、俺たちの住処にするっていうのはどう? なんか楽しそうじゃない?」


 なんか呪われてないかその村。怖いんですけど。


「いいね! トラ君のアイディア面白そう! このままスラムに居るのはちょっと難しそう。思いきって打って出るのには私は大賛成! 3人で旅に出るのはなんか楽しそうだしいいと思う!」


 ティアにしては珍しくエクスクラメーションマークが多い。よほど移住案に賛成のようだ。


「俺も同意。だけどルートはこの街を出てしばらくやっていける方法とかは何かアイディアあるか? 俺は今のところは思いつかない」


「ある! その前にだな。俺が持つスーパー特殊能力投影アップロードについて説明させて欲しい!」


 ドヤ顔で言い切る。とはいえ、ショボい能力なので積極的にアピールするのを避けていたのだが、さすが空気の読める男ストラ。


「ルートよ。このタイミングで中二病をわずらったか? もしかして封印されし右腕とかがうずいちゃってたりしてそうだな」


「ルー君、空気読んで! まじめな話をしている時に冗談はだめだよー。急にルー君がキャラ立ちしても私どー反応したらいいか分からない……」


 本気で困っているっぽいので真面目に答える。


「急にキャラが立って申し訳ないけど。事実なんだ。それじゃ論よりも証拠。俺のスーパー特素能力投影アップロード発動!! うおりゃ!」


 自分の頭のイメージををティアとストラの頭に直接投影する。自分の頭にある情報と完全な情報を直接相手に投影することができる。


「「おお!!……なんか過大広告のわりには地味な能力だけど……凄い!」」


 二人の声がシンクロする。ですよねー。地味な能力であることは俺が一番知っている。だから切り出しにくかったんだ。


 期待値という名のハードルをあえて自分で上げまくって、そのハードルの下を華麗にくぐり抜ける男――それが俺だ。


「でもなんかすげー。ルートの考えやイメージがそのまま理解できる。文字情報や音声情報とかじゃなくて直接理解できるようになる感じ。やるじゃんルート!」


「うんうん。結構いい感じ! ルー君の能力を使って一山儲けよう!」


 ティアが具体的なアイディアはないものの儲けたいという気持ちがあることは伝わってくる。


「それじゃ。夜になったらこの街を出て、俺たち3人で廃村ヘスぺスに向かって移動開始だ!」


「「「おー!!」」」


 その夜。3人は背中に背負えるだけの荷物と保存食を背負いヘスぺスに向かった。これは俺たちが廃村を復興し国から特区として認められる以前の話である。

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