第一章11 『歴史1――旧支配者と召喚者』

 教会の受講室にて


 きーちゃんの受講している授業を盗み見中。その方法はミミだけの秘密。この世界の歴史はけっこー歪んで伝えられているから、ミミもきーちゃんがどんな授業を受けているのか気になってしまったのだ。


◆◇◆◇


「およそ今から1000年前、この世界の人間は旧支配者たちの奴隷じゃった。この世界の人間は旧支配者によって馬や牛と同じ家畜のように扱われていた」


 早速突っ込み。これは正確ではないかな……。

旧支配者はこの世界に元々いた神のこと。

人間を家畜のように扱ったというのは

ちょっと悪意が入り過ぎている気はするね。


「じゃが、全知者シオンが生みだした召喚門セフィロトにより異世界と呼ばれるこの世界とは異なる別の世界から旧支配者を打倒できる可能性を持った異界の神を召喚することによって、この世界の悪しき旧支配者を滅ぼしたのじゃ」


 全知者シオン。多元可能性世界と

この世界を召喚門セフィロトによって無理やり繋げ

この世界を創り出した存在。このいびつな

世界を創った元凶ともいえる存在。


「じゃが、ごく一部の旧支配者はこの戦いから逃げ生き永らえた。この旧支配者の血を引き継いだ一族を魔人と呼ぶ。この世界に災厄をもたらしている魔獣は、旧支配者が我々を隷属させるために使役していた眷族というのが通説じゃな」


 この世界の旧支配者の血族――魔人。

ミミもその末裔の一人なんだけどね。

ただ、旧支配者の血族である魔人と

魔獣との直接的な繋がりはないよ。


――歴史は勝者の手によって紡がれる。


 実際は元々魔獣はこの世界に存在する

原生種の生物。そもそも旧支配者でも管理

できる存在ではなかったという方が正確か。


「旧支配者を打倒した異世界からの召喚者は、多くの知識や文明をわれわれの祖先にもたらした。当初はこの召喚者たちを異界の神とよび人々は大いに歓迎した」


 知識、技術、文化――。そうだね。

でも、この世界が独自に培ったつちかった文明は、

異界の神達によって跡形もなく破壊された。


 召喚者が悪意をもってしたことではなく、

おそらく善意の行為だったのだろうけど、

1000年経った今。この世界はこの有様だ――。


 進化の過程をまるまるすっ飛ばしておいしい

所だけを甘受しているだけなんだから当然だよね。

生活の水準が向上したわけだから当時の人々が

召喚者を”異界の神”と手放しで賞賛したのも当然かな。


「異界の神が旧支配者を滅ぼしてから時は流れ、異界の神たちは自身を旧支配者に代わるこの世界の支配者を自称するようになった。そして歴史は繰り返される。旧支配者たちと同じように人間を家畜のように扱うようになったのだ」


これは悲しい事実。そして今にいたる。


「全知者シオンと彼に従う十二賢者達は、異界の神が世界の秩序を乱している事実を嘆き、異界の神をこの世界から追放し、そして召喚門セフィロトを封じたのじゃ」


 シオンっていう奴は、

旧支配者を殺すために異界から

いろんな強い人間を召喚したけど、


 旧統治者を殺した後は今度は召喚者

がシオンにとって邪魔になったから

この世界から追放したの。


――あまりに身勝手な話だよね。

追放したっていうのも言葉のあや

殺したってのが正確だろうね。

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